第12話 魔石の価値

「なんだと? 貴様、どうやら死にたいようだな」






俺様はカウンターの向こう側にいる男の店員をそう言って睨みつけると、「そ、そんなこと言われましても……」と後ろで他の業務に当たっている他の店員に助けを求めるような視線を送る。






俺達はグレイスが荷物と馬車を宿屋へ置いてくるのを待って、約束通りグレイスの馴染みの商会へとやってきていた。


グレイスはいつも村から持ってきたルベリの村から持ってきたまとまった大量の特産品などを売った金で村に必要な物資を買っている為か俺様達を連れてきた商会はそれなりに広くしっかりとした商会だった。というのが俺様が店内に入った時の第一印象だった。




だが、どうやらそれは違ったらしい。






「おいおい、どうした? なにかあったのか?」






俺が男の店員を睨みつける中、グレイスは持ってきた特産品の査定に時間がかかっているのかこちらへやってくると俺様にそう声をかけた。






「どうもこうもあるか。お前よくもこんな悪徳商会を俺様紹介しやがったな?」






そう言って俺様がカウンターをドンッと叩くと、カウンターに置いていた魔石が振動で一瞬宙に浮く。




すると、その音で気づいたのか店の奥から明らかに責任者らしき高級そうな黒いジャケットを着た中年店員が俺様のいるカウンターへとやってきた。






「どうされましたか? お客様」






先程まで俺様を対応していた店員を下げさせてから中年責任者の男は俺様にそう問いかけてきたので、俺様は仕方なくここであった一部始終を話してやることにした。






「どうもこうもあるか。俺様はここにある魔石の査定を貴様の後ろにいるそこのダメ店員に査定を頼んだ。したらどういうわけかそこのダメ店員がありえない金額を提示したものでな」






俺様が査定を頼んだ魔石はエメルが言うには金貨30枚はくだらない3cm程のそれなりに高純度の魔石だった。


それをあろうことか中年責任者の後ろに下がっている店員は銅貨3枚とありえない査定価格と叩き出したのである。


ちなみにこの世界での硬貨の価値は俺達のいた世界と同じで銅貨100枚で1銀貨、銀貨10枚で1金貨となっている。


つまり30金貨は3万銅貨と同価値であり、あの店員はそれをたったの1万分の1の3銅貨と査定したのである。




そんなものはほぼ詐欺に近く俺様のような心の広い偉大な勇者でなければ、店ほど焼き払ってしまってもおかしくない案件だろう。






すると、責任者風の中年男は「魔石?」と小さく呟いた後、テーブルへと置いてあった魔石を手袋のつけた手で拾い上げた。




そして責任者風の中年男はすぐに査定額を俺様に告げた。






「うーむ、2銅貨ですね」






下がってるじゃねーか!






「そんなわけあるか! よく見ろ! 魔石だぞ! 純度も分からんのか!」






俺様はそう言って責任者風の中年男に抗議を上げるが、男の査定額は変わらない。






「魔石とか純度とかはよく分かりませんが、子供がつけているアクセサリーによくついている只のキラキラ石ですね。まぁ加工費に3銅貨かかるとして10銅貨ちょっとで売れるかどうかという所でしょうな」






魔石を子供用のアクセサリーに? どこの大富豪の子供だ! と魔石の価値をあまり理解できていない俺ですらそんな心の叫びをあげる中、俺の後ろにいたグレイスが話に割って入る。






「あ、それなら俺が3銅貨で買おうか? うちの娘がちょうどそういうのが好きな年頃なんだ。まぁアッシュさんには恩があるから5銅貨で買ってもいいが、それ以上だとそこらへんの出店で買った方が安そうだからな」






そんなグレイスの話を聞いて、エメルは「ははは、5銅貨」と苦笑いすら浮かべている。




とはいえ、一つ分かった事がある。




この世界における魔石とは只のキラキラな石以上の価値を持たず、希少性もそんなに高くはないという事。


恐らく、魔法が存在していないというのがその大きな要因の一つでもあるのかもしれない。


グレイスが商店側とグルという可能性もまったくの0ではないが、命を救ってやった俺様にそんなことをするほどグレイスが悪人だとは俺様も思えないのだ。






そんな中、なぜか責任者風の中年男がセラの方をじーっと見ている事に俺様は気づく。


確かにセラはエメルと比べると魅力的な体をしているかもしれないが、その中身はただの変態である。


まぁエメルはちんまりな上に守銭奴なのでどっちもどっちと言えばどっちもどっちなのだが、とにかくセラは変態なのだ。




とはいえセラも一応は俺様の手下なので「おいっ」と注意しようとした所で責任者風の中年男がセラに声をかけた。






「すいません、そこのお嬢さん、申し訳ないが首に下げているその宝石、少しだけ見せて頂くことはできませんか?」






「えっ、これですか? 別に構いませんけど」






責任者風の中年男にそう言われ、セラは首につけていた2cm程のピンク色の宝石がついたネックレスをテーブルへと置くのだった。




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