第11話 つまんねー!

 隠し扉と思われた扉は意外にもあっさり見つかった。ビールのポスターが貼られていた後ろに木製の扉が見える。壁と同色に仕上げてあるからよく見ないとわからない。


「さあ、田中っ突っ込むぞ!」


 威勢よく声を放つが田中の返事はない。

 それどころか肩を掴まれ、数人の黒っぽい作業服の男達の後ろに放り投げられた。


「ちょっと待て、お前ら誰だ?」


「しっ、この方々は本職だから静かにして」


 九重先輩から耳打ちされる。


 えっ、本職って?


「あの方々は突撃班、瞳が証拠映像を撮って警察に通告したから、今から警察が着くまでの間は彼らの仕事だよ」


「えっ、それってば、つまんねーんですけど?」


「あのね、あなたはこの作戦のリーダーなんです。警察が出てくる前に証拠を押さえて、うちの生徒の関与が公にならないようにするのが仕事なわけ。だから我慢なさい」


「いや、一人は片付けたいし」


「はいはい、既に一人は病院送ったわよ。

 あなたのせいで、もう治らない深い傷を負ったみたいだから、今回はそれでいいじゃない」


「あれだけで病院に行くなんて、弱っちいな」


「いや、藤井ってば、あれはやったらダメなやつだよ。なあ、みんな?」


 黒いキャップを目深に被る面々が一斉に頷く。


「さあ、わかったでしょう。かず君、私も心配だし、危ないことはしないでね」


 ぐっと顔を近づけて、上目遣いに胸の前でお願いのポーズとはあざとい。


「九重先輩、残念ながら俺はあざとい女は好みじゃないんですよ」


「ふふーん、そうは言っても顔が赤いわよ」


「いや、これは怒りが顔に出てるだけです」


「まあ、そういう事にしておいてあげるね。今日はありがとう。また一人、女生徒を守ってくれて感謝します」


 九重先輩が頭を下げてお礼を言ってくれると、耳にはめたインカムから色々な声でお礼と労いが聞こえた。


「さあ、こっちだよ」


 すっと手を取られ、九重先輩から連れられた場所に黒っぽいワゴン車が停車している。


 後部のスライドドアを開けると、2つのモニターを見ながらパソコンを操作している少女が振り向かずに挨拶してくれた。


「九重先輩、お疲れ様でした。藤井副会長、お疲れ様でした」


 ……この声は、瞳か?

 しかし、俺が副会長って認めているのか?




 不思議そうな顔をしていると隣から冷たい紙コップを渡された。


「コーヒーで良かった?」


「ええ、ありがとうございます」


 喉が乾いていたから素直にありがたい。

 一口目を飲んだ時に車が走り出していたことに気づいた。


「他の連中はどうやって帰るんですか?」


「みんな、バイクだから大丈夫!」


「はあ、そうなんですか。なら心配ないですね……、と言いたいところですが、あそこで刃物や最悪の場合、拳銃を出してきたら怪我じゃ済まないんですが、俺は本当にあの場を離れても良かったんですか?」


「あっ、それは大丈夫だよ。いくらかず君がケンカが強く立って彼等には足手纏いだから」


「それって、俺に失礼じゃね?」


「まあ、その話は戻ってから納得するように話すから、我慢なさい」


 もう、この先輩はあざといかと思えば、お姉さんぶったりで、掴むようがない。


 ホント、この人との会話は疲れる。

 やっぱ、あん時に田中の頼みを断れば良かった。とても高くついたな。

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