第22話理論的なチート

―アムロ行きますターン


「珍しいですね。そうめんさんと週に二回もお会いするなんて。何かトラブルでもありました?」

 僕はいつものアイスミルクを飲みながら煙草をテーブルの上に置いた。

「いや、別にトラブルとかそういうんじゃないよ。俺に気を遣わず煙草吸いなよ。ちょっと仕事で近くまで来ててな。なんだっけ?あれ。面白そうなのやるっていってたじゃん?」

「『ドラフト』ですか?」

 僕は煙草を咥えて火を点けた。

「そうそうそう。『ドラフト』!あれが気になってな。もう始まってるんだろ?」

「ええ。かなり面白い、いや、めちゃくちゃ面白い展開になってます」

「それでな。あれから俺なりに『こいつは強い』!ってのをいくつか考えてみたんだ。ネットも片っ端から見てな。それで『これはすごいんじゃないか』ってのがいくつか考えついてな」

「あ、その先はちょっと…」

「ん?なんで?俺のアイデアをお前に聞いてもらおうと思ったんだけど」

「それは僕もすごく聞きたいし、すごく気になります。でもこれは僕らの戦いなんで。申し訳ないですがそうめんさんからその『すごい』アイデアを聞いてしまうとフェアじゃなくなってしまうんです。なのでそのアイデアは『ドラフト』の決着がついてからでいいですか?」

 僕はそうめんさんの好意と好奇心を気持ちだけ受け取り、申し訳なさそうに言った。

「なるほどな。そういやお前の性格を考えればそうなるよな。じゃあ俺のアイデアはその『ドラフト』の決着がついた時に聞いてもらうとするか。それで、どうなんだ?今のところの展開は」

 僕はこれまでのおおそうじ君としょじょさんとのバトルの内容を詳しくそうめんさんに説明した。

「ほおお!なるほどな!『ドラえもん』をそうやって封じたか。しかも『ジョジョ』だけでそこまでやるか。確かにこの戦いはあれだな。引き分けっちゅうか…相手の攻撃を防御するのはアイデア次第だけども…」

「そうなんです。引き分けに持ち込むのはこの戦いではそう難しいことではないんです。難しいのは理論的に完全に相手に『敗北』を認めさせることなんです。そう考えるとおおそうじ君は『ジョジョ』の『ゴールドエクスペリエンス・レクイエム』としょじょさんの『ラッキーマン』。この二つを論理的に倒さないと僕の勝利はないんです。それほどあの二つは厄介ですね」

「『ラッキーマン』を論理的にねえ。そう言えば何か見たなあ。『ラッキーマン』を倒す方法」

「それってあれじゃないですか?『ラッキーマン』にとって負けることがラッキーな状況を作るってことじゃないですか?」

「そうそう。漫画の中でも何度か負けてるみたいじゃねえか。相手があんまりにもしつこくて『面倒くさいから負けちゃおう』って感じで」

「それも一つの方法ですが。また考えればその方法も出てくると思いますがそれは理論的に完全に『ラッキーマン』を倒すことにはなりません。『ラッキーマン』は可能性がある限りそれを無限のラッキーで可能にしてしまうんです。僕の考える『ラッキーマン』封じはその可能性をゼロにすることです。ゼロはそれに無限をかけてもゼロのままです。もしくはマイナスにしてしまうのどちらかだと思ってます」

「なるほどな。ゼロにはいくらかけてもゼロのままだもんな。お前の選んだ『グーグルプレイ』や『ウィンドウズ』になにか秘密がありそうだな」

「そうめんさんは『メタ』って聞いたことありませんか?」

「『メタ』?うーん、なんか聞いたことあるぞ。ちょっと待てよ…。あ!『ジョジョ』でカエルを潰さずにその下の石を殴って破壊した時に『メタアア』ってあったな」

「いや、それもそうなんですが…」

 僕は思わず笑いそうになったのを堪え、煙草の煙を思い切り吸い込んだ。

「え?違うのか?じゃあ分かんねえなあ」

「ご都合主義とは言いませんが漫画の中って作者の意のままにキャラクターを操れるじゃないですか?たまに作者や読者に漫画の中のキャラクターが語り掛けてくるのを見たことないですか?」

「ああ、昔からそういうのはあったかな」

「僕らも最初のルールでそういう作品は強さにキリがないから選ぶのは禁止にしたんです。ギャグ漫画だとそういう設定多いじゃないですか。面白いって言えば面白いんですが今回のバトルだとどうしてもそういう作品が無敵になってしまいますので。あと、『これは漫画だから』とドンドンと、うーん、これこそご都合主義と言いますか。この能力は無敵でしょ?みたいなのが増えたような気もしますし。ある意味『魁!男塾』の塾長、江田島平八ってめちゃくちゃ強いじゃないですか。それも昔からの作品を通じての積み重ねがあるから納得できるわけじゃないですか?」

「塾長はある意味最強って言ってもおかしくないよな。で、お前何が言いたいんだ?」

「僕は誰しもが納得する『最強』の能力を考え出したってことです」

「何?誰しもが納得する『最強』の能力?それは俺も納得するもんなのか?」

「今はまだお話しできませんが。理屈を説明すればその辺の『俺TUEEE』なものよりは納得してもらえるかと。ただ、この能力をもってしても今はまだ『負けない』としか言えません。『勝てる』が想像出来ないんです。そしてこの能力は現時点で三段階まで進化予定です。その最終系まで進化しても『勝てる』は予想出来ないとだけ今は言っておきます」

「なんだっけ?お前らに『死』イコール『敗北』の概念はないんだろ?」

「そうです。三人とも『ドラクエ』の能力『リザオラル』を持っていますので。死んだ瞬間生き返ります」

「その『死なない』ってのが勝敗がつかないように思うけどなあ」

「でも『ジョジョ』の二部では『死なない』能力を持ったカーズを普通の人間のジョセフが倒しましたからね」

「あー、あれはすごいよな」

「ですよね?僕もあの勝ち方には正直驚きました。ああいう誰しもが納得する決着ですね。例え『死なない』にしても『敗北』を認めさせることは出来ると思うんです。それに今回の『ドラフト』ならそのカーズでさえも『ドラゴンボール』の『神龍』に頼めば…」

「…。キリがねえな。それは決着つくのか?」

「僕も今は予想が全くつきません。まあこの『ドラフト』の決着が簡単に予想出来るようなものならこんなにも長い間ネットで議論されることもないでしょう」

 アイスミルクをとっくに飲み干した僕は水だけで煙草を五本も吸い終わっていた。

「うーん、まあ、次に会う時を楽しみにしとくよ。今日は俺が奢るわ」

「ご馳走になります。この『ドラフト』の決着がついた後にそうめんさんのアイデアを改めて聞かせてもらいます」

「え?ああ…。さっきの発言は忘れてくれ。お前らに笑われちまうわ」

 そう言ってそうめんさんは店の伝票を持って立ち上がった。

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