その二十四 急展開する物語

 

 あのメモを拾ってからは急に話が進み始めた。

 ソニアの挙動が明らかにおかしくなりだした、どうやらアイツはメモがないと誰が味方かを覚えてないらしい、そこらへんの物覚えの悪さがソニアの弱点である。これにより、クレアとカレンへの攻撃が弱まっている。


「メモを拾ってからクレアへの攻撃は弱まってるな、クレアも少しづつだが回復してきている。アルの話ではカレンの方も落ち着いてるそうだ」

「ふっふっふ、あの時は紙を見つける事が出来て良かったですね王子」

「ああ、ニーナのお手柄だよ、本当によくやってくれた」


 僕はそう言ってニーナの頭を撫でてやる。

 ニーナはくすぐったそうにするが、僕に頭を撫でられるのは嫌ではないらしい。


「私は王子の世話役なので、もっと頼ってくれていいんですよ?」

「はは、あぁ、これからも頼らせてもらうよ」


 そして吉報は続く、数日後の話。

 またも僕たちに吉報が届いた、これこそ僕たちが最初の目的としていた報告である。

 クレアが僕たちの方へ笑顔で走ってきた。


「み、みなさん!」

「あら? クレアさん随分と嬉しそうですね」


 クレアは僕たちの前に来るとお辞儀をした。


「皆さん、ありがとうございます! 父が無罪となりました!」

「「!?」」


 クレアの口からは僕たちの望んだ結果が語られた。


「ほ、本当か!?」

「はい、本当です」


 クレアから聞いた話はこうだった。

 クレアの父親の所属していた第八師団の横領は、別の第八師団の部隊長である騎士が金を横領しており、その罪をクレアの父親に擦り付けていたとのこと。そしてこの騎士は借金の返済期限が急に短くなり仕方なくやったとのことであった。


「おそらくその騎士に金を貸した人物が、ソニアの可能性があるな」

「だけど、クレア君の父君は助かったんだしまずは良しとしよう」

「そうだね」


 そして、クレアは再び僕たちにお礼を言うと去っていった。

 ユリアーナの家とライネスの家、そして僕等王族の頼みでは流石に第八師団も再度調査しないわけにはいかず、再調査した結果がこれだったとのこと。


 そして――


 クレアの父親が助かり数日後。

 僕の机に手紙が入っていた、要するにラブレターってヤツだ、生前じゃ一度も貰ったことなかったのに!イケメンになったら割ともらえてるんですよ? やっぱ顔かコノヤロー! そう思いつつも

 不思議と無視できない手紙だったので、約束の空き教室へと向かう。


「あぁ、やはり」


 教室には一人の少女がいた、クレア・アージュだ。手紙の書き方からから不思議と彼女だということは察しがついていた、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。


「クレア、君が手紙の差出人なんだね」


 僕がクレアに話しかけると、クレアは僕の方を向いた。


「カナード王子、ニーナさんは一緒じゃないんですか?」

「はは、まあセットでよくいるからね、しかし手紙で呼び出されたのにニーナと一緒ってわけにはいかないでしょ」

「そ、そうですよね」


 緊張してるのか、クレアは普段と違い落ち着きがない。


「それで何の用かな?」


 分かってはいるけど敢えて尋ねる、僕の問いにクレアはビクっとする、少しするとおずおずと口を開く。


「何故、なぜカナード王子は私にこんなに良くしてくださるんですか? ソニアさんはカナード王子の婚約者です、しかも侯爵家の御令嬢で水の巫女の候補です、王族とはいえおいそれ手出しはできないのに……」

「何故かぁ……」


 んー、困ったなあ元々は下心があったって事になるわけだし、流石にそれは言えないよねぇ。ただ今はクラスメイトが困ってた、それだけの理由でもいいじゃないかと思うんだ、ついでにソニアが好き勝手やるのが気に入らなかったってのもある。


「クラスメイトが困ってたから助ける、それだけじゃダメかな?」

「クラスメイト……そっか、そうですよね」


 クレアの顔が少し寂しそうに見える。まさか、ねぇ。


「あとはソニアのやってる事が気に入らないってのもあるかな」


 僕は慌ててそう付け加えた。

 しかしクレアは止まらず、顔を赤らめ少し涙目になり上目づかいで口を開く。

 あぁ、確かに最初はそれを望んだが、これはもう『クレア・アージュの天使たち』ではないんだ、そして本来なら僕の方から言わないといけない言葉なんだ。

 だからクレアからもその言葉は出しちゃいけない。


「カナード王子! 私は貴方の事が……」


 そう、そう考えた時に僕の頭をよぎったのは、いつも僕のそばにいてくれた少女の顔だ。

 もう十年は一緒にいた、同い年なのに妹のような存在。しかしクレアがある言葉を口にしようとする今は、彼女はそんなんじゃないと僕は理解する。


「すまないクレア、その先は言わないでほしい」

「――ッ!」

「その気持ちは嬉しいけど、僕はその気持ちに応えてあげる事が出来ない。君の事は好きだが、それは恋愛感情じゃない……すまない」


 僕は凄くやるせない気持ちでクレアに答えた。

 クレアも一瞬俯き、少ししたら顔を上げてニコリと笑った。


「そうですか、やはりニーナさんですか?」

「……情けない話だけど、今さっき理解したんだ。クレアがあの言葉を言おうとしたときに、彼女の顔が頭をよぎってね、それで僕も気づいたんだ」

「……はぁ、そうですか。ニーナさんとても明るくて可愛らしいですもんね」


 クレアは力なく笑ってそういった。


「カナード王子、クラスメイトなんて言わずに、これからも私とお友達でいてくれますか?」

「はは、それなら喜んで」

「……ふぐ、うぅ。あ、ありがとうございます」


 クレアは涙を堪えながら僕にお礼を言った。


「僕の方こそありがとう、君にそう想ってもらえただけで光栄だ、そしてすまない」


 僕は小さな声でそう呟いた。自分が助かろうと打算で近付いたはずなのに、クレアにはそう想ってもらえたことを光栄に思いつつも、申し訳なく思えた。

 しばらく沈黙が続いた、しかしやがて沈黙はクレアによって破られた。


「カナード王子、それでは今日は失礼します」

「あぁ、また明日」

「はい!」


 クレアはこの短時間で吹っ切れたのか笑顔で僕の前から去っていった。

 さあ、あとはソニアの問題を片付けよう。この問題も間もなく決着がつくような気がしていた。

 そしてその時は間近に迫っていたのだった。

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