形而上下
宮瀧トモ菌
第一話「野田」
吐く息も
黒の学生服に身を固め、彩度と明度が共に半端な青色のマフラーを無造作に巻いた。荷物の質量に比例する力が両肩に加わる。リュックとはこんなにも重たい物だったのだろうか。
以下は余談なのだが、劣性遺伝が必ず障害をもたらす
これをもう少し具体的に説明してみる。例えば死亡リスクの上がる優性遺伝子があったとしよう。この遺伝子をもっていると、それだけで他人より死ぬ確率が上がってしまうのだ。保持者は幼少期に命を落とすかも知れない。つまり、その遺伝子を未来へ
議論が
俺の高校は県下一の進学校。学友の
「『deliberately』は、『意図的に』という意味。
教科書を片手に教師が板書をする中、俺は
英語はあまり得意ではない。特に単語の暗記が苦手だ。本来無関係な英単語と日本語を
同様に古典も苦手である。古語と意味の間に
これから、古文漢文の代表的な学習意義と
次に、未知の言語を取り
最後に、それらを専門的に扱う者達のために勉強するという意見。これへの反論は、その少数派のために
まあ、古文漢文は教養だと
チャイムが鳴った。これにて四時間目の授業は終了である。
「ここの用法、よく出るから復習するように。それと、来週までに次の章を予習しておくこと」
教師は、昼休みの準備を始めた生徒達に呼びかけて
遊び心の一切ないカバーを着た携帯を制服のポケットから取り出し電源を入れると、通知があった。姉からだ。
『人を襲うついでに一句
「おーい、野田~」
俺に声をかけてきたのは級友である。髪を赤茶に染めた猫目の男だ。
級友はプリントを手に持ってこう言った。
「次の授業の課題が分かんねぇんだよ。野田数学とか得意だろ? これ教えてくれねぇか?」
教えるという行為は単に勉強するよりも
「分かった。どの問題だ?」
「さんきゅ~! これなんだけど――」
彼が指差した問題は以下の通りだ。
『次の不定積分を求めよ。∫sin³θdθ』
「
「
「ほぉ」
「これに二倍角や
俺が三角関数の公式を用いたsin³θの変形をノートに記述していると、机の横で中腰になって
「実はそうでもない。加法定理ってあるだろ? さっきのは、それから
俺はノートの続きにその証明を書く。この他には、オイラーの公式――exp(iθ) = cosθ+ i・sinθ ――の
「つまり、導き方を覚えれば公式を暗記しなくて
「へぇ、なんかすげぇな」
本当に理解したのか分からないが、級友は感心した様子を見せた。
「それにsin³θの積分は、
「かん、てん……? な、
級友は
「お、おう。さんきゅーな、野田〜」
級友の礼を
昼食を購買で済ませる人は
一階に
午後の授業を終え、掃除の時間に
無論、物理学は難解だ。特に、大学物理の扱う数学は高校のそれを圧倒している。しかし、新しい事を理解した時、知らない世界を小さくした、という気が起こる。俺はその一種の快感に
それに行列や重積分、ベクトル解析やテンソル、これらを道具にできないと物理学の本質は見えてこない。例えば、高校の電磁気学では暗記する
「あ、あの……
突然、少女の声が静かに響いた。その
しかし今日は図書室が普段より静かだったからだろうか。学校で時間を忘れたのは
「あの……もう、閉室時間、です」
少女がぎこちなく続ける。これが俺達の
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