第21話 今回の報酬は?

「あははは。意外と冗談がお好きですよね」


 馬車の中で、前にいるクラリエルさんに送った一言は、何だかとっても乾いた響きがした。隣にいるルルアは目を点にして固まっちゃってる。


「いいえー。本当に私ですよ。その証拠に、彼の所持品がこちらに」


 見るからに高そうなダイヤの指輪をチラつかせてきたから、僕らはいよいよ顔が青くなった。


「あのようなエルフと魔物が来訪したのは想定外でしたが、それだけにスリルがあって有意義な時間でしたわー」


 なんてことだ。この人盗賊だったのか! 聖女様なのに?


「でしたわー、じゃなくて! あなたが犯人だったんですか!? しかももう盗んじゃってるし」


 他に誰もいないとはいえ焦ってしまう。そりゃそうだよね。ずっと犯人と行動をともにしちゃってたんだから。


「はわわわ! ダメだよクラリエルさん。聖女なのにそんなことしちゃったら。ナジャ、どうするの? このまま黙ってられないよ」


 普通に考えれば牢屋に入ってもらう意外ないな、と思案をしていることを見透かしたのか、聖女様はまたもクスクス笑い、


「その時はお二人も同罪になってしまうかも知れませんよ」


 なんて聞き捨てならない発言をされた。


「え? な、なんでー!?」と焦るルルアと、考え込む僕だった。


「うふふ。あまり本気になさらないでください。あなた達を共犯に仕立てることだって可能というだけです。言質を取ることしか証拠にない以上、私の口先と演技は多くの人間を信頼させる武器でもありますからね。ウィズダムでは私を劇場で雇いたいお偉い様も多いことですし、幾らでもお力添えをいただけます」


「ず、ずるい」とルルアは絶望感丸出しで言った。


「ですから、本気になさらないでいただきたいのです。あなた方は私にとっての恩人ですから、ご内密にしていただけるなら決してしません。それにこの指輪は元々あの男が奪い取った、本来は別の人に収まるべきものだったのです」


 この人は持ち主まで知っていたらしい。僕は腕組みしつつ、彼女に質問してみることにした。


「別の人って誰です?」


 さっきまでギラついていた瞳が嘘みたいに穏やかになり、空を飛ぶ小鳥を眺めていた。


「……私の母です。ですが、結局この指輪はお渡しすることはできませんでしたね。お墓にお供えするだけです」


「え? ちょっと待って。クラリエルさんのお母さんって、」


 僕は自然と左手でルルアの言葉を遮っていた。事情は知らないけれど、きっとこの先は聞くべき話ではないのだろう。あの貴族は見えないところでたくさんの悪事を働いていて、その被害者の中に彼女のお母さんもいたということか。


「共犯にされては堪らないし、黙っておくしかなさそうだね。今回は取り返したということにしておくよ。それと、まだ一つ気になることがあるんだけど」


「どうぞ」


「なぜ予告状なんて大胆な真似を?」


「そうそう! あたしだったら普通に潜入してかっぱらうと思う。宝物庫に穴を開けて」


「普通にバレて捕まるぞ!」


「理由は二つです。一つは彼の性格上、むしろやってみろとばかりに虚勢を張り、人を呼びこみ派手な催しを開くに違いないと踏んでいたこと。案の定パーティを開きましたから、犯人をより特定できなくなりました。もう一つは……うふふふ。そのほうが楽しいじゃありませんか」


「え、えええ。楽しいって、どういうことー?」


「あえて予告してから盗むって、スリルが高まると思いません? 私ったら、昨夜のことを思い出しただけで……ハアハア」


 うわー。この人ヤバイ。なんか恍惚とした表情になってるし。まあいいや。今回の依頼を終えてアロウザルに戻ったら、もう今後関わらないようにしようっと。そして馬車はようやくウィズダムへ辿り着いた。


 ◇


「良かった! 依頼自体は達成したことになるんですね」


 ウィズダムの冒険者ギルドで僕は安堵のため息を漏らした。ルルアも嬉しそうにニコニコしてる。クラリエルさんは淡々としてるけど。受付の若いお兄さんは、ちょっと複雑そうに苦笑いをした。


「ギルド幹部達の協議の結果、今回は警備という依頼自体は達成しているので、報酬は渡して当然だろう、という話になりまして」


「やったね! まあ、ちゃんと守ってあげたもんね!」とルルアは胸を張っている。屋敷をけっこう壊しちゃったけどね。


「では、報酬と経験値などをお渡しさせていただきます」


 僕らは経験値とスキルポイント、それから報酬を貰えることになった。今回譲渡の腕輪を身につけているので、パーティ全体にスキルポイントと経験値をバランスよく分配することができる。


【武闘家ルルアに経験値2500、スキルポイント2500を付与します】


【聖女クラリエルに経験値2500、スキルポイント2500を付与します】


【ギフト『落ちゲー』の効果により、ポイントボーナスが発生! 魔法使いナジャに経験値162500、スキルポイント162500が付与されます。ポイントをパーティメンバーに振り分けますか?】


「な、な、何ですとぉー!?」


 お兄さんがクエストオーブの声を聞いて、目が飛び出すくらい驚いて腰を抜かしちゃった。


「ひゃあああ!? なんてポイントなの。すっごーい!」


「あらあらあらー!」


 ルルアとクラリエルさんは飛び上がらんばかりの喜びっぷり。僕もこのポイントには流石に面食らってしまう。


「じゃあポイントを振り分けよう。みんなに均一になるようにね」


 腕輪の効果により、あっという間に経験値とスキルポイントがほぼ均一になるように二人に分け与えられる。


「ありがとー! きっとあたし達、最短距離でURランクになれちゃうかもね!」


 ルルアは僕の手を両手で握り微笑む。普段みたいに握り潰すような勢いじゃないから良かった。近くでこんなに見つめられると、なんだか照れてしまう。


「感謝致します。私はこれで大きく成長することができました。全てはあなたのおかげです」


「みんな大袈裟だよ。そうだ。お金はどのくらい貰えますか?」


「あ……は、はい! 30000Gになります」


 お兄さんはヘロヘロな腰で何とか立ち上がりつつ、報酬がどっさり入った袋を僕らに手渡してきた。


「やったー! ナジャ。あたし達いよいよ大金持ちじゃない?」


「まだ大金持ちってほどじゃないけど、これでかなり余裕はできるね。それと今回のステータスは……っと。え!?」


 僕はいつになく驚いた。今回の依頼達成で上昇したステータスはこんな感じ。


 名前:ナジャ

 Lv 78(+40)

 肩書き:落ちゲー魔法使い

 冒険者ランク:S(UP!)

 体力:2683/2683

 魔力:3411/3411

 物理攻撃力:66

 魔法攻撃力:3003

 防御力:410

 素早さ:398

 運:477

 ギフト:落ちゲーLv2(UP!)


 ■ルルア

 Lv 70(+50)

 肩書き:駆け出し鉄拳娘

 冒険者ランク:A(UP!)

 体力:2465/2465

 魔力:306/306

 物理攻撃力:3895

 魔法攻撃力:0

 防御力:289

 素早さ:511

 運:502

 ギフト:攻撃回数増加Lv2(UP!)


 ■クラリエル

 Lv 72(+43)

 肩書き:ぬすっと聖女

 冒険者ランク:A(UP!)

 体力:3106/3106

 魔力:2043/2043

 物理攻撃力:1394

 魔法攻撃力:1682

 防御力:562

 素早さ:255

 運:613

 ギフト:聖女の加護Lv2(UP!)



「きゃあああ! やばいー! ナジャ、あたし達……冒険者ランクまで上がっちゃってるよぉ」


「あ、ああ。何から突っ込んだら良いかわかんないけど、とにかくランクが上がったのはデカイ」


 ルルアはもう軽くジャンプするくらい歓喜していて、クラリエルさんはうっとりとオーブに魅入ってる。


 冒険者ランクっていうのは、どんなクエストを何回クリアしたかとか、総合的にオーブによって査定される仕組みなんだ。クエストの達成率次第で昇格したり降格したりする。しかし、なかなか昇格することってないんだよね。


 残り二つのランクを超えていければ、僕は夢のURランクに昇格できる。そう考えるだけで胸がざわつき、心がワクワクしてきた。さらにはギフトの効果まで上がったし、今回の依頼で得られたものはかなり大きいと言える。


 それと関係ないけど、クラリエルさんの肩書きも突っ込みたかったことの一つだったんだよね。まあ、言わなかったけど。

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