わたしはうそつき

 取るに足らないこと。

 そう思っているけれども、嘘は嘘。

 私は普段、簡単に見破られてしまう、他愛のない嘘をつくことがある。


 ――その荷物重いわよ、大丈夫?

「え? 軽いよ?」

 とか。


 ――軽いほう、持って。

「どちらも、同じ重さだよ」

 とか。


 そして荷物をどちらも引き受けてしまう。

 これは、腱鞘炎の母への思いやりです。

 実際、今日母はレントゲンの結果「軟骨がすり減ってきてる」と言われてしまった。


 そんな人に重たい荷物を持たせるのはよくありません。

 したがって、私は進んで荷物を持ちます。

 すると母が前述のように申すわけです。


 嘘でもつきとおせば本当になります。

 重たい荷物でも、軽いと思えば、嘘ではなくなります。

 そうして私は強くなっていく。


 人の荷物をしょい込むのが、苦でない性格をしています。

 なぜなら、嘘を有効につくから。

 自分をだますのがうまいからです。


 たぶん、母も同じなのだと思います。

 だから、コロナ禍の中、仕事が増えても文句も言わずに働いて、軟骨をすり減らしてしまったのでしょう。

 ロキソニンテープを処方されたそうです。


 診断書を書いてもらえば、職場のほうでも考えてくれると思うのですが……。

 母も、嘘をついているのかもしれません「大丈夫です、仕事をください」、と。

 嘘つきだから、そう感じてしまうのかもしれませんが。


 優しい嘘はときに切なく、哀しいものです。

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