05: guess what i got

 みどりは掛川さんのことゲイだと思ってたらしい。女ってのは同性愛者(主に美形)が好きだから、なにかと話をそっちの方に持っていく。

「そりゃあ『モーリス』は感動したけどね」

 掛川さんは全部わかってて、それでもみどりの暇つぶしにつき合ってやってる。それって実はかなりみどりをバカにしてんじゃねえかと思うが、この人はホントいつもニコニコ顔だから読めない。

「新介って映画とか好き?」

「別に」

 とかいいつつ実は最近ハマりつつある俺。

「片岡君が言ってたよ。夏休みに浅彦君と映画見に行ったら、浅彦君、全然泣くようなシーンじゃないのに急に泣き出したって」

「あ、それ俺も行った。なんか訳わかんねえ映画だった」

「なんてやつ?」

「忘れた。兎のカッコしたガキが便所でアコーディオン弾いてんの。俺も弘明も意味不明って感じだったのに、あいつ一人でマジ泣き」

「まあ片岡君が映画見て泣くってのもなかなか想像できないけど」

「せんせーそれキツイよー」

 みどりは浅彦が死んで掛川さんに乗りかえたのか。っていうかこいつ、前は結構大人ぶってたのに、まあ俺も騙されてたけど、あれ以来マジ普通の女子高生してる。なんかちょっと幻滅。

 多分浅彦は気づいてたんだな。みどりのこと嫌ってたっぽいけど、単に気取ってるのが気にくわなかったんだろう。

 電話が鳴った。掛川さんがのんびり受話器を取る。

「もしもし? あ、はい、僕ですが」

「でもさー弘明って実は人情深い奴だと思わない?」

「……ええ、それで?」

「一人で『タイタニック』とか見て泣いてそうじゃん? で、外出たらクールぶってんの」

「おまえはどうなんだよ」

「……はい、わかりました」

「私は結構泣いたりする方だけどさー、なんだっけ、あのドイツの映画」

「ああ、天国がどうとか……」

 掛川さんは受話器を置いた。俺は直感的に何か感じて、その後ろ姿を凝視する。受話器に手をかけたまま、掛川さんは動かない。思わず俺は立ち上がった。

「なになに? どしたのー?」

 見事に緊張感ゼロな声。こいつも実はアホか。

「先生」

 細い肩をひっ掴んで振り向かせる。

 少しびっくりしたような顔で、掛川さんは俺を見た。

「どうしたんだよ」

 一瞬黙って、その後彼は心から安堵したみたいに笑った。

「天井君、五現目は自習にするってB組に伝えてくれないか?」

 その次の日、朝のHRで掛川さんの親父が死んだって聞いた。

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