高校を降りた若者たち・今昔 ~ 大検と通信、そして・・・

与方藤士朗

第1話 プロローグ

 全日制や定時制の「進級・卒業」をベースとしている高等学校を中退し、もしくは初めから利用せず、「大検」こと大学入学資格検定(現在の「高認」こと高等学校卒業程度認定試験)を受検したり、「大検」と「定時制もしくは通信制高校」を併用したり、あるいは単位制の通信制高校に進学したりして、大学や専門学校に進学し、あるいは就職していった人たちは、この数十年来でごくごく普通に見られるようになった。実際、この少子化の中でどの全日制高校も受験者数や入学者数を減らさないよう苦心しており、地方の公立高校では統廃合も進む中、そういう道に進む人たちはむしろ増えてさえいる。

 本書では、そのような道へと進んでいった、主として、1980年代より今日に至るまでの若者たちを「高校を降りた人」と定義し、ご紹介していきたい。


 主として日曜日にスクーリングを実施する従来型の公立通信制高校(たいていは全日制高校に併設されている)ばかりが、「通信制高校」ではない。この手の高校は学校数こそそれほど減少していないが、生徒数は軒並み減少傾向にさえある。

 その一方、株式会社立の通信制高校、技能習得型の専門学校こと技能連携校(ここで高卒資格も得られる。かつての実業高校とミックスしたような形態の学校である。私の下の異父妹も、兵庫県西部の技能習得型調理師専門学校を卒業しているが、彼女はこれで高卒資格も得ていることになる)、あるいは通信制高校とタイアップした拠点校やサポート校などなど、一見「学校」とは思えないような場所においても、「通信制高校」は「実在」している。これらの通信制高校の業務を補完する協力校や生徒の日常の勉学をフォローするサポート校(学習塾や家庭教師会社なども参入している)やサテライト施設(大学受験予備校のビデオ講義受講を中心に据えている施設の通信制高校バージョンである)なども含めた概念として「広域型の通信制高校」とくくるべき「学校」が増えていて、それが通信制高校進学者の増加を大きく後押ししている。学校数はこの数十年来増え続け、生徒数は、2007年をもって公立通信制高校の生徒数を上回り、さらに増加の傾向にある。

 さてこの「広域型の通信制高校」という表現そのものは、確かに法令にはない。ではこの表現が間違いかというと、そうとも言えない。

 「広域通信制高校」とは、複数の都道府県から生徒を募集している通信制高校のことを指すものであるが、ここで述べている「広域型」という表現は、「型」という表現をつけることなしに表し得ない形態のものが、今や、あまりに多くなった故の言葉であるからだ。よって、この種の学校全般を指すものとして、本書ではこの「広域型の通信制高校」という表現を使用していく。

 「高校」という存在を本来は「脅かす」制度だった「大検(高認)」はいまや、広域型の通信制高校とともに、「高校を降りた人」のための受け皿としての役割を強めている。そこには問題点もないではないが、彼(彼女)らの居場所として、今の若者たちを支えていることは間違いない。

 もっとも、一口に「高校を降りた人」とまとめても、いろいろなパターンがある。確かにここの事例を追って行ってもキリはないが、何人かの典型例となる人たちを見ていくと、そこには一定の共通項も見られる。彼(彼女)らの経緯を読み解いていくことで、社会の変化や、人々の意識の変化、そして、人とのつながりについて、より深く考えていくきっかけになるものではなかろうか。

 というよりも、私自身が今(2018年時点)からちょうど30年前、定時制高校に在籍しつつ大検を利用して大学に進み、その背景として6歳から18歳まで岡山市内の養護施設(現在の「児童養護施設」。以下、当時の法令に従い「養護施設」と称する)経験を持っており、大学進学後も、その絡みでさまざまな活動に携わってきて、また、家庭教師として何人かの広域型の通信制高校に在籍した生徒を教えた経験もあるので、これは他人ごとではない、という思いが常々あった。


 その意味で本書は、私自身の半世紀近くの人生の総括という要素を持っていることをご理解いただければ幸いである。

 なお、本書では公人として活躍されている方(組織等も含む)と実名でご紹介すべき必然性がある方及び著者である私を除き、原則として仮名としております。事実関係等につきましても、差しさわりない程度にまで改変を加えております。

その点につきましては、何卒ご了承ください。

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