第15話敗北を許せるのは作者だけだぞ。背負うものの重み。

―おおそうじターン


 俺様にはこんな時、頼もしい人がいる。漫画家のうそーんさんだ。うそーんさんとはツイッターで知り合った。うそーんさんは漫画家なのにツイッターは基本相互フォロー。趣味が人間観察だそうで糞忙しい中、DMで人生相談もよくやっているらしい。俺様もうそーんさんとDMで会話を何度かした。うそーんさんの呟きは結構えぐい。メンタルがめちゃくちゃ強いんだろうな。自分が思っていることをそのまま呟くし、売られたケンカは必ず買う。リプの早さが尋常じゃない。会話のキャッチボールでものすごい剛速球をポンポンとすぐに投げ返す。ツイッターで知り合ってからうそーんさんの過去作品を読んだらめちゃくちゃ面白かった。俺様はうそーんさんのファンになった。うそーんさんは今、ちょうど売れっ子になろうとしていた。最近、うそーんさんのツイッターのフォロワー数は一気に増え、二万を超えた。それでも基本相互フォローで呟きのスタンスも変わらない。DMでの人生相談も相変わらず続けていると最近呟いてた。

「うそーんさん、今の時間起きてるかなあ?」

 俺様は自慢のアイフォンを弄って、ツイッターのタイムラインを眺めてみる。お、普通に呟いてるじゃん。俺様はうそーんさんにDMを送る。ちなみにリプでやり取りは過去に何度かしたし、うそーんさんのフォロワー数が今の十分の一の頃から俺様はやり取りをしている。

「お久しぶりです。おおそうじです。うそーん先生は今忙しいでしょうか?」

 すぐにDMが送り返されてくる。

「ああ君か。久しぶりじゃのう。僕は天才だから今ネーム作成中だけど相手になってあげるよ。どうしたのじゃ?」

 俺様は今回の『ドラフト』の話を最初から説明してから聞いてみた。

「…っという感じなんですが。うそーん先生から見て戦力分析とかどう思いますでしょうか?」

 俺様のDMに対してうそーん先生から連発で返事が送られてくる。

「なんじゃそれは!面白そうじゃのう!」

「ネットの某掲示板にその手の情報は山ほど議論されておるじゃろう」

「『刃牙』がなんで指名されてない!?範馬勇次郎最強だろう!じゃんけんでチョキ出してグーに勝つんだぞ!」

 へえー。流石の俺様も『刃牙』を候補にとは考えなかった…。漫画家さんから見ればかなり強さレベルは高評価なんだあ。

「でも範馬勇次郎にザラキ唱えたら生きてられます?もしくはデスノートに名前書かれても生きてられます?」

「その辺は単独じゃないんだろ?他の能力者でカバーすればいい話じゃろう。それに『ファイナル・ファンタジー』が何故指名されてない?『ラーニング』があれば敵の攻撃を学習して使えるって理屈は通るじゃろうに」

「RPG枠は僕も迷ったんですけど。使えて一枠かなと判断しまして」

「それで『ダイの大冒険』か。君、そこは頭いいね。あの作品はRPGと能力漫画の二つの引き出しを持っておる」

「ですよね!」

「じゃが、君のお友達のしょじょさんとアムロ行きます君。その二人もかなりの策士じゃのう。特にアムロ行きます君。不気味じゃのう。『グーグルプレイストア』と『ウィンドウズ』は気になる。単なるソシャゲダウンロードし放題って訳じゃないのは確かじゃ。ソシャゲに圧倒的強いのはちょっと見当たらんしのう。逆にしょじょさんか。彼女の考えは何となく分かる。まあ、ネタバレになるのはずるいからそれは教えないけどね。それにしても『ラッキーマン』を指名してるだけで彼女の指名した残りの作品はものすごい強さを持つことになる。それだけは確かと断言しとくぞい」

「でも『ジョジョ』に『ドラゴンボール』。『グレンラガン』は宇宙ぐらいの大きさに加えて確率弄れるし、多次元宇宙干渉出来るんですよ。ミサイル撃たれても確率弄って絶対当たらないように出来るんです」

「確率を弄っても0%じゃない限り『ラッキーマン』は100%にしてしまうぞい。それにしても『ジョジョ』と『ドラゴンボール』の両獲りをするとはのう。一体どんな手を使ったのじゃ?」

 俺様はその方法を簡単にDMで説明した。

「なるほどw」

 うそーんさんは続けた。

「ある意味それを許した二人はかなり頭も柔らかいのう。冗談も通じるし。多数決でも理不尽なジャッジはないじゃろうな。それに君は理解しているのか?本気の『ドラえもん』と『キテレツ』の強さを」

「どっちも『時を止める』系能力ありますよね」

「それだけじゃないんじゃよ。あの時代に『これが出来たらいいな』をほぼ可能にする道具を出し尽くしているのじゃ。例えば君の指名した『とある魔術の禁書目録』。その中でも無敵との呼び声高い『一方通行』、あれも強い。物理攻撃は効かない。なにしろ本人の意識がなくても勝手に攻撃のベクトルを変えてしまう能力。『瞬間移動かめはめ波』でさえも効かない。『ラッキーマン』でも無理だろう。でも『ドラえもん』の『ソノウソホント』で能力を消されたらどうするんじゃ?」

「それは『ドラゴンボール超』の『三分前からやり直し』で封じます」

「なに?『ドラゴンボール』にそんな能力が出てくるのか?」

「続編の映画版やアニメ版の『ドラゴンボール超』を調べてもらえますか?」

「うん、もう調べた。なるほど。わしが知ってる『ドラゴンボール』もかなり進化してるみたいじゃのう。あれ?悟空に瞬間移動を教えたヤードラッド星人って悟空とは違う宇宙代表になっておる。同じ宇宙だったような。ま、それはどうでもいいわ。スーパーサイヤ人の種類もかなり増えておるし、フリーザはわしの中ではセルの舎弟みたいなもんだと思っていたが他の宇宙から引き抜きがかかるほどパワーアップしておるのか」

「うそーん先生が『ドラフト』に参加してたら上位にどれを選びますか?」

「www」

 そして続ける。

「わしは漫画家だぞ。何でもありの作品を描いてそれを指名するじゃろう。ご都合主義の漫画なんぞいくらでも量産出来るわい。本当に読者を納得させる設定、アイデアが光る作品、何年、何十年経っても色褪せない作品こそ選ばれるのに相応しいとは思うな。君が一位指名した『ジョジョの奇妙な冒険』。わしが子供の頃から読んでいるし、今でも老若男女問わず、また日本だけではなく海外でも多くのファンに愛されておる。登場人物たちが使う超能力である『スタンド能力』は漫画の歴史に大きく影響を与えた。超能力を初めて擬人化したのが荒木先生じゃ。もし荒木先生があの手法を考え出さなかったら今も、漫画も含め、超能力の表現はビームやそう言ったもののままだった可能性も大いにある。誰もやっていないことを世界で初めてやるとはそういうことじゃ。『ファイナル・ファンタジー』もRPGに時間と言う概念を初めて導入した。あれも驚かされたしすごかった。君は知らないだろうがもっと遡れば昔の海外のゲームはRPGに食料の概念を取り入れておってな。食料がないとどんどんHPが減っていくリアリティがあった。リアリティを追求するあまり理不尽なゲームも多かったけど。まあ、指名した作品はどれもすごい。わしにもいったい誰が勝つか想像もつかん。ただ、指名した作品の能力を最大限に引き出さないと勝てない。背負うものはとんでもなく重いものだと考えた方がいい。承太郎の敗北を許せるのは作者だけだぞ。他の作品も同じく。自分が生み出した作品の敗北を許されるのはそれを生み出した人間のみだとわしは考える。まあ一部例外もあるがのう」

「例外ですか?それは何でしょうか?」

「それは、今はいいよ。それよりわしならどれを選ぶかじゃったな。欲しい能力は大体三人が指名しておる。『星のカービィ』なんか欲しいなあ。あれはコピー能力がありバランスもいいじゃろう?わしが言えるのはそこまでじゃ。あとは自分らで考えて戦うんじゃな」

 『星のカービィ』か…。確かにその発想は俺様にはなかった。また、うそーんさんが本当はこういう話は大好きでもうすでにうそーんさんなりに戦略は幾つか閃いているはず。でも、それを俺様に言わないのもうそーんさんのいいところだ。

「今日も貴重なお時間をありがとうございました」

「いやいや、こっちも面白い話が聞けたぞい。ま、勝敗が決まったらまた連絡してくれい。中間報告でもいいぞ。あとこれは言ってもいいかな。『補強枠』だ。この『ドラフト』、バトルは『補強枠』が大きなカギを握っていると思うぞな。本来ならドラフト一位クラスの能力作品がたくさん残ってる。今の君を倒せと言われたら倒すアイデアはわしにも思いつく。そこをカバーする七つ目の能力が大事じゃ。じゃあわしは忙しいからのう」

「今の僕なら倒せるってことですか?」

「そういうことじゃ。じゃあの」

 うそーんさんはもう普通にツイッターで呟きを始めた。と、言うより俺様とDMで会話している最中も呟いていた。これがプロの漫画家…。すげーぜ!うそーんさん!つーか、今日の『ドラフト』で俺様は狙っていた作品全て指名出来た。『ジョジョ』と『ドラゴンボール』の両獲り。『とある魔術の禁書目録』と『ゲットバッカーズ』だぜ。そして『グレンラガン』に『ダイの大冒険』。正直、出来過ぎだ。その俺様を倒せる?うそーんさんは何の根拠もなくものを言う人ではない。こういう時、まずは己を知り、敵を知る、だ。俺様が『ドラえもん』を指名していたらどう使うか?『桃鉄』なら?『グーグルプレイストア』なら?

 今、俺様はふと我に返った。

「こんなに何かにガチになったのは久しぶりだぜ。一体いつ以来だ?」

 あんなに愛されている作品を指名した俺様に負けは許されない。すげえ楽しいがこれは戦争だ。

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