第1話 世間はおっぱい好きに厳しい

「昨日、一目惚れしました。私と付き合ってください!」


 朝、下駄箱の中に『 昼休み、プール裏に来てください』と書かれた手紙が入っており、その通りに昼休みプール裏に来たら金髪美少女がいた。

 そしてその女の子に出会い際にいきなり告白された。


 俺が戸惑っていると、金髪美少女は言葉を続ける。


「ダメ……ですか?」

 首を傾げながら、左手を丸めて顎の辺りに添えた。


 なるほどこれがあざと可愛いと言うやつなのだろう。

 きっと自分の強みを知っているのだろう、この金髪美少女は。


 だが俺は

「ごめん、君とは付き合えない」

 彼女の告白を断った。


 たしかに告白してくれた子は可愛い。他の人なら恐らく即OKするだろう。それほどまでに可愛かった。

 けれど、俺には譲れないところがあった。


 しかし、当然彼女にも彼女なりのプライドもあったのだろう

「理由教えて貰ってもいいですか?」

 諦める姿勢を示さなかった。


「理由か……」

「それ聞かないと、納得できないです」


 どうやら彼女は引く気がないようだった。



 そこまで言われては、理由を言わない訳にはいかなかった。

 どんなに、驚かれようと……。




 *********************




「……告白断った理由ちゃんと言っただけなのに、どうしてあんなにののしられなきゃなんないんだよ」


 頬を真っ赤に腫らしながら、先程の金髪美少女に置いていかれた俺はブツブツと呟いていた。



 すると後ろから


「そりゃ、フラれた理由が『 理想のおっぱいじゃないから』なら当たり前の反応じゃないかしら?」


 よく通る、明るい声が聞こえた。


 振り返るとそこには、ピンクの長い髪をなびかせながら両手を腰に当てた胸の大きい美少女が階段に立っていた。


 向こうは気づいていないようだが、チラチラとオレンジ色の下着が見えていた。


愛咲ありさ、見てたのかよ」


「まぁね〜」


 この子の名前は櫛名田くしなだ 愛咲ありさ

 俺と同級生の2年生で、幼少の頃からの付き合いのあるいわゆる幼馴染と言うやつだ。

 中学の頃までは黒髪だった彼女だったが、俺らが通ってる地元から少し離れた場所にある山ノ崎高校では校則が緩いこともあってピンクに染めたようだ。

 何かと俺の事を気にかけてくる事があり、ちょくちょく衝突することもある。そのやり取りが楽しかったする。そのことを彼女自身には言えないが。きっと怒るだろうし。



 そんなちょっと怒りやすい愛咲が続けて口を開く。

「因みに、私だけじゃないわよ?」


「え?」


 愛咲の言葉で、俺は不意に周りに見渡した。すると、1人草むらの中からひょっこりと、青く短い髪の小柄で胸の小さいこれまた美少女がカメラを構えながら勢いよく飛び出てきた。


「櫛名田先輩、何でバラすんですか〜。部活の時に俊先輩をイジるネタが減っちゃったじゃないですか〜」



「あら、ごめんね葵ちゃん。お詫びに後で中学での俊の事教えてあげるから」


「ではそれで手を打ちましょう。あ、こんにちは俊先輩」


「やぁ葵ちゃん……」


 愛咲と仲良く俺をイジるネタについて話していた女の子の名前は水沢 あおい

 俺が所属している漫画研究部、通称『 漫研』の部員で俺の一つ下の後輩だ。

 絵のセンスが抜群で部活で描いた絵をSNSに投稿しては毎回バズらせている人気上昇中の素人絵師である。

 何かと俺にちょっかいを掛けてくる、そんなイタズラ好きの可愛い女の子。




「なぁ愛咲」


「うん?どうしたの、俊」

 俺の呼び掛けに首を傾げる愛咲。なんのことを聞くのか、分かっているのか、愛咲は少し笑っている。


 ちくしょう、可愛いなぁ。


「さっきの話はせめて俺のいない所でやってくれないか?放課後の漫研が今からすっごい怖いんだけど」


 愛咲の可愛さに負けじと、自分の不安を零すと


「遅かれ早かれ話すことになるから問題無しよ。今から葵ちゃんにどうイジられ倒されるのか楽しみだなぁ〜」


 破壊力抜群の口撃をされた。

「くっ……他人事だと思ってニヤニヤしやがって」


 俺をからかっても楽しいことなんてないだろうに。




「それにしても、さっきの人は災難ですね。おっぱい星人さんな俊先輩に告白してフラれちゃうなんて」


 告白の話に戻したと思いきや、サラッと俺の性癖の話を絡め始める葵ちゃん。


 そしてそれに乗っかるように、愛咲も乗っかる。


「確かにね。しかも大きい小さいだけじゃなくて形や柔らかさにまでこだわりを持つド変態だもんね、コイツ」


 愛咲はそう言いながら、徐々に言葉を紡ぎながら俺を見る目が蔑みに近いものになっていった。


「ゴミを見る目は、その、やめてくれない?俺にはそういう性癖は無いから」


 大丈夫、ゾクゾクなんてしていない。


「全く、未成熟の良さが分からないなんて俊先輩もまだまだですよね〜」


 そう言いながら、自身の未成熟な胸をポンと叩きドヤ顔をする葵ちゃん。


 俺はその葵ちゃんの態度と言葉に反応せざるを得なった。

「いやいや、葵ちゃん。大きさ、形、柔らかさの絶妙なバランスが整ったおっぱいこそが至高に決まってるじゃないか」

 と。



 しかしこれが良くなかった。


「へぇ……。つまりは程よい大きさ、形、柔らかさに成長しきったおっぱいが好きと?」


 突然様子がおかしくなる葵ちゃん。


「未成熟の神秘を受け入れることの出来ない先輩にはちょっとお仕置きが必要かもしれませんねぇ……」


 淡々と言葉を発する葵ちゃんに恐怖すら覚えた。

 どうやら、葵ちゃんの怒りポイントに触れてしまったようだった。


 突然様子がおかしくなった葵ちゃんに俺は腰を抜かし、動けずにいると

「落ち着きなさい、葵ちゃん」

 愛咲が葵ちゃんの背後に回り込み、落ち着かせるようにギュッと優しく抱き締め始めた。


 すると効果があったのか、みるみるうちに葵ちゃんの様子が落ち着いていき

「あっ……、櫛名田先輩……」

 フラットな状態へと戻っていくのが分かった。



「た、助かったぁ……」

 思わず俺は安堵の溜息をついた。



 しかし、安心するにはまだ少し早かったようで


「いい?葵ちゃん?そういうのは、部活の時にするといいわよ。俊に逃げ場を作らせちゃダメ」


「なるほど、流石は俊先輩の幼馴染です。いい情報聞きました」



 唐突に堂々と作戦会議を始める愛咲と葵ちゃん。



 つまりはまだ危機からは脱してはおらず


「てことで、先輩。また放課後の部活の時に、ですね♡」


 むしろ、余命宣告を下されてしまった。



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