第16話 俺は…何者になれたんだろう?

 灯台を前に大きくため息を吐いた。

「俺は…ここら辺りでリタイアってことなのかな…」

 レーダーが灯台の扉に手を掛ける。

 ピリッと静電気が走り、手を引っ込めた。

 灯台の上で暗雲が立ち込めている。

(そろそろなんだろな)


 レーダーは錆びた扉を開けて灯台の中へ入った。

 パチッ…パチッ…壁が弾けるように帯電している灯台、その壁に赤いペンキで『病院へ向かえ』と書かれている。

 頭をガリガリと掻いてレーダーは深いため息を吐いた。


「行くんだろ」

 振り返るとドライブとブッシが、ずぶ濡れで立っている。

「JCが、ソコにいるんだな?」

 ブッシがレーダーに確認するように聞く。

 黙って頷くレーダー、ブッシとドライブの間に入って2人の胸を左右の拳でトンッと叩く。

「あぁ…この仕事も大詰めってことだ」


 灯台の外には黄色いフォルクスワーゲン・タイプ2が停まっている。

「根回しのいいことで…」

 レーダーが煙草を取り出そうとコートのポケットに手を突っ込む。

 海水で湿気た煙草を取り出し、グシャッと握り潰して灯台の壁に叩きつけた。

(送り出すことしかできねぇんだから…せめて見送りくらいはしてやらねぇとな)

「行くぜドライブ、ブッシ」


 ゴボンッ…ブォン…

 ドライブがエンジンに火を入れてアクセルを踏み込む。

「行き先は、病院でいいいんだよなレーダー?」

「あぁ…他に何処へ向かう気だったんだ?」

「…いや…もう…」

 ドライブが口ごもる。

 後部シートからブッシが口を挟む。

「このまま、バッくれるって選択肢もあったんだ…」

「あった?」

「あぁ、さっきまでな」

「もう…覚悟は決まってんだレーダー…俺達もな」

 ドライブがハンドルを病院へ向ける。

「そうか…お前等も気づいたんだな…」

 ドライブとブッシが黙って頷く。

 助手席の窓を開けて夜風を車内へ入れる。

「少し…寒いな」

 レーダーが呟いた。


 黄色いフォルクスワーゲン・タイプ2は道路を疾走する。


 信号もない…誰ともすれ違わない道中は不気味な程に静かだった。

(この街の住人は、もういない…)


 呼んでもいない訪問者ビジターに占拠された街。

 そして…超越者ビヨンドがのさばるだけの街。

 街の光は誰のために?

 少なくとも自分のためにではないことだけ…今は、それだけは理解できる。

 窓を閉めて深く深呼吸して車を降りる。

 緊急外来の入り口に3人が立つ。


 レーダー自分の掌を眺めて、ふと考えた。

(俺は…何者になれたんだろう?)

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