第10話 ポーションの素材集め

 僕のギフトは、どうやら役立たずではなかったようだ。


 先日ハイリザードマンを倒したことにより、実は攻撃力を上げる効果と、報酬達成時の経験値とスキルポイントを上げてくれるということが分かったんだ。


 なんだ、実は使えるギフトだったじゃないか! と思いつつも、まだまだ検証が足りないので結論付けるのは早計かもしれないと、今日は朝から家の中にある資料をひたすら読み漁っていた。この本達の中にはギフトに関する内容が書かれているものがあり、少しくらいヒントがあるかもって考えたんだよね。


 でも、ずっと探しているんだけど、『落ちゲー』に関することは見つからない。やっぱり実戦で試していくしかないのか。そんなことを思案していると、扉をノックする音が聞こえた。


「ナジャー。起きてる? ねーナジャー」


 コンコン、コンコンというノックの音に続いて、どういうわけかバキッ! という不吉な音が混じる。


「……ひゃああ!? ま、またやっちゃった」


「開いてるよー。入って」


 幼なじみのノックでドアが破壊されては堪らない。ルルアはちょっと気まずそうな苦笑いを浮かべながら家の中に入ってきた。


「えへへ。ごめんごめん! ソフトタッチを心がけているんだけど。なんか壊しちゃうんだよねー」


「勘弁してくれよ。修理代バカにならないんだから。それより、どうしたの? こんな早くに」


「ふふふ。実はねえ。あたし達に良さげな依頼を見つけちゃったの。じゃーん!」


 そう言って僕の眼前に差し出された依頼用紙には、こんな内容が書かれていた。


 【ポーションの原料が足りません。お助けを!】★★

 依頼者:ニニアーナ

 最近ポーションの売れ行きがとにかく激しくて、原料が全く足りなくなってしまいました。収穫に行こうにも私一人では間に合いそうにありません! 誰か同行して収穫作業を手伝って下さい。



「へええー。収穫作業かあ」


「うん! これなら簡単そうじゃない? あたし達二人でもいけそうだよ!」


 確かに原料の収穫程度なら、冒険者二人もいればなんとかなりそう。ただ、なんでこんな簡単過ぎるような依頼なのに★マークは二つなんだろう?


 まあいっか。僕達はとりあえず依頼主であるニニアーナさんの元へ行ってみることにした。


 ◇


「あ、ありがとうございますぅー。誰も依頼を受けに来てくれないから、困っていたところなんです」


 栗色のふわふわした長髪と獣耳、それともしかしたらアロウザル一かもしれない大きさの胸を揺らしながら、ニニアーナさんは僕とルルアを交互に握手しては感謝の言葉を繰り返している。マイペースというか、なんか変な人だなというのが初対面の印象だった。かれこれ同じ行為を三週ほど繰り返してるから、そろそろ止めないと。


「大丈夫だよ。僕らとしても仕事が欲しかったところだし。ところで、原料とやらはどこで獲れるのかな? ポーションの原料って確か、癒し草だったよね?」


「あら! よくご存知ですね。最近面倒臭くて……ごほんごほん!」


「あ、めんどかったんだ!」とルルアがお気楽な笑顔で言うと、ニニアーナさんはちょっと焦った顔になる。


「いえいえ! 体調が悪くて採集に行けなかったものですから、ポーション作りが滞ってしまって。アロー山に大量に生えているんです」


「アロー山ってすっごい近くじゃん。しかもアロウザルの領土内だから、魔物に会う心配もないね。じゃあ早速行こうよっ」


「あ……あああのー! お待ちくださいませ!」


 今にも走り出さんばかりのルルアを、慌てた様子で獣耳店主は引き止めると、


「すみませんが、お二人もこれを背負っていただけますか?」


 それはそれは大きな背負いかごと鎌を手渡してきたんだよね。更には荷引き車まで用意されていて、そこにも沢山のかごが。すっごい大掛かりじゃないかこれ。膨れ上がる嫌な予感は、もう予感じゃなくて確信だった。


 ◇


「こ、ここにあるの……全部?」


 僕は呆然とあたりを見渡すしかない。


「あははは。そうですぅ。頑張りましょーね」


「ええええー!」


 ルルアがビックリして飛び上がるのも解る気がした。だってだって、今視界一杯に広がる大草原全てが癒し草らしく、それを全部刈らなくてはいけないみたい。難易度★★って、重労働の度合いで決めた感じなのか。


「本当はですねえ。週に二、三回は採集しに来なくては行けないんですけど、ちょっと怠い……じゃなくて! 体調が悪くて、三ヶ月程放置してたんですよお」


「うーん。ニニアーナさんの怠惰な心の声が聞こえた」僕はちょっとばかり呆れてしまう。


「ち、違いますよぉ! もうお店にはストックがありませんので、取り敢えずこのかご全部いっぱいになるまでお願いします」


「わああ。大変じゃん! あたし達だけで終わるかなー?」


「多分、三人で作業すれば、一週間くらいで終わるんじゃないでしょうか。あ、欲しいのは草なので、根元から刈らなくて大丈夫ですよ」


「はーい。じゃあナジャ、大変かもしれないけど、頑張ろー!」


 拳を突き上げてすぐさま癒し草に駆け出すルルアは、あっという間に鎌でサクサク草を切り始める。依頼主であるニニアーナさんは、始めたばかりだと言うのに欠伸をしている。こんなモチベーションで大丈夫なんだろうか。でも僕は、特に鎌もナイフも必要ない気がした。


「ちょっと待って! もっと早い方法があると思う」


「「え?」」


 ルルアとニニアーナさんは戸惑った顔で固まっていた。僕はコホンと咳払いをしつつ杖を構え、ギフト『落ちゲー』を発動させる。この瞬間が毎度ながら恥ずかしい。


「ええええー? なんですか、なんですかそれえええ」


 ニニアーナさんはまるでお化けを見た子供みたいに震えた。もうこういうのは慣れっこだからいいや。ルルアはもう二回目なので、特に驚いている様子はないけど、ちょっと思案顔で頭をかいてる。


「ねえねえ、どうして今ギフトを発動させるの?」


「まあ見ててくれ」


 僕は二人に見つめられつつ、一生懸命にクリスタルを積み上げていく。連鎖を行うためには、一つ消しただけではダメで、もう一つ消さなくてはいけない。取り敢えず僕は画面真ん中の、一番下に黄色いクリスタルを三つ繋げて、上に赤いクリスタルを入れておく。その隣一番下に赤いクリスタルを三個置いたので、もう準備はバッチリ。後は黄色いクリスタルを待つだけなんだけど。


 なかなか黄色いクリスタルは落ちてこなかったので、僕は他のクリスタルを真ん中の列に積み上げたり、左右に散らしたりして気長に待ってみる。ルルアとニニアーナさんは画面に目が釘付けになってたと思う。


「どうなっているんですかあこれ。なんか、よく解りませんけど楽しそう!」


「ホントだよね! あたしもやってみたいなー」


「慣れると結構簡単だぞ。あ! きた」


 待っていた黄色クリスタルが上からゆっくりと落下してくる。僕は真ん中隣に勢いよく落とし、まず黄色クリスタルを消し去り、続いて赤クリスタルが消えた。


『二連鎖! 攻撃力二倍ボーナス! クリアポイント増加』


 画面から白い光が僕に注がれてきて、炎みたいなオーラに包まれる。これでよし……と思っていたんだけど、魔法を使う前に意外なことが起こっちゃったんだ。


 さっき真ん中の二列に適当に乗っけていた青クリスタルが落下して、四つくっついたのでそれも消えちゃった!


『三連鎖! 攻撃力三倍ボーナス! クリアポイント増加』


「え!?」と、僕自身戸惑ってしまう。


 もう一度白い光が僕目掛けて降り注いできた。三回目の連鎖を行うと攻撃力三倍? っていうことは、これは連鎖が続くほど効果とポイントがどんどん膨れ上がっていくってことなのか。


「わああ! ナジャの体、さっきよりメラメラ光ってるっ」


「本当ですねえ。一体何が始まるんでしょう」


「ウインドカッター!」


 前方に向けて杖を向け、最近習得したばかりの風の斬撃魔法、ウインドカッターを放ってみる。地面すれすれに使えば、楽に沢山の癒し草を刈れるんじゃ? っと思っていたけど予想以上だった。


 音で表現するなら、スパパパパ……って感じで超横長になった風の刃が飛んでいき、癒し草は瞬時に全刈りされて空を舞う。僕が予想していた斜め上の威力と効果だったので、自分で呆然としちゃったんだけど。


「す、凄いじゃんナジャー! さっすがだねっ。一気に刈れちゃったよ。こんなにいっぱい」


「あわわわわ。まさか! こんなに早いだなんて」


「うーん。なんか、やり過ぎちゃった感あるね。取り敢えず草を集めよっか?」


「ナジャはもう休んでていいよ! あたしが一瞬で集めちゃうから。ええーい!」


 気合い入りまくりのルルアによって回収もあっという間に終わり、僕らは一週間どころか半日もかからずに依頼を完遂してしまったんだ。

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