第20話:赤坂さん、いったいどうしたの?
なぜか突然、高木さんと瑠衣華が一匠たちのルームに入ってきた。瑠衣華はチラッと一匠を見る。
一匠は訳が分からず瑠衣華の顔をぽかんと眺めていた。
「ちょっと座ってもいいかな?」
高木さんが、マイクを握って立っている田中に尋ねた。田中は訝し気にしながらも「どうぞ」と答える。
高木さんは「ありがとー」と言いながら、鈴木のすぐ隣のソファに腰掛ける。いきなり横に高木さんが座ってきて、鈴木は「あわわ」と目を丸くした。
そして高木さんに付いてきた瑠衣華は高木さんの隣に座る。そこは一匠のすぐ隣だった。
つまり一番奥に鈴木が座り、すぐ横に高木さんが座る。その隣に瑠衣華で一番手前が一匠。それを、マイクを持って立ったままの田中が呆然と眺めているという構図。
「ねぇねぇ鈴木君、こんなとこで会うなんて偶然だねー」
「あ、ああ……そうですね……」
高木さんが身を寄せるようにして、楽しそうに鈴木に話しかける。何が起きているのか把握し切れない鈴木は、戸惑ってあたふたしている。
しかしそれでも彼の視線は、高木さんの更に向こうに座る瑠衣華をチラチラと見ている。
せっかく憧れの赤坂瑠衣華が現れたのに、自分の隣には違う女の子が座っている。この状況を残念に思っているのがありありだ。
「赤坂さん、いったいどうしたの?」
一匠が小声で訊くと、瑠衣華はお尻をソファの上でずりずりとずらして、一匠の方に寄ってくる。肩が触れるくらい近づいた。
(ど、どうしたんだ? 何が起きた?)
戸惑う一匠に、瑠衣華はヒソヒソと小声で話しかける。
「高木さんが鈴木君をお気に入りなのよ。だからどうしても行きたいって」
「えっ? そうなの?」
「うん」
「そ……それで赤坂さんは、わざわざ付き添いで来たの?」
「はい? 私が来たら、嫌だった?」
(いや、そんなことはぜーんぜん言ってないし。なんでそこで突っかかるんだ?)
嫌だなんてことは全然ないが、ここに一匠がいるのを知ってて瑠衣華がやって来たこと。それが一匠にとっては少し不思議な気がした。
「男子だけでむさっ苦しいだろうから、せっかく来てあげたのに」
「来てあげたって……頼んでないのに?」
「ああ、そうですか? そんなこと言うんですか? 私は頼まれなければ、来たらダメなんですねぇ~」
(ああ……また赤坂さんが憎まれ口モードに入ったか?)
それにしてもこの距離感──
瑠衣華は声が周りに聞こえないように、一匠に顔を近づけている。付き合ってた時でも、こんなにくっついた記憶はない。
瑠衣華の髪からふわりと甘い香りが漂って、一匠はドキリとした。
(中学の時の赤坂さんって、こんな良い匂いしたっけ?)
「あの……赤坂さん……」
「なにさ?」
「来てくれてありがとう」
「ふぇっ!?」
鈴木や田中はきっと嬉しいだろう。そう思って、一匠は彼らの代わりにお礼を言った。するとなぜか瑠衣華の顔は真っ赤になっている。
(アイツらが喜ぶことが、赤坂さんはそんなに嬉しいんだな)
「あ、あのさ……白井君。それって……」
瑠衣華はすぐ目の前で、上目遣いに一匠を見上げた。ちょっと頬が上気しているように見える。
高校生になってから、こんなに間近で瑠衣華の顔を見るのは初めてだ。クリっとした目が綺麗だし、小顔だし、確かに可愛いなと一匠は思う。
しかし近くで顔を見て、喜んでいる場合ではない。
「あの……赤坂さん? こんなにくっついて大丈夫? 他のクラスメイトもいるのに」
「あっ……」
瑠衣華は横で立っている田中をチラッと見た。田中は一匠と瑠衣華を見ている。
瑠衣華はハッと焦った顔になった。
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とくよつば@ラブコメマイスター(@toku_)様に、素敵なコメント入りレビューをいただきました!
大大大感謝です。(人''▽`)ありがとう☆
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