17: why don't you remember the name
「私も噂だと信じたいんだがね」
そう言って学年主任の
「おまえ達は仲が良かったし、巽が亡くなって一番悲しいのはおまえだろう。だからこんな話をするのは心苦しいが、なにしろ学校中がこの話題で持ちきりだ、さすがにおまえの意見も聞いた方がいいと思ってな」
桐原は体育教師で、俺はしょっちゅう体育フケてるからすこぶる印象が悪い。テキトーな理由つけて停学くらいにはするかも。
「そもそも警察の調べでは巽が自殺する理由なんてないってことになってた。他殺の線でも調べたらしいが、あの時駅は人が多かったし、第一巽を恨んでた 人間なんていなかったはずだ。ところが噂によると、おまえ、巽となにかトラブルを抱えていたらしいじゃないか。事実を教えてくれないか、天井」
「事実は全部警察に話しましたよ」
こいつ、俺が呼び出されたりしたらますます噂に尾ひれが付くってわからないのかな。
「無実ですよ、俺。なのに変な噂はたつわ、こんな所に呼び出されるわ、サイアクっすよ。濡れ衣着せられたショックで四番線から飛び降りていいですか?」
「天井!」
俺の後ろに仁王立ちしてた柏木が叫んだ。こいつ担任だったんだな。
「巽のご両親のことを考えてみろ、昨日まで元気だった息子さんが突然亡くなったんだ。その理不尽な悲しみがわかるか? 手がかりがあったらなんでも知りたいと思うだろう。な、だからおまえが知ってることを全部話すんだ」
知ってること?
ないね、うん。
「最後に会った時はなにを話した?」
「え?」
「あの日だよ、学校で話さなかったのか?」
「……え」
柏木が俺の顔を覗き込んで睨んできた。
「あの日会わなかったのか? じゃあ最後に会ったのはいつだ?」
俺は何も言えなくなってしまった。
「覚えてないとでも言う気か? それともなにか言えないことでもあるのか?」
桐原の声が嫌な感じに荒んできた。 最高にアホな教師二匹は代わる代わる睨んでは代わる代わるなにか吠える。 俺は奴らの声すら聞こえなくなってきた。なにかを思い出そうとする。
『じゃあ最後に会ったのはいつだ?』
頭の中で変なバンドが変な演奏を始めた。俺の思考を邪魔すべくギターをギンギン鳴らして何語かも分からない絶叫を頭の中に反響させる。俺は音にかき消されて考えていることを忘れる。思い出しかけたことも忘れる。耳を塞いでもうるさいのは消えない。それから、別に変なバンドなんかいなくて、ギャーギャー騒いでるのは目の前の二匹だと気づく。でもなにを言ってるのかは聞こえない。じゃあなんでうるさいんだろう。
「しらばっくれるな、天井!」
柏木の大声がいきなり耳に飛び込んでくる。俺はビックリして二人の顔を見る。でも連中には顔がない。
「俺、覚えてない」
二人は呆れたようなキレたような顔を見合わせて首を傾げる。俺は急に恐くなって立ち上がった。柏木が俺の腕を掴む。俺はあわててふりほどこうとする。
早く逃げなきゃ。俺は鞄をひっつかんでダッシュの準備態勢に入った。
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