7、初めてのセックスごっこ


 福男が言うところのロリ姫、つまるところ幼き日の春姫は、今よりもかなり活発な女の子だった。髪も短く切って、おままごとかよりも、外で遊ぶほうが好きで、走るのも男子に負けず劣らずで速かった。


「テッちゃん、あそぼー!」


 小学校低学年くらいまでは、春姫は良く俺の家のチャイムを鳴らして、川とか野原に連れ出して、ザリガニを釣ったり、オニヤンマを捕まえたりして遊んでいた。


 毎週水曜日は互いの両親が帰るのが遅いので、ちょっとしたお泊まり会をしていた。春姫が俺の部屋に来て、隣に布団をいて眠るだけの簡素なものだ。


 セックスごっこが始まったのも、そんなおりだった。絵本にも枕投げにも飽きた春姫が、ゴロンゴロンと布団の上で転がって、思いついたように言った。


「ねぇ、テッちゃん、大人ごっこしない?」


「なぁにそれ?」


「お母さんとお父さんが夜中にやっているんだよ。ほらこうやって……」


 ボフンと毛布をつかんだ春姫がのしかかってくる。


「一緒に布団の中に入るの!」


「えー、真っ暗で何も見えないよー」


「それからね。こうやってギュってして」


 春姫が俺の身体を強く抱きしめる。


「姫ちゃん、く、苦しい……」


「楽しくない?」


「ぜんぜん、楽しくない……」


「そう……」


 春姫がしょぼんと肩を落とすのが分かる。この時の俺は春姫が悲しむのが何よりも嫌なことだった。暗がりの中で、俺は春姫を元気付けるように言った。


「でも、もうちょっとやれば楽しくなるかもしれない」


「本当?」


「本当。それから何するの?」


「次はね。こうやって身体をカクカクって」


 春姫がおもむろに身体を動かす。

 この時の俺は何が楽しいのかまったく分からなかったが、春姫が一生懸命に身体を動かすのが健気で、とりあえず彼女の好きなようにやらせることにした。


 人の上で奇妙なダンスを繰り広げる春姫をただ見ていると、彼女はうーんと首を傾げて言った。


「テッちゃんも動いて」


「う、動く?」


「そう。大人ごっこは二人とも身体を動かさないと、ダメなんだから」


「どうやって動けば良いの?」


「うーんとね」


 本当は何も知らないくせに、知っているフリをする。小さい頃の春姫は、どこか背伸びをしたがるようなタイプでもあった。


「くすぐるの!」


「良いの? くすぐって」


「良いよ。その代わり、私もテッちゃんのことくすぐるから」


「えぇ……」


「よーい、ドン!」


 有無を言わさず、春姫が俺の身体をくすぐってくる。仕方がないので、俺も春姫の身体をくすぐり始める。

 アッハッハと笑いながら、毛布の中でちち繰り合う二人を見たら、おそらく両親たちは驚愕するに違いなかっただろうが、あいにく止めるものはいなかった。


 ぽっぽーと鳩時計の音をなんとなく合図にして、俺たちはくすぐり合うのをやめた。


「あー、楽しかったー!」


 春姫が満足そうに言った。すっかりやり切ったと言う顔で、赤くなった顔をパジャマの袖でふいた。


「テッちゃんも楽しかった?」


「うん!」


「やった! じゃあ毎週水曜日は大人ごっこの日ね!」


 こうして次の週も。そのまた次の週も。

 俺たちのセックスごっこの日々は始まった。

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