第9話 教師と生徒がラブコメ展開になんてなるはずがない

 俺と文也ふみやは、ラン先輩に連れられて教職員用の駐車場に到着した。

 流石に屋外にあるということもあり、ラン先輩の傘に3人で入って向かうという奇妙な状態で、なんとかなぎさ先生の車の元へとたどり着いた。

「お姉ちゃ〜ん。2人とも連れてきたよ〜」

「おー、ありがと」

 既にエンジンを吹かしていた渚先生が、車の中から返事をした。

 そしてラン先輩に誘われるがまま、俺たちは渚先生の車に乗り込む。ラン先輩が助手席、俺と文也が後部座席に座った。


 すると

「それとこのままお姉ちゃんの家に直行していいよ〜」

 ラン先輩がいきなり本題を話したのだった。

「ちょっと待ってラン」

「何かな?お姉ちゃん」

 突然のことに食い気味に事情を聞こうとする渚先生と、それに負けないくらいにこれまた食い気味に聞き返すラン先輩。

 けれども渚先生は負けじと、

「それって、このおっぱい星人と太もも魔人を家に連れていくってこと?こいつらの家に送り届けるんじゃなくて?」

 とラン先輩に質問をする。

 しかしラン先輩は動じることなく

「うん。そういうこと〜」

 と、ただ頷いてそう言った。


「お前らはそれでいいのか?私は別に見られて困るものないからいいんだけどさ」

 ラン先輩から事情を聞くのを諦めた渚先生が、今度は俺たちに聞くことにしたようだった。普段見ることの無い、やや困り気味な渚先生に少しドキリとしながらも、俺たちの答えは決まっていた。

 いや、ラン先輩によって決められていた。

「「なんか俺らには拒否権が無いみたいなので」」

 息ピッタリに俺たちは渚先生にそう言った。

 俺たちのこの言葉に呆れたようにラン先輩の方へと体の向きを変える。

「ラン、あなたねぇ……」

 どこか心配するように、それでいて若干咎とがめるような口調の渚先生。

 しかし、ここでも永瀬先輩を翻弄ほんろうさせたラン先輩のマイペースさは健在であり、

「えへへっ。2人を知れるいい機会かなぁって」

 と無邪気な笑顔で渚先生を魅了しようとする。

 すると根負けしたのか

「まぁランがそう言うならいいわ。……お前ら、覚悟しておけよ?」

 渚先生が俺たちに向けてそう忠告してきたのであった。


 当然俺たちはなんのことかは分からなかったが、何やら嫌な予感が襲いかかってきたので

「え、待って今から何が待ってるの?」

 俺はとてつもなく不安になってきたのだ。

「行ってからのお楽しみだよ〜♡」

 笑顔を崩さないラン先輩独特の緩いフワフワとした口調が逆に恐ろしくなったのか

「……ちょっと急用が」

 文也が雨に濡れることを覚悟し、車を降りようとした。

 しかし、文也の腕をラン先輩ががっちり掴んでおり

「拒否権は無いわよ〜?」

 逃げることが出来なかった。

 ゆるフワな口調もこの時ばかりは崩れており、より一層恐ろしかった。


 そしてトドメの言葉をラン先輩の姉である渚先生が放った。

「諦めた方がいいよ。ランってば狙った獲物はそう簡単に逃さないみたいだから」


 俺たちはただただ絶望した。

 どうやらラン先輩に獲物認定されたようだった。一体この後何が、待っているのだろうか。


『急用ができたから、私と葵ちゃんは先に帰ってるよ。待っててって言っておきながらゴメンね』

 愛咲から届いたメールを眺めながら、俺はただただ呆然としていた。


 今日、この後渚先生とラン先輩の家で何が起こるのかを想像をして……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る