魔女とアニキ! ~訳アリコンビの大(?)冒険!~

mimiaizu

第1章

第1話 少年

「はははははは! 笑え! 笑えよ! はははははは!」


 俺はもう笑うことしかできなかった。絶望しすぎて笑うしかなかった。呪われた体は戻らない。周りの評価は最悪になった。見返したかった家族や幼馴染たちの元にも戻れない。いや、俺が向き合えないんだ。皆の目が怖いから。


 この俺、『ゼクト・ディエシェン』は勇者の子供だ。勇者というのは魔王を倒した5人組のパーティーのことで、俺はその中で最強の勇者『ライダ・ディエシェン』の息子なのだ。魔王を倒し世界に平和をもたらした勇者の子供というなら当然、誰もが親父のような勇者になると期待した。実際、俺以外の勇者の血筋の子供で俺の幼馴染たちは、突出した才能を見せて周りの期待に答えた。


 俺の小さい頃は、周りの子よりも、勉強も運動もよくできるほうだった。しかし、10歳を過ぎた頃から、秀才扱いされても天才とは思われなくなった。俺には特別な才能が無かったのだ。剣も魔法も人よりはいい方なだけで、親父たち勇者と比べられたら才能が無いと言われてしまう。秀才止まりだ。そのうち、周りから期待されなくなった。


 周りの評価に腹が立った俺は、勉強も運動も必死に努力するようになったが、学園で成績トップ1位になることは無かった。いつも上から4から5番目になる。その理由は同じ学園に俺と同じ4人の勇者の子供がいるから。あいつらとは、幼い頃からの幼馴染で友達だったが、今の関係は微妙だ。学園の成績1位・2位の『ヨミ・レバリャエム』と『カリス・マビヨウ』は俺に冷たい。3位の『ブレン・ドコッヒ』は俺に興味がない。俺と4位を競っている状況にいる『リューキ・ディムデェ』は基本的に脳筋バカ……ていうか何でこいつが4位か5位になるんだ!? ……まあ、この4人と成績を競っていることになるが、実技に関しては別だ。

 

 脳筋バカのリューキは格闘能力、ブレンは魔法能力、カリスは剣、そしてヨミは総合能力が極端に高いのだ。……俺を含む他の生徒など眼中にもないほどに。俺自身は、剣と魔法を得意としているが、カリスとブレンには及ばないばかりか、どちらもヨミには勝てない。学園ではこの4人と比べられて、俺は誰からも励まされるか憐れまれるだけだった。学園には俺の居場所が無かった。


 家に居場所があるかといえば微妙だ。親父は勇者としての偉業が認められているため、この国で重要な仕事についているから多忙で家に帰れないのだ。お袋も勇者の夫という立場なので、親父ほどでないにしろ重要な仕事についている。……仕方が無いことは分るが、俺のことをもう少し見てほしかった。家にいるのはいつもメイドと執事だけだ。彼らに俺が才能が無いことを悩んでいることを打ち明けても、学園の連中のように励ましの言葉をかけるだけだった。……立場から下手に厳しい言葉を言えないだけかもしれないがもう少し何かあるんじゃないのか?


 悩み続ける俺は強くなる方法を探して国一番の図書館に足を運んだ。そこには魔王軍との戦いの歴史が詳しく記録されていると聞いたので、もしや戦闘技術に関することも記された本もあるかもしれないと思ったからだ。受付の人に聞いてみたら、それらしい本があることはあるらしいが、関係者以外立ち入り禁止の部屋にあるから触れることもできないと言われた。諦められなかった俺は隙を見てその部屋に忍び込んでしまった。

 

 その部屋に入った時、体の奥から何か妙な感じを一瞬感じたような気がした。ちょっと怖くなった俺は引き返そうとした。その直前、一冊の古びた本に目が留まった。何かに導かれるかのようにその本を開いてしまった。その時、見たことも聞いたこともない魔法のことが頭に入ってきた。その魔法は今の俺が強くなるための近道になるものだった。俺はうれしかった。やっと周りを見返せると思ったのだ。……その魔法の正体も知らずに。


 その本を手に入れてから、頭に入った魔法で実技の訓練を重ねて強くなった。誰にも知られないようにこっそりと……今思えば一人でやるんじゃなかったな。俺は強くなっていく自分に酔いしれていたんだ。誰かが見てくれていれば……そう、親父かお袋が見たなら止めてくれただろう、俺を見てくれていたら。……何もかもが遅いけどな。


 強くなった成果を周りに見せつける日がやってきた。年に一度行われる学生大会への出場が決まったんだ。学生大会とは、学生同士で試合を行い競い合う大会だ。この大会は学年に問わず実力があるものでなければ出場が出来ないが、俺は勇者の子供なので当然選ばれた……まあ、この学生大会自体が勇者の子孫の戦いを披露するために始まったもののようだがな、金儲けのために(笑)。


 大会当日、俺は堂々と会場にやってきた。あの4人と少し会話したが、4人とも自分が優勝する気でいる以外は普段と変わらない、いやブレンが話しかけてきた時点で珍しくはあった。観客席には家のメイドと執事だけでなく、親父とお袋がいた。俺が大きな大会に出場するのだから来て当然なのだが、俺はとても嬉しかった。


 大会は予選から始まって、予選を勝ち抜いた4人が本選で対決する。本選を勝ち抜いたのはヨミとカリスとブレンと俺。リューキは予選でヨミとぶつかって負けた。リューキは悔しがっていたがどこか清々しそうだった。そういや、あの脳筋は俺たち4人の戦いが楽しみだと言ってたな、立ち上がるの早る、さすが脳筋。……俺と違って明るい性格だからな。


 本選一回目で俺はカリスと戦った。カリスは俺が知る中で最強の剣士だった。カリスにとっては俺なんか眼中にもないはずだろう。だから俺は予選で見せなかった訓練の成果をカリスにぶつけた。そうしたらカリスを圧倒できたんだ、この俺があのカリスをな。驚いたカリスは俺に何があったのか聞いてきたから正直に言ったんだ本を見て学んだって。そしたらカリスは怒り出した、納得できるかって。……今思えば納得できないのも分かるな。カリスは俺を初めて『敵』と認め、真の力を発揮した。その力は強くなった俺でも苦戦を強いられた。俺は最後の手段としてあの本から得た魔法の中でかなり強力な魔法をカリスに放った。その魔法はカリスの最強の剣技とぶつかって、最後はカリスを吹き飛ばした。


 それでもカリスが立ち上がったので、決着をつけようと距離を詰めようとした時、親父とお袋が割り込んできて試合中止を宣言した。いきなりそんなこと言われても納得いかない俺は何でだと怒ったが、親父はそれ以上に怒っていた、初めて親父が俺に怒鳴ったのだ。どういうことか周りを見渡すと、大人たちのほとんどが怒りと恐怖を抱き、お袋に関しては悲しそうだった。メイドと執事も頭を抱えて震えていた。兵士が緊迫した顔で武器を手に身構えていた。


 親父が言うには、俺が放った魔法は魔王が使ったものと全く同じもので、しかも人間が使えば呪われると言うらしい。そもそも、カリス戦に見せた戦いが、魔王のものと酷似しているのだそうだ。周りの大人たちは勇者の子のくせに魔王の技を使った、魔王の戦いを見せた、恥さらしだ等と叫び続けた。親父はどこでこんな力を手に入れたのかと悔しそうな顔をして問いただしてきた。……まるで、俺が間違ったことをしたかのように……何で?


  ……俺はそれが……悔しかった……何でだよ?……やっと……やっト……ミんなヲ……見返シて……俺ノコトを……見てモラえたト……オモッタノニ!!


 俺は親父を怒りを込めて殴った。魔力を込めたため、豪快に吹っ飛んだ。傍にいた母さんが泣き叫び、大人たちが怒り狂うかのように糾弾した。カリスが何か言っていたが何だったか忘れた。ヨミとブレンとリューキまで傍まで駆けつけてきたが、何を言っていたか覚えてないや。もうこの場に、この街に、この国にいるのが嫌になった。そしてこの時、もう居場所がないと分かった俺は、何もかも嫌になり、親父とお袋の制止を振り切って、逃げてしまった。

……この時もあの本から得た魔法で逃げたんだが、それがまずかったのかな。


 俺は泣きながら逃げ続けた、涙で前が見えなくなるほどに。魔力が尽きるまで逃げ続けた先は、国の外の『グオーラム山』だった。国からかなり離れた場所に来てしまった俺はそこでまた泣き続けた。俺は全てを失った、俺の周りにはもう何も無い、悲しみと怒りのあまりに泣き叫び続けた。しばらくして落ち着いてきた後に、水たまりに映った顔を見て、自分の体の以上に気付いた。髪の毛が茶色から真っ白に変化していた。更に魔力量が増加していた。これが呪いなんだと恐怖し、そして絶望した。俺は恐怖のあまり混乱して走り出していた。……走り出した先が『魔女洞窟』だと知らずに。

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