叡智の困惑

キザなRye

第1話 遺体発見

 静まり返った夜の街に赤い光を携えていくつもの車が同じ方向に走っていく。街には赤い光と高い音とが木霊していて人がそちらの方向を至るところから見つめている。

 ベランダで外を眺めている人が多く見えるマンションの角を曲がるとそこに黄色と黒のテープが張られていた。

 そのテープの内側に警視庁の中では名の知れている警部、山口がいた。所轄署に属している彼は何度も昇進のチャンスがありながらもそれを断り、警部として十五年も刑事人生を送っているのである。

 山口を含めたたくさんの人が取り囲んでいるところには頭部から出血している男性が倒れて亡くなっていた。

 その男性の手元にはアルファベットの“エイチ”と血文字で書かれていた。右手はエイチの隣に付いたままになっていた。まだ何かを書こうとしているとも捉えられる場所に手がである。

 山口は他に何かないかと男性の周りを調べた。よく見ると周りに細かい破片のようなものがいくつも散らばっていた。それは石のようだったが、特に事件とは関係ないと判断しあったという事実のみ記録された。

 暫くしてから捜査員たちは捜査本部が設置された所轄署に集まり、捜査会議が行われていた。

 男性のコートのポケットの中にあった財布の免許証から男性は目黒区に住む内田角利ウチダスミトシ(36)だということが判明した。

 免許証に書かれていた情報から家族には連絡されていて家族の中では誰かに恨まれているというような話は聞いたことがないし、誰かに殺されるなんてことは考えられないという。

 事件現場の周辺を調べていた捜査員から現場の百メートル先の側溝の中から血液のようなものが付いたハンマーが見つかったとの報告があった。血液であるのか、被害者のものなのかを調べるために鑑識で調査中とのことである。

 捜査会議の中では司法解剖の結果が出てからでないと確実なことは言えないものの状況的には他殺であると判断されるもので捜査方針としては他殺で進めていくこととなった。

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