第3話 なんか無茶ぶりされました

 


「私にできることなら――――やらせてください!! 」



 実琴は元気よく返事をした。

 大好きな人の願いは叶えたい、カチカチ山のうさぎさん系女子実琴。


「嬉しいわ。ありがとう。」


 ニコッと女神は笑う。まるで大輪の花が咲いたように周りが華やかになる。


(おぉぅ、美形マジック。)


 実琴は思わず顔を赤らめてしまう。


(あ、でもお約束のこれを聞かなくっちゃ……)


 異世界物が大好きな実琴はテンプレ通り尋ねる。


「私って終わったら、元の世界に戻れるんですか?」


「ごめんなさい――――いつもは我が子が選択できるように帰り道を残すんだけど、今回は緊急だったから。」


 申し訳なさそうに女神は口ごもる。


(あぁもう会えないんだ。まぁあの事故の後だと私も助かっているか怪しいし。お母さん泣くんだろうなぁ)


 もう会えない家族や友人のことを思うと胸がいっぱいになる。


「あの、お願いがあります。私がいたことの記憶をもとの世界から消すことって出来ますか?誰も悲しまないように。」


 もし自分が異世界転移をしたら…?と誰もが考えたことはあるだろう。実琴もその一人。様々な妄想を膨らませていたがその中の一つに“神様にお願いして自分の存在は消してもらおう!家族が泣いちゃう!!”は決めていた。妄想なのに現実的だ。

 予想だにしなかった実琴のお願いに女神は面食らうが了承する。


「優しいのね。あなたの願い受け取ったわ。大丈夫。こちらの世界であなたは幸せになれる…」


(チートが欲しいとかそんなことはこの子には関係ないのね――)


 予想と異なった願いだが、なんだかこの子らしい――――

 クスッと微笑みながら、愛しさが溢れた女神は再び実琴を抱きしめる。


「でもね、こちらからも1つお願いがあるの。メンテナンスが終わるまでこの腕輪をつけて外さないでほしいの。」


 そっと女神は実琴から腕を緩めるといつの間にか隣にあった箱を開ける。

 その中には不思議な白い輝きを放つ、金属の腕輪があった。細い蔦がいくつも絡み合うような不思議なデザインだ。


(綺麗……)


 実琴は思わず手を伸ばす。


「この腕輪には私からの加護と認識阻害の効果が込められているわ。」


「認識阻害?? 」


(なぜ私は認識を阻害されなくてはいけない!? )


 ポカンとした顔で女神を見つめる。


「あなたのことを男として認識してもらうためのものよ。これ作るの大変だったんだから! 」


 理解の追い付かない頭で実琴が考えたことはただ1つ。


(女神もドヤ顔するんだぁ……)


「なんで私を男にするの!? 」


「男にはしないわよ。さすがの私も性別を変えることはできないわ。」


「でしょうね!出来るならまず自分からしてるよね!! 」


 思わず出た言葉に頭をはたかれる実琴。


「失礼しちゃうわ。私はユースタリアの創世主なの。私が男か女のどっちかなら創ることが出来ないじゃない! 」


 ごもっともである。


「詳しくは言えないんだけど、あなたは女ってバレないようにしてほしいのよ。そのための認識阻害。」


「なるほど……」


 思わず自分の身体をみる実琴。


(これは厳しくないか…? )


 身長は153㎝、体重はシークレットで。胸も尻も普通にある。欲を言えば胸より尻がデカめなのでもう少し胸は大きく、尻は小さくなってほしい。あと太ももや二の腕も細く、ウエストも寸胴気味なのでもう少しくびれてほしい――――普通の女の子である。なんなら男性というには身長が低すぎる。


「大丈夫。この腕輪の効果であなたは周りから男に見られるわ。男性のほうが効果は高いから。女性の勘は要注意ね。もちろん協力者も用意しているわ。うまくやって頂戴。絶対バレては駄目よ。」


 カチャリと女神は腕輪をはめる。


「外したいときはすべてが終わってから。あなたが女の子に戻りたいと願ったら外れるわ。あと必要に応じて効果を強めたり弱めたりサポートしてあげる。」


 女神の勢いに実琴は頷く。


(はめられちゃったものは仕方がない。よくわからないけどなんとかなるか。)


 とりあえず受け入れちゃう、流され系女子実琴。


「では私のかわいい子たちをよろしくね。あなたの幸せも見守っているわ。最後にぎゅー!! 」


 女神の硬い抱擁にあっぷあっぷしていたら目の前が白く光り思わず目をつぶる。


「最初に協力者の下へ送るわ。そこで衣服を整えて、振る舞いを教えてもらいなさい。」


 女神の声を最後にふわっとした浮遊感が訪れる。


「うわああああああぁぁぁぁ!!」


 落ちていく。どこまでも落ちていく。


(せめて一声かけてから放り投げて!! )



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