PARALLEL-GEAR-≪パラレルギア≫ ~85.714285714異世界生活~

猫田猫宗

エピローグ~約束~

第1話 混沌

【この世の最果て】


 目が覚めるとオレは自身の姿すら見えない暗黒の中にいた。

 前後左右どこを見渡しても真っ暗で、自身がちゃんと立っているのかすら把握できなかった。

 ここが何処で、自身が何者なのかすらわからないが、オレがそこに存在しているって事は理解できた。

 有名どころでいえば、デカルトの「われ思う、ゆえに我あり」というのが適当だろうか。

 すると、前方から見えない『何か』が俺に対して唐突に挨拶を投げかけてきた。

 

『やぁ、目が覚めたようだね』

 少年の様な丸みを帯びた声だった。


「……お前は誰だ?」

 どう考えてもこの状況で、気軽に話しかけてくるこいつはたぶん一番怪しい。

 

『僕は何者でもないよ。ただの通りすがりの美少女さ。暇だったから君にちょっかいを出しに来ただけ』

 ―――少年の声で語る。

 美少女と言っておきながら、声は少年の様に聞こえる。

 まぁ、幼年期は男女の差なんてそこまでないか………


「………いやさ、どう考えてもお前怪しいじゃん? ってか、声は出せるけど身体が動かないんだよね、オレ今どんな状態なんだ?」

 先程から、何とか動こうと試みているのだけど全く身体が動かない。

 

『君は「一言も」喋ていないよ。それに、君はもう死んでいるんだから五感なんてものはもうないよ』


「は? いや、今普通に声聞こえてるんだけど?」

 

『そう君が認識しているだけであって実際は、もう君の肉体は消失しているんだよね。ここにあるのは魂だけ。事実、君は自分が「何者」かすら忘れているんじゃないかな?』


―――少女の声で語る。


 話している内容に関しては今のオレの状況に合致する。

 そう、オレは自分の事を思い出せないのである。

 ただ、ここで容易に「こいつ」の話を信じるほど、俺は馬鹿じゃない。

 

「……にわかには信じがたいけど仮に、オレが死んでいるって言うのなら教えてくれないか。『オレ』は何者で、ここは『何処』なのかを」


 とりあえずは、「こいつ」は何者なのか、という疑念は置いておこう。

 出来る限りの情報を聞き出したいところではあるが、強欲は時に自身の破滅を呼ぶ。

 慎重に行こうか。 


『今となっては私はただの「ひまじん」だからね、君の質問に気前よく答えよう。まず、君の名前は「ホシマケイ」そして、ここはこの世の果ての果て、概念含めた全ての存在の終焉を唄う場所、言うなれば「エンド」と言った所かな』


 俺の名前は「ホシマケイ」って言うのか。

 ………ちょっと、キノコの名前っぽいな。

 そして、ここは「エンド」………うん。多分ろくな場所じゃないね。


「な、なるほど。それで、『終わった』存在である俺に、コンタクトを取って来たって事は何か要件があるんじゃないのか? 結局、お前が何者なのかはわからなかったけど、たぶんオレを『起こした』のはお前だろ?」

 

 ここが「終わる場所」と仮定するのなら、そもそもオレは「終わって」いなければならない。

 そうなっていない時点でこいつが嘘を言っているか、もしくは「例外」的な力が働いているか、の二択といったところだろう。


『正解だ。実は、君にいくつか頼み事があってね。それと、私は嘘は言っていないよ。嘘をつくのは人間くらいだろうからね。』


 ………成程、オレが喋っていないってのは本当っぽいな。

 こいつが人の心を読めるって可能性があるにはあるが、わざわざこのタイミングで嘘をつくメリットは薄いだろう。

 嘘というのは「ここぞ」という時に使うからこそ機能するものであって、慢性的な嘘はただの「悪手」でしかない。


 うん。やはり、オレがそう認識しているだけで実際は、考えたことが相手にただ伝わっているだけとみてよさそうだ。

 どうせこれも聞こえている否、伝わっているんだろう?


 頼み事があるとは言うが、それをオレが受けるメリットってあるのか?

 別にオレじゃなくても、ほかの生きている奴にでも頼めばいいだろ?

 何故、わざわざ「終わってしまった」オレにお願いするんだ?


『君に頼むのは君が「最適解」だからだよ。君でなくてはならない。数多いる種族の中で、君だけが「正解」で、唯一ハッピーエンドに到達することのできる「可能性」を作ることができる。僕はね、君たちがいないと寂しいのさ。ある日突然、親に玩具を捨てられてしまったかの如くね』


―――近所の優しいおじさんかの様な声で語る。

 

 要領を得ないな。

 不確定な情報が多すぎる。

 それにメリットに関してはだんまりか?


『メリットならあるぞ。君は「真実」を知ることが出来る。俺は「暇」を捨て去り、そして君は「真実」を知れる。つまり我々は、win-winの関係なのさ』


―――オレの声で語る。


 ……胡散臭くはあるが、お前からは不思議と嘘は感じない。

 この駆け引きに乗ってみるのもまた一興か………


 それでオレは何をすればいいんだ?


『そうだね、とりあえずは「―――」に行って「―――」をやってもらって、その後は「―――」して最後に「―――」をしてもらえればオッケーかな。まぁ、最後の仕事はどうなんだって思うかもだけど、一応は君の仕事であると定義しておくよ』


……は? 正気か? 絶対お前性格悪いだろ。

 どう考えても、達成できるとは思えない。

 あと、俺の知らない単語があまりにも多すぎる。

 


『まぁね、何せ僕は「―――」だからね。後、一応言っておくと、僕は君を生き返らせる事は絶対にできない。君が「死んでいる」というのは、もはや変えようのない真理だからね。肉体を作ってあげられるのは契約の期間だけだ。それを踏まえたうえで、僕と契約して魔法少女になれるかい?』


―――いつの間にかに、少年の声に戻っていた。


……成程、そういう事だったか。なら、「可能」かもしれないな。


 ってかお前、それが言いたかっただけだろ!

 まぁ、お前が好みそうなアニメではあるけどさ。

 


―――少し考えてから結論を出した。きっと、この選択に後悔はない。いや、今の俺は持ち合わせてないんだろうけどな。しかし、疑念は残る。



 なぁ、オレだけじゃ最初の仕事を完遂するのはやはり難しいんじゃないか?


『何、問題ないさ。合併の方はいい感じに僕が唆しておくよ。それくらいならバレても気にもしないだろうしね。君は君の仕事をしてくれれば最初の難関は超えられると思うよ。』



……わかったよ、このままただ消えるよりかはましだな。

 オレは自身のこれからやることを一度頭で整理する。


 よし。ちょっくら世界でも救いますかな。


『契約成立だね。では行こうか、少しの間ではあるけどよろしく頼むよ』


 いや、お前ら基準では短いのかもしれないけど、オレからすればなげーんだわ。


『……コイバナでもするか?』


 うるせーぞ、ケモナ―野郎が。


 

 


 かくして世界の歯車は再び動き出した。


『果たして【愚者】は、どういった旅路を送るんだろうね。』


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 【幕開け】


 その日、世界は死んだ。


 2030年 世界は第三次世界大戦が勃発し、核の打ち合いで"混沌"と化していた。


 オレが最期に覚えていた事は三つ。


 一つ目は つけっぱなしのテレビからアナウンサーが何やら叫んでいた事。

 二つ目は 部屋の窓から見える血の様に赤く染まった美しい夕暮れの景色に、七つの丸い何かが現れ瞬時に強い光に飲まれた瞬間。

 三つ目は、………


 あぁ、そうそう! 三つ目は今晩のオカズを探している途中であったって事だ。


 一番大切なことを忘れるところだった。


 現状確認のために何があったのかを思い出すことに成功した青年、保志間 慶ほしまけいは何もない真っ白な空間にて胡坐をかいて途方に暮れていた。


「いやさ? わかるよ? 多分オレ死んだんだよね? 死んだのはまだ理解できるけど、こんな何もないところで放置はおかしくねえええぇぇぇぇっっっ?」


 死してもなおぞんざいな扱いをされ、キレ絶叫をかます22歳童貞フリーター保志間慶。

 状況的に見て、核戦争して人類滅んじゃったわ☆てへぺろ、クソエンドである可能性が高い。

 

「まぁ、叫んだところで何かが変わるわけでもないしとりあえずは歩くか」


 切り替えだけは一丁前ではあるが、ただ冷静を装っている自分かっこいいと思っているだけだ。

 つまり、それを認識しているオレはカッコいいという事だ。


少し歩いたところで唐突に得体の知れない"何か"に見られている様な感覚がした。


「おい! 誰かいるのか!? 」


「…………」


 返事はなかった。


 何とも言えない不気味な感覚を覚えながらも、返事がなかった事に少し安堵し再び足を進める。


 さっきのちょっとした恐怖体験を、少しでもまぎらわせる為に今までの人生を振り返ってみた。

 

 

 今思えばしょうもない人生だったと思う。


 高校卒業後は大学に進学するでもなく、正社員として働くわけでもなく、ダラダラとフリーターとして実家で生活をしていた。

 オレ自身、何とか正社員として自立しなければと思い色々と勉強等々をしてみたが三日と持たなかった。


 そのあとはその繰り返し。何にも身につかずその都度焦りを覚え勉強し、そして三日坊主で終わる。


 好きだった女の子には告白する勇気もなく、何なら「頑張れるように」とお守りまで貰う始末だ。


 彼女のことを思い出す。星城小雪せいじょうこゆき、黒髪ロングの清楚系美人で、誰にでも優しく文武両道の超人だった。


 オレとの唯一の接点は家が隣だったってくらいだ。

 他にはない圧倒的アドバンテージ"お隣さん"を生かせることなくオレは死んでしまった。

 後悔ばかりが胸を刺す。

 もし「正規雇用だったら」告白出来てたのかな? と考えながら歩いていたら唐突に足が止まった。


 目の前に威圧感を放つ銀色に輝く大きな門と、深くローブを被った"何か"がそこに佇んでいた。

 ローブを纏った「何か」は俯いていて顔がよく見えない。

 身長はやや俺より低く、女の子の様に感じる。


「うおっ!? でっか! ってかなんでこの大きさで気がつかなかったんだ!?」


 突然の出来事に驚きながらも俺はローブを身に纏った「何か」に再度視線を向けた。

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