問11 日本海に面し日本で二番目に大きな砂丘をもつ県は?
「今日はわたしがクイズを出してあげる」
休み時間になるとすぐ、橘は隣の席の樋口に肩を突かれた。
「樋口さんが?」
「そう。今日は何の日でしょうかクイズ」
「へえ、クイズ作ってきたんだ」
ちょっと楽しみかもしれない。
橘は顎をしゃくりながら樋口に微笑んで見せる。
「いま馬鹿にしたでしょ。アンタにできることくらい、わたしにだってできるから」
「馬鹿にしてないよ」
「どうだか。とにかくわたしが勝って、絶対奢らせてあげるんだからね」
「お手柔らかにね」
橘は樋口に小さく笑みを返した。
クイズを出す目的が暇つぶしだったはずなのに、いつから勝負になったのだろう。正解不正解が出る以上、勝敗を競わざる得なくなるのは仕方ない。
「九月十二日にちなんだ問題を三問用意したから、全問正解したら橘の勝ち。一問でも答えられなかったら、わたしの勝ち。正しい答えでないと不正解だから」
「昨日の反省を踏まえたんだね。いいけど、ハンデが厳しすぎない?」
「橘はクイズプレイヤーでしょ。わたしはそうじゃないから」
そう言われて橘は、返す言葉が見つからなかった。
ところで彼女はどこの部活に所属しているのだろう。
一度も聞いたことがなかったことを思い出す。
「ちなみに僕が勝ったら?」
「名誉ね」
「だったら、樋口さんが何部なのか教えて」
「そんなことでいいなら、勝ったら教えてあげる」
「じゃあ、もしぼくが負けたら?」
「なにか奢ってね」
やれやれ、と息がこぼれ出てしまう。
「ところで樋口さんって、弟がいるの?」
「生意気なのが一人。どうして?」
「何となくそう思っただけ」
「そう。橘は?」
「ぼくは妹がいるよ」
「へえ、そうなんだ。じゃあ、いくよ」
樋口は、自分のスマホを手にし、メモ帳のアプリを開いた。
「問題。一九九二年に文部科学省の宇宙科学研究所が制定した、アメリカのスペースシャトル・エンデバーで毛利衛氏が宇宙へ飛び立ったことに由来する記念日はなんでしょうか」
橘は、机を早押し機に見立てて軽く叩いてみせる。
「宇宙の日」
「……正解」
樋口は口を閉じてつまらなそうな顔をした。
「知ってたの?」
「なんとなく、覚えがあったから」
「まあ、一問目は簡単な問題だったから、答えられても当然ね」
「それにしても、よく調べたね」
「橘の問題を参考にしただけだよ。二問目はむずかしいから」
「お手柔らかに」
ふうっと鼻息荒くして、樋口は問題を読み上げる。
「問題。紀元前四五〇年、ペルシアの大軍がアテネを襲いマラトンに上陸したのをアテネの名将ミルティアデスの奇策で撃退し、フィリッピデスという兵士が伝令となってアテナイまで駆け抜け、アテナイ郊外で『我勝てり』と告げた後に力尽きて絶命した日にちなんだ記念日はなんでしょうか」
橘は余裕を持って全文を聞いてから、机を軽く叩いた。
「マラソンの日」
「うっ、……正解」
樋口は深く息を吐いた。
「いい問題だね」
「ありがと。まあ、このくらいはできて当然かもね。でも、最後の問題はそうはいかないんだから」
「超難問なの?」
「いままでの問題は、橘に奢らせるための布石、壮大な前振りに過ぎなかったんだからね」
ふふふふ、と樋口は腕組をしつつ不敵な笑みを浮かべる。
「問題。県民の皆さんがふるさとについての理解と関心を深めるとともに、ふるさとを愛する心を育て、もって自信と誇りの持てる力を合わせて築き上げることを期する日として、一八八一年の今日、現在のこの県が誕生したことにちなんで県が平成一〇年に制定した記念日はなんでしょうか」
橘は腕を組み、んー、と首を傾げてしまう。
問題文にヒントらしいことがない。
一九〇〇年は明治三十三年だから、一八八一年というのは明治十四年。
県が誕生、ということは廃藩置県に関係しているだろう。
廃藩置県が断行されたのは、一八七一年の七月十四日。
第一次府県統合、第二次府県統合、四十七道府県確定、府県制施行と、段階を経て、現在の都道府県の形になったのだ。
都道府でないのはわかるとしても、それ以上は絞り込めそうになかった。
「わかんないや」
「やったー」
両手を上げて、樋口はガッツポーズをしてみせた。
「答えは?」
「鳥取県民の日」
あの問題文で当てるのは、鳥取県民でない限り無理だろう。
「問題文にヒントがないと誰も正解できないよ。『砂丘としては全国二位、観光可能な砂丘としては全国一位の規模を持つ県は?』や『妖怪のオブジェが多数設置された、水木しげるロードと呼ばれる商店街も人気な県は?』といった一文を加えるか、『A:島根県 B:鳥取県 C:福島県』という択一問題にして難易度を調整しないと。クイズは楽しむものだから」
「それはそうかもね」
橘の言葉に納得してくれたものの、
「だけど勝負は勝負。正解できなかったから、なにか奢ってね」
肝心なところはわかってくれていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます