第54話 幼馴染の決意

「こんなところで死ぬわけにはいかない」


茜さくりは、不審に動くマネキンたちを相手に、魔法を使いながら逃げ続けた。

強制転送魔法で何体も飛ばしていく。情け容赦なく。

だが、さすがに多勢たぜい無勢ぶぜい。MPも切れる。

いつの間にか追い詰められ、囲まれる。そのたびになんとか切り抜けていった。


そして逃げ回りまくったあと、周囲を警戒しながら、

敵が追ってこないことを確認して、その場で立ち止まった。

物陰ものかげに隠れ、見つからないようにじっと息をひそめる。


しばらく待つ。数分ほど周囲をのぞき見る。

……追ってこないようだ。

さくりは安堵あんどの表情を浮かべた。


敵に追われなくなったからか、さくりの感情が、どっとあふれ始める。


みんく。どうして。どうして……あんな奴を助けるの。

ボクのほうが正しいはずなのに。理解できないよ。


さくりの心の中は、そんな叫びでいっぱいだった。

さくりは、幼いころからみんくの隣に住んでいて、一緒によく遊んだ。


毎日、みんくのことを考えていた。

どうやって遊ぼうか、どうやって会話しようか、

自分のことを良い感じに知ってもらうにはどうしようか。

そんなことばかり。

実際、みんくとも仲良く暮らしていた。

ずっとこのまま、この状態が続けばいいのに……。


だけど、その日常は完全に破壊されてしまった。

アノミーによって。


仮想世界の茜さくりは、監視機関「パノプティコン」に所属し、

アノミーやVIRUSのような「世界を壊す存在」を取り締まっている。

だからよりいっそう、みんくがアノミーと一緒に行動していることを、

悔しく思っていた。


早く、みんくを連れ戻さないと。私の側に。

もしパノプティコンの上層部にみんくのことを知られれば、

アノミーの協力者としてみんくを捕まえるよう指示が出るだろう。


パノプティコンは仮想世界を破壊する「悪」を絶対許さない。

みんくも、どんな目にあうかわからない。

そうなる前になんとかしなければいけない。


まだ間に合うはずだ。

さくりは、みんくを取り戻すための計画を始めることにした。


まず家に戻って、体調を整えて、魔法の腕をみがいて、

できれば他の捜査官とも協力して……。

アノミーを倒す。そして、さくりだけは連れ戻す。


みんくはだまされているだけだ。

けっして、アノミーの好きにはさせない。

取り戻して、二度とおかしな考えを起こさないようにしつけないといけない。

大事な幼馴染おさななじみとして。


幼馴染おさななじみの決意は、岩のように固く、

それは、誰にも壊すことはできなさそうだ。



つづく

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