第7話

「順調だね……」

 カシウスは青空を見上げながらそう呟いた。山を降る中、彼は多くの人間を救済した。

 突然襲いかかってきたボロボロの布切れで顔を隠した下賤の輩。その中には女子供も混ざっていた。

 そして、彼らは救われたがっていた。だから、カシウスは救ってやったのだ。

「冒険者は身分証が欲しくてなったけど、まだ、何の役にも立っていないね」

 青い空の下には赤い道が緑の中に一本引かれる。

 転がる肉は言葉を発さない。呻くこともなく、救われた。

 ただ、そちらには目もくれずポケットから取り出した冒険証に目を通す。

「処刑魔法……ね。便利だけど、あまり使う必要はないかな」

 一度は使ってみたものの、どうにもカシウスには合わなかった様だ。

「でも、慣れておくべきかな……」

 暫く歩き、ようやく辿り着いた次の村には人の気配というものが感じられない。殺風景というには建造物がそれなりにあって、ただ、人が見当たらないと言うべきだ。

「ふむ、何があったのかな」

 カシウスから逃げた。

 そんな訳ではないだろう。

「こういう時は何をするのが正解だろうか」

 神に祈りを捧げる。

 いや、彼こそが梟だ。祈りには全く持って意味はない。

 ギルドに向かう。それがいいか。

 そう考えた所で、カシウスの背後からザリと砂を踏む音が聞こえた。

「ま、まだ、人がいたのか!」

「君は誰かな?」

 家、二軒ほどの距離でカシウスは尋ねた。

「ああ、では私の自己紹介を聞いてくれ」

 カシウスがそう言いながら、無遠慮に男性に近づく。成人男性のような見た目で、そこまで上背はなく、ただ、でっぷりと出た腹が目立つ。

「私はカシウス・オウル。梟と呼んでくれても構わない」

「梟、だと?」

 信じられないと言いたげに、男は一瞬だけ目を見開くが、それを直ぐに笑い飛ばす。

「梟!あり得ねぇさ!そいつは今、教会に居るんだからな!」

 そう言って笑う男の首を両手で押さえて、カシウスは目を見つめながら囁く。

「まず、君の名前を教えてくれるかな」

 カシウスの青い目が、男の脳を溺れさせていく。このままでは、窒息してしまう。

「はあっ、はぁっ……!」

 息が荒くなっていく。

 それを優しく微笑むカシウスが、肩を二度、優しくトンと叩くとその呼吸が落ち着く。

「さあ、名前を」

「……ルーカス。ルーカス・スミス」

 名前を聞き出して、カシウスはいつもの顔で質疑応答を繰り返す。

「梟は私だ。ルーカス君」

 染み込ませるように、カシウスは告げる。

「ーー梟は貴方、です……」

「では、君が教会に居ると言った梟は何者かね……」

「彼奴は……」

 言葉を表せない。

 濁しているという訳ではなさそうだ。

「では、その梟を騙るもののところまで案内してくれるかな?」

 その声には脅迫の成分は含まれていないはずだ。そのはずなのに、頷かざるを得ない。

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