第23話 ゲーム

「…はぁ…またなのです」


 そう言って、コントローラーを膝上に置く秋葉。


 彼女は30分前にうちに来たかと思えば、急にゲームをやり始めた。


「どーしたの?秋葉ちゃん」


 きのこの山を片手に俺の方を見て、また、はぁ…とため息を吐いた。


「いや、なんだよ…」


「カズ兄、私はもう子供じゃないのですよ。きちんと、1人の女性と認識して秋葉と呼んでください」


「えー…てか、今何歳なの?」


「11歳」


「子供じゃねーかよ」


 と、思わずツッコミを入れた。


 なんかこいつといると、ツッコミを入れる回数が極端に増える気がする。


 …って言っても、なんか緊張するんだよな。


「さぁ、秋葉って言ってみてください」


 無表情のまま、顔を近づけてくる。


 いや、こえーよ普通に。


「分かった分かった…秋葉…これでいいか?」


「…熱盛り」


 無表情で、親指をグッと立てる。


 つまりオッケー…なのか?


 はぁ…と俺はため息を吐いた。


「ところでカズ兄」


「ん?」


「ゲームは得意なのですか?」


「んー、まぁほどほどにな」


 小さい頃はよく琴葉とゲームをしていたから、きっと下手ではないだろう。


「なるほど…それじゃこれで勝負なのです」


 そう言って、画面に映し出されたのは、スマブラこと、大乱闘スマッシュブラザーズだった。


 

 

「ほう、カズ兄はリトルマックを使うわけですか、ならドンキーで対抗します」


 そう言ってドンキーコングを選ぶ。


 2人のキャラクターは、お互いに一撃や、高い攻撃力を持ち、低いダメージからでも充分場外を狙えるキャラクターだ。


 そして、その代償としてお互いに空中復帰が弱い。


 少し遠くに飛ばされて復帰阻止されれば、大体そのまま落ちて行く。


 だからお互いにそれを狙って行く戦いになるだろう。


 そうしているうちに、試合が始まった。


 隣でコントローラーの音がカチャカチャとなり出す。


 すると画面の向こうのゴリラが、機敏に動き出して、それが素直にキモかった。


「カズ兄、それじゃリトルマックの良さ活かせてないのです」


「いや、秋葉がうますぎる…って、やば」


 次の瞬間、自分の使ってるキャラが地面に埋められ、確実に終わったと思った。


 しかし…。


「…は?」


「ふふ…」


 画面の向こうのゴリラは何もしないどころか、なんかめちゃくちゃに煽っている。


 …。


 頭の中で小さくぷつんと何が切れた。


「うん分かった…。とりあえず本気出すわ」


「やってみるのです、埋めてやります」


 そしてその後、秋葉の巧みな操作によって、俺の使うキャラクターは、とうとう1ストックも削ることなく、画面外に吹っ飛んで行くのだった。




「あー、暇つぶしにはなったのです」


 そう言いながら、ジュースを口に流し込む。


「…そっか、それなら良かった…」


 プライドをへし折られた俺は、コントローラーをそっと置いて、ペットボトルのお茶を流し込む。


 なんかいつもより苦ぇ…。


 そう感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。


「ふふ…やっぱりゲームは面白いのです」


「秋葉はゲーム好きなの?」


 こちらに顔を向け、首を縦に振る。


「好きなのです、特に相手をボコボコにした時が一番楽しいのです」


「そ、そーなんだ…」


 返答が詰まる。


 無表情だけど、そんなことを言いながら口だけ笑ってる秋葉が、妙に怖く感じられた。


 笑い方が不器用すぎる…。


 思わず、喉が乾いてお茶に口をつける。


 すると、すっと無表情に変わって、「それでなのですが…」と言葉を続けた。


「ユズ姉とは、どこまでいったのですか?」


「んっ、かぼっこほっ!」


 喉を通っていたお茶が、気管の方に入って、思わず咳き込む。


 秋葉が小さな手で背中をさすった。


「カズ兄、大丈夫なのです?」


「あ、あぁ、わるい…」


 小学生がなんて質問しやがる…。


 二回大きく呼吸をすると、「まだ手繋いだぐらいだよ」と答えた。


「へぇー…」


「なんだよ」


「カズ兄、どーてー臭半端ないのです」


「は? てかちょっと待て今なんつった? おい、童貞つったか? てか、本当に小学生か?」


「何を言ってるのですカズ兄、ピッチピチの小学生ですよ」


 そう言うと、はぁ…と大きくため息を吐く。


 いや、なんのため息だよそれ。


「カズ兄、もう中学生じゃないんですから、キスの一つぐらいしてみたらどーですか?」


「え…キス…」


 そういえば、なんだかんだ言って考えた事なかった…。


 だって本当に一緒にいられるだけで楽しくて、手を繋ぐだけで幸せで。


 だからそれ以上のことは考えたことがない。


 でも…。


 柚葉とキス…か。


 …。


「…ダメだ、分からん」


「はぁ…まぁ仕方ないのです」


 ヨイショと秋葉が立ち上がり、俺を指差す。


 そして、


「それじゃカズ兄、次のデートでキスしてみるのです」


「え、それはいきなりすぎでしょ…」


「そんなんじゃ女の子は逃げてしまうのですよ、そのうちユズ姉から連絡来なくなって…気がついたら…」


「あー!もう分かったから! するからキス!」


「そうですか…報告、楽しみにしてるのです」


 取手をガチャリと下げてドアを開く。


 そして、その帰り際、


「それと、コト姉が土曜日ここに来るかもです…しっかり断っておくのですよ」


「え…」


 そんなことを無表情で言いながらドアが閉まった。


「それってどう言う…」


 てか、


「なんで柚葉とのデート、知ってるんだ?」


 何故か分からないけど、背中の汗が妙に冷たく流れるのであった。




 

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