落ちこぼれ騎士の魔法教室

めそ

ジャパンから来た少年はニンジャになりたいらしいが俺は関わり合いたくない の書

第一章・俺は騎士だぞ、わかってんのか?

第1話 最近の流行が魔導士だからといって魔導士科を選ぶのは、なんの才能もない人間のやることだ

 王立騎士魔導士養成学校、グレナディア。その名の通り入学すれば騎士か魔導士かどちらかになるための訓練を受けることになるのだが、今の時代、少年少女の間では魔法を使えない騎士は流行らず、騎士科は魔法の才能がない落ちこぼれが入るところとされていた。


 確かに、俺には魔法の才能はない。

 しかし歴史ある騎士の家、フィッシャーマン家の跡取り息子として埋めれた誇りある人間だ。

 だからと言って『騎士の歴史1』なんていう幼稚な講義を真面目に受けるのも馬鹿らしい。

 なので、俺はよく座学をサボっては学校図書館で魔法指南書を読み漁っていた。


「なーに? アンタまた講義サボってこんなとこ来てるの?」


「それ、先輩も一緒ですよね」


 俺に話しかけてきたのは名門ロザレンズ家の長女、クリスティーヌ・ロザレンズ。二年生で、俺よりひとつ年上だ。名門貴族というイメージ通りのブロンド美少女だが、家名に誇りでも持っているのか発言に遠慮がなく、しかも人間関係を選んでいる節がある。


 クリス先輩が俺に話しかけてくるのは、単に変な奴だと思ったからだろう。騎士の講義を抜けて魔法の勉強をしているのだ。変と思わない方が変だ。


「それで、今日はどんな魔法を勉強してるのよ」


「基本のきの字ですよ。魔法の属性と初級魔法についてです」


「なにそれ」


 クリス先輩はおかしそうに笑い、手元の本に視線を落とす。


「そんなの、五歳で習ったわ」


「あいにく、俺は騎士の家でして。五歳のころは槍振り回してましたよ」


「うそ、そんな小さい時から武器触ってたの?」


 本に落とした視線をまた俺に向け、クリス先輩は驚いた表情で呟いた。


「騎士ってすごいわね……」


「普通ですよ、普通。先輩だって似たようなものじゃないですか」


「……それもそうね」


 クリス先輩は本当に面白い。箱入り娘なのか、高飛車なのか、ナチュラルに人を見下したような発言をする。これで友人が少なくないのだから、これもまたなにかの才能なのだろう。


「わからないことがあったらなんでも聞きなさい。あなたには期待してるからね」


「どうもありがとうございます」


 前に一度、なにを期待しているのか聞いたことがあるが、笑ってごまかされた。その時の悪戯好きのする笑みが忘れられないから、俺はこうして魔法の勉強に勤しんでいるのだろう。




 魔導士科と騎士科は同じ食堂を使う。騎士科の十倍以上はいる魔導士科の生徒に追いやられ、俺達騎士科は食堂の端も端、影の濃い場所で食事をとることが暗黙の了解となっていた。


 ちなみに、騎士科の近くに座るのは魔導士科の中でも落ちこぼれ、才能がある奴等の中でも才能がない奴等だ。その中でやたら俺にフレンドリーなのが、一年生のアレン。


「グーレーイー、また講義サボってクリスティーヌ様に会いに行ってたのか? スケベな奴め」


「なんだよ、別に良いだろ……あっテメェ! 俺のポテトサラダ!」


「エルボー!」


 俺の肘打ちを後頭部にくらい、アレンは食器に顔を突っ込んだ。ポテトサラダだけでなくコーンスープや小麦のパンがあたりに散らばる。食器類は鉄製なので割れることはないが、逆にアレンが怪我してしまうかもしれないので一応聞いておく。


「おい、大丈夫か」


「ふ……魔導士様を殴れる騎士はお前だけだよ……」


「まだ見習いだろ。……どっちも」


 カッコつけながら頭を上げるアレンをよそに、さっさと食事を済ませ立ち上がる。


「あ、おい待てよ。図書館行くんだろ?」


 アレンは恐ろしい速さで顔についた物まで含めて昼食を平らげると、俺を追って立ち上がる。


「俺も混ぜろよ」


「別に良いけど、クリス先輩はいないと思うぞ」


「いいのいいの、俺も魔法の勉強したいんだよ」


 急にどうしたコイツ……さてはクリス先輩にいいとこ見せようとしてるな? 恋敵にしてはおちゃらけた奴だな。

 いや、クリス先輩に彼氏がいるかいないか、そんなことすら俺は知らないんだけどな。いないと良いなあ。




 図書館はさっきよりも人が多かった。講義中でないのだから当然だろう。

 この学校は午前中に講義があり、午後は全て自由時間となる。この自由時間中に訓練場で実技の訓練が出来るわけだが、講義中に課題が出たりすると今日みたいに図書館がごった返す。


「魔導士科の三年と、騎士科の一年だな」


「なんだ、今日課題出たのか。ちょっと待ってろ」


 なにが出たか聞かないとな。

 騎士科関係の書物が多くある場所へ行ってみると、見慣れた少年の顔があった。その顔は俺を二度見し、困った顔になる。


「よう、ステン」


 無視を決め込もうとしたステンの銀髪を撫で、上から顔を覗き込む。逃げられないと察した彼は、嫌そうに口を開いた。


「グレイ……僕達、先生から君にレポートの内容を教えるなって言われてるんだ。講義に出ない奴にレポートをやる資格はないって」


「出さないから問題ないだろ。あの先生課題から試験問題を作るらしいから、それだけ、な?」


「僕が教えたって誰にも言わないでよ……」


「約束するよ。騎士の誓い立ててやろうか?」


「いいよそんなの。いちいち大袈裟だな」


 ステンから借りたレポートの問題を手帳に書き写し、汚れてないことを確認してから返す。


「じゃ、頑張れよ」


「たまには講義出なよ」


「気が向いたらな」


 アレンのところへ戻ると、本が山積みになっていた。なんだこれ?


「お、グレイ。早かったな」


「遅すぎたの間違いだろ。なんだ、虐められたのか?」


「そんなわけないだろ。俺が必要だから集めたんだよ」


「……なんで集めたんだよ?」


 見てみれば、「魔法剣士」などという絵空事についてばかり集めているようだった。


「見てわかる通り、魔法剣士になってみようと思うんだ」


「思いつきでなれたら苦労しないな」


 魔法剣士に必要なのは前線で得物を振り回し続けることができる膂力と、素早く無駄なく魔法を行使し続けることが出来る魔力と、武器と魔法を使い分けるための的確な判断力。最低でもこれらの三つは必要だ。


 騎士は武術を磨くあまり魔力を練り上げることが出来ず、

 魔導士は魔法を研鑽するあまり肉体を鍛えることが出来ず。

 ましてや武器と魔法を使い分ける判断力など、実戦でしか真に身に付けることなど出来ない。


 それは古き時代、今ほど国家間の小競り合いが活発でなく、即戦力を必要としない頃であれば才能と努力により会得することが出来たかもしれない。

 しかし、今は違う。そんな時代ではない。


 なれるなれない以前に、戦争で使い勝手の悪い存在など求められていないのだ。


「まあ、頑張れよ」


「頑張れよって……グレイも同じだろ?」


「そんなわけあるか、アホ」


 今の時代、非実現的で実用性皆無な魔法剣士になんか誰が好き好んでなるもんか。なるとしたら今俺の目の前にいるような相当の馬鹿野郎以外ありえない。


「じゃあお前、なんで騎士のくせに魔法なんて勉強してるんだよ」


「騎士のくせにってお前……教えてやんねー!」


「ギャース!」


 俺は積み上げられた本を蹴倒し、アレンを埋めた。

 しかしこいつ、随分と余裕のある悲鳴だな。

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