永遠無双 1

*このバージョンでは片目永遠は花鳥の最期の時、ゲヒルンにいたことになっています。


 花鳥を籐子や片目が花鳥の死を看取っている時、涅槃喫茶に内務省から連絡が入った。一部の職員が騒ぎを起こしているという。電話を受けた青島解脱は店内を見回す。女給姿の神屋敷龍子と目が合った。

「こんな時なんだけど、内務省でなにか騒ぎが起きてるみたいなの」

「承知しました。二人連れて行きます」

 そう言うと、みなまで聞かずに走り出す。その後を同じく女給に来ていたふたりの人形女給兵団の団員が追いかける。

「愚かなこと」

 カウンターにいた片目永遠が立ち上がると解脱を手招きした。

「ねえ。解脱さん、三番隊の人たちを呼べない?」

「呼ぼうと思えば呼べますけど、まさか内務省に行くつもり?」

「神屋敷とふたりでは無理でしょう。おそらく本屋の罠。花鳥さんが病に倒れ、ゲヒルンは中途半端な状態。この機を逃す本屋ではないでしょう」

「まあね。じゃあ、呼んでみる」

「では、神屋敷龍子の後を追います。金之助が来たらよろしく伝えてください。ただし、絶対に後を追って内務省に来てはならないと伝えてください」


 内務省の中は壮絶な有様だった。地下通路から出たところにあるホールには無数の死体が転がっていた。今も数人が争っている。スーツ姿に大刀を振り回して互いに切り合っているのだが、どちらに加勢すべきなのかわからない。

「ゲヒルンより参りました。なにが起きているのですか?」

 龍子が争っている場所に近づいて叫ぶと、ひとりは不思議そうな顔をした。おそらくゲヒルンのことを知らないのだ。もうひとりはぱっと顔を輝かせた。

「待っていたぞ! 頼む! こいつらをやっつけてくれ。突然、暴れ出したんだ。わけがわからない」

 龍子がそちらに移動しようとすると、他の者が怒鳴った。

「なにを言ってる。お前らが人殺しを始めたんだろ!」

 龍子は足を止める。どちらが言ってることが本当かわからない。

「私が本屋だ。お前らを皆殺しにする」

 さらに他の者がとんでもないことを言い出した。

「なにが起きているのだ?」

 龍子も付いてきた団員もわけがわからず、ただ殺し合いを見ているしかない。

「無効化するしかない」

 後ろで声がしたので龍子が振り向くと、片目永遠が三番隊十数名とともに立っていた。

「どういうことでしょうか?」

 龍子が訊ねると、永遠は全員を見回してから口を開いた。

「内務省の内部の者は本屋の罠に感染して互いに殺し合っている。これを止めるには動いている者を全て動かぬようにするしかない。さもないと感染していない者が殺されてしまう」

「無効化とは?」

 龍子が重ねて質問する。

「動けぬようにして治療を施す手もありますが、その時間も手間も今は無理でしょうね。残る手段は殺すことだけです。とても悲しいことですが」

 龍子が驚いていると、永遠は一歩前に進み全員の先頭に立つと右手を大きく振った。袖が空気をなぶる音と同時になにかが空気を切る音が聞こえた。次の瞬間、目の前で争っていた数人の官吏が倒れる。全員に短い矢のようなものが刺さっている。

「毒を仕込んであるので、あれくらいの傷でも死ぬでしょう。さあ、内務省の掃除に参りましょう」

 永遠の声に無言で龍子と人形女給兵団が後に続いた。

「私が本屋の罠にかかっていない者を教えますので、くれぐれもその人は殺さないでくださいね。この様子ではかなりの数の者が感染しているでしょう。覚悟してください」

「増員いたしましょうか?」

 三番隊の隊員が訊ねると永遠はうなずく。

「人殺しが上手な隊は三番隊以外にもありますか? できれば多数相手に戦えるとよいのですが」

「ならば二番隊が適任と思います。爆薬や毒霞を使えます」

「すぐに呼べますか?」

「各隊長は全体の呼子笛を持っておりますので私が呼びます」

 龍子はすぐに二番隊の呼子笛を鳴らした。少し間をおいてまた鳴らす。

「なにか問題がありましたか?」

「ここはゲヒルンと内務省があります。周辺には全体の連絡係がかなりおり、すぐに呼子笛を返してくるはずなのに応答がありません」

「なるほど。二番隊になにか起きているのですね。では、三番隊を呼んでみてください」

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