第26話 スクーリング ~ 学校に「通う」ということ

 現在の「広域型の通信制高校」は、平日もしくは土曜に「授業」を行っている。それぞれ思い思いの時間に来て、レポート対策などをするという。しかし、通うと通わないにかかわらず、ともかくも、レポートを仕上げ、それをもとにしたテストを受けて合格すれば、晴れて単位認定となる。卒業要件を満たす単位に至れば、最低3年で高卒資格が得られる。しかも、「通信制高校」なので、高認との併用も可能であるし、そのようなルートをたどる生徒ももちろんいる。

 大検が一般化する以前から、大検予備校は、東京や大阪を中心に全国にいくつかあったが、「広域型の通信制」へと、多くが発展的変貌を遂げてきた。第一高等学院(現在の第一学院)などが、その典型である。


 「広域型の通信制高校」に該当しない通信制高校、つまり、昔ながらの典型的な通信制高校も、普段のレポートだけでなく、毎週日曜日にはその学校に通って授業などを受けるという「スクーリング」を行っている。大学の通信制過程で、夏場に数週間、在籍する大学に行ってしばらく大学に通い、テストを受験するという「スクーリング」とある意味よく似た形態ではある。


 もともと通信制高校は、大検や定時制高校同様、勤労学生のための制度であった。

 1966(昭和41)年に制作された小川プロダクションの「青年の海 四人の通信教育生たち」では、地方で働きながら夏の時期に上京してスクーリングと単位取得試験を受験しつつ、社会運動へと身を投じていく姿が描かれている。

 この映画で描かれているのは、当時の定時制高校や大学の二部学部、あるいは通信制の高校や大学の典型的な姿であり、今の50代以上の年配者が持っているこれらの学校やそこに通う学生たちの典型的なイメージ通りの姿である。


 1990年代初期、私が学生の頃、某高校の通信制過程に通う生徒さんと先生方が、スクーリングの後、私の行きつけのスナックに有志で集まって、飲みながらカラオケに興じているところに遭遇したことが何度かあるが、これもある意味、典型的な当時の通信制高校に縁のあった人たちの典型的な姿であった。


 しかし、「広域型の通信制高校」については、先ほど紹介した映画や通信制高校の生徒と先生のような関係というか、雰囲気とは、全くと言っても言い過ぎではないほど、異質である。

 スクーリングと言えば言えなくもないが、特別な行事でもない限り、学校は平日の日中に開校される。その気になれば毎日「通学」することもできるし、週1日かそこらでもよい。

 生徒はおおむね私服だから、一見遊びに出てきているようにも見えるが、見方を変えれば、全日制の生徒のように、普通に学校に通っている、とも見える。

 私たちの頃にはなかった動きもある。


 日本の制服文化は、こういうところにも入り込んでいて、私服で来てもいいが、希望者には、なんと、制服があるという学校もある。なぜこんなものがあるかというと、ひとつは、私服で平日に「スクーリング」に来ているときに補導されてしまう例もあったので、高校生であるという見た目の「記号」の必要性を感じた子がいたということも要因の一つであるという。確かに「制服」さえあれば、それを着て街中に出ていても通学中の高校生ということが一目でわかるから、補導されてどうこうという可能性は、それだけで格段に低くなる。このような、この世代の少年少女たちにとって確かに「深刻」な理由も見られないではない。

 だがそんなことよりも、高校の「制服」に対する興味関心がこれまで以上に高まり、もはや「文化」となっているからだ、ということもある。

 テレビを見ると、男女を問わず学生服やセーラー服、あるいはブレザーの制服姿を着た、いい年のタレントと称される人たちをいくらも見ることができるではないか。


 まして、「広域型の通信制高校」は、「高校」を正面切って標榜しているわけだ。

 高校の「制服文化」を利用しない手はない。

 実際に、この種の「高校」のホームページなどを見られるとよい。確かに、通信制と称する「学校」にも、制服がちゃんと存在していることがわかる。それを見れば、まさに、どこにでもある高校の制服のようにしか見えない。


 こうなるともはや、全日制の高校と広域型の通信制高校の境界線もまた、少人数指導がさらに進んでマンツーマン指導さえも標榜している学習塾と、本来マンツーマンで生徒を教えている家庭教師会社同様、その両者の境界線があいまいになりつつある様子が、手に取るようにわかる。 

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