第21話 恋愛青空幼馴染学

 しゅんや葵ちゃんより一足先に学校に到着した私は葛藤していた。

「はぁ……どうしよう……」

 昨日の雨とは相反して、綺麗な雲1つない青空を眺めながら私は呟く。

 私は今2つのことを考えていた。

 1つは2人を置いてきてしまったことで俊と葵ちゃんが気まずいことになっていないかということ。


 そしてもう1つはと言うと……

「まさか俊が私の事を女の子として見てくれてたなんて……」

 私の家で俊が葵ちゃんに向けて言っていたことだった。

 葵ちゃんが俊に向けて、私を女の子として見た事があるかという質問に俊はこう返したのだ。

『そんなのあるに決まっているだろ』

 と。


 その先の問答は聞くのが怖くなってしまい、中断させてしまったのだけれど、止めなかった場合俊はどんな答えを言っていたんだろう……。

 とは言え、

「どうしよう、これから先アイツのことどんな顔して見ればいいんだろう……!」

 ずっと好きだった幼馴染の男の子が、私を女の子として意識していたことがわかったのだ。これで意識しない女の子はいるだろうか。いやいないっ!!!


「あぁ、でもどうせおっぱい星人なアイツの事だしどうせ気づかないだろうなぁ……それが俊なんだけどさ」

 そう、恋した相手が普通の人だったら私はここまで悩んでいないのだ。

『あなたの事が小さい頃から好きだったの!』

 おそらくこれで済むだろう。

 だが相手はおっぱいの事で頭がいっぱいの松木 俊なのだ。

 例えおっぱいの変化にしか気づかなかったとしてもそれが俊なのだ。それが私の好きになった人なのだ。

 それでも

「…………けど、それはそれで傷つくなぁ」

 覚悟はしていても辛いものは辛いのだ。

 そんな事を考えている時だった

「……櫛名田くしなださん?」

 誰かが私を呼んでいる気がしたのだ。


 いや、気のせいだろう。


 そう思い、私はまた俊のことを考え始めた。

「いや、でも意外と俊なら気づいてくれるかも……?そうよ!私にピッタリな言葉があるじゃない……っ!」

「櫛名田さん」

 あぁ、空耳がうるさいなぁ………。今いい所なんだから邪魔しないでよ。


 私は空耳を跳ねけ心の中である言葉を叫んだ……つもりだった。

「最後は幼馴染が勝つって言葉があるじゃない!」

 まさか口に出すなんて思いもしなかった。

 すると、私のすぐ真横からシガれた声が鳴り響いた。

「櫛名田 愛咲ありささん!!!」

「はいっ!?」

 私は思わず反射的に椅子から立ち上がり、ピンっと背筋を伸ばした。

「……今はなんの時間ですか?言ってみなさい」

 そう言って気づけばすぐ真横に立っていたおばあちゃん先生が私に質問してきた。

 私は恐る恐る教室の壁に掛けてある時計の時間を確認し、

「……授業時間です」

 そう答えた。

 すると、おばあちゃん先生は皮肉っぽくこう言う。

「幼馴染との恋愛に関する?」

 私はその発言にイラッとしながらも、それをグッと抑えながら

「……いえ、数学です」

 と答えた。

「分かってるならそれで宜しい。恋の妄想は休み時間内にするように」

「妄想なんかじゃ……っ!」

 クルっと身をひるがえし教卓の方へと戻ろうとしながら呟いた文句に、私は思わず反論しかけてしまった。

 私の俊への想いを妄想の一言で片付けられてしまったことに我慢が出来なかった。

 でも、

「まだ、何か?」

「……なんでもないです」

 先生に反抗する勇気は俊や種田くんとは違って、私には無かった。

「そう?それじゃあ授業再開するわね」



 俊みたいに自分の好きなものを堂々と言いきれるくらいになりたいなぁ……。


 そして、そのまま今日一日私の気持ちが黒板の方に向くことはなかった。



********************



「さて、俊。俺は今モーレツに怒っていることがある。なんだか分かるか?」

 昼休みになり、俺は文也にキレ気味に詰め寄られていた。

 文也がキレることで思い当たる節は……結構あるが、きっとあのことだろうと俺は思い

「……さっき、永瀬ながせ先輩と遭遇した時に無理やり告白させようとしたことか?」

 と文也本人に聞いた。

 だが文也は首を横に振る。

「それもあるが、根本こんぽんはそこじゃない」

「ならなんだよ」

 今日文也がキレることは永瀬先輩の話くらいしか思い浮かばなかった。

 すると、文也が突然俺の胸ぐらを掴み

「どうしていつものおっぱい本持ってきてねぇんだよ!!いつも持ち歩いてるだろぉ!?」

 と叫び倒す。


 あぁ、なるほど。文也はよっぽど俺と性癖開示デュエルをするのを楽しみにしていたんだな。

 が、しかしそれでも俺には事情があったのだ。

「……今朝、愛咲の家に置きっぱにしたんだよ。流石にあんなに大量に学校に持ち込めるわけがないから。だから今日は無理だ」

 そう、俺は今朝立寄った俺の幼馴染である櫛名田 愛咲の家に俺の家から持ち出されたおっぱい本をそのまま置いてきたのである。

 理由は上述した通りもあるが、単純に20冊も一気に持ってくるのはしんどすぎたからだ。

 それに納得したのか

「ちぇー」

「すまんな」

 あっさりと引き下がる文也。

 すると、文也が不思議そうな顔をしてこんな質問をした。

「てかさ、水沢さんはどうなんだ?あの子はなんか大量に持ち込んでたけど」

 俺が彼女へと返したロリ本はせいぜい5.6冊である。正直持ち運ぶには不可能ではない量である。

 が、文也が心配してるのは量ではなく中身であろう。

 しかし、残念なことに俺らと葵ちゃんとでは決定的に違うところがあるのだ。

「……漫研の資料って言い張って、いつもゴリ押ししてるからな。風紀委員ももう諦めたんだろう」

「俊もそうすればよかったんじゃね?お前も漫研なんだし」

 文也は他人事かのように呑気なことを言う。

「俺のは18禁のもあるんだぞ?すぐさま没収対象だわ。それに俺と葵ちゃんとでは人望が違いすぎる」

 俺がそう告げると文也は遠い目をしながら言葉を発した。

「あー……。確かに、表向きは小柄で可愛い人懐っこい美少女だもんな、あの子」

 そう、葵ちゃんの風紀委員からの評価は“ 良”なのである。ちなみに俺と文也はと言うと生徒会長のラン先輩からの情報からだと“ 外”らしい。“ 論外”の“ 外”。

「実態は小さい子大好きなロリコン美少女なんだけどなぁ」

 俺は溜息をつきながら外を眺める。

「そして、お前に好意を寄せていると」

「……は?何言ってるんだ?」

 突然文也が変なことを言い出し、俺は外の綺麗な雲一つない青空をそっちのけに再び文也の方へと振り向く。

「え?」

「葵ちゃんが俺に好意を寄せてるわけがないだろ。ただからかってるだけだって」

 そう、あんなに可愛い子が俺に好意なんて向けるわけが無いのだ。

 すると

「……マジで言ってる?」

「……え?」

 文也はさっきまで以上キレ気味で俺に突っかかる。

「お前の前だから水沢さんは素を見せてるんだぞ?分かれよコノヤロウ!しまいにゃ殴るぞ!!」




 俺は文也が一体なんのことを言っているのか、分からなかった。

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