第5話 披露宴のお開きとその後

全ての余興が終了し、再び訪れた談笑の時間。

運ばれてくる食事もデザートにさしかかる中、私達は再びゲストとの写真撮影が続いていた。

その後、新郎新婦の両親への挨拶及び記念品贈呈へとプログラムは進む。この辺りで、新婦が両親に向けて手紙を読む演出は多いが、敢えて私はやらなかった。理由は単純で、「読んだら号泣するから」である。

ただし、手紙自体はしっかりと書いたものを挙式が始まる前にスタッフさんへ預けていたのだ。私と夫は高砂の近くに立ち、ゲストの座席を挟んだ反対側には、私と夫の両親が新郎新婦こちらに向かって立つよう移動していた。

「それでは、新郎新婦からそれぞれ、ご両親への気持ちをお伝え願います」

穴守さんは、双方の準備が整った所で今の台詞ことばを述べる。

 ……え…!!?

この台詞ことばを聞いた時、私は勿論の事、隣に立つ夫も驚いただろう。

「両親への手紙は読まないでその場で渡す」という流れは穴守さんにも伝わっているはずなので、ここで新郎新婦わたしたちが話すという作業は入らないはずだ。

 仕方ない…何とかアドリブで話すか…!!

しかし、ここで何も話さない訳にはいかないため、夫が話している内に話す事を何となくまとめて、私もその後に話したのである。


「まずは、お母様に感謝の気持ちをお贈り致します。本当に、ありがとうございました。どうぞお受け取りください」

新郎新婦が話した後、預けていた手紙とウェイトドールを受け取った私達は、両家両親の元へ進む。

そして、穴守さんによる台詞ことばの後、その2つをお互いの母親に手渡す。私の出生体重と同じぐらいの重さがある人形ほうは、うさぎの形。夫の人形ほうは犬の形をしたウェイトドールだ。ウェイトドールは専用のカタログを見て選んだが、ディズニーキャラクター等種類は様々だ。そのため、「実用的な物が入っていて良いよね」と私達で考えて注文したのが、ぬいぐるみの中に新郎新婦の出生体重分だけ防災グッズが詰め込まれたウェイトドールだった。

余談だが、ウェイトドール注文やプロフィールムービー作成時に初めて、私は夫の出生体重を知る事となる。そこで、出生体重は私が夫よりかなり重かった事が判明。

自分で持っても結構重かったから、受け取った母も重かっただろうなー…

後日、実家で見かけた際に改めてそう思ったのであった。

「次に、お父様には記念品をお贈りします。新郎様からは観葉植物。●●さん(=筆者)からは、ブリザーブドフラワーのオルゴールをお贈り致します。どうぞ、これからも宜しくお願い致します」

続けて、穴守さんの進行に合わせて、スタッフさんが観葉植物とブリザーブドフラワーでできたオルゴールを持参して現れる。

 おやおやおや…

スタッフが来るのを待つ傍ら、私の視界には思わぬ存在が入ってきていた。

それは、お色直しでピンクのドレスを身にまとった実姉の娘――――――――私の姪だったのである。後日両親から聞いた話だと、最初は大人しかった姪が専用のお子様ランチを食べたり、着替えたりしている内にテンションがあがり、実姉の制止を振り切って実父の元へ歩いて行ってしまったようだ。理由はおそらく、姪がお爺ちゃん大好きっ子だからなのだろう。

実姉からも「本っっ当にごめん!!」と謝罪の連絡をもらい、「●●さん(=夫)や彼のご両親にも謝っておいて」との事だった。一方で夫や義父・義母は「全然気にしていないよ。むしろ微笑ましかったよ」と言ってくれたのは、今でも覚えています。


記念品贈呈や義父による結びの挨拶。及び、新郎である夫の挨拶が終わり、披露宴もついに終了となる。ゲストの見送り等がある関係で、私と夫は先に披露宴会場を後にする。

「ではまず、そこの前に立ってくださーい」

退室後、ゲストがロビーに来るまで少し時間があるため、玉岡さんが色々なアングルの写真を撮影してくれていた。

結婚指輪を見せたり、ブーケの上に手を重ねたり、背中合わせで立ったり等――――――これで披露宴も終わると思うと、名残惜しい気分にもなっていた。

 あ…披露宴会場あっちでは、皆が「あれ」を見ているんだなぁー…

私は、玉岡さんに写真撮影してもらっている間、披露宴会場から響く曲の音色に耳を傾けていた。

専門式場やホテルでは、会場側が制作してくれるサービスも多いエンディングムービー。私達は、それを自分達(私と夫の合作)で作り、外部には依頼しなかった。そこはやはり、夫も私もパソコン関係がそれなりにできた事が大きい。

会場から聴こえてきた曲は、私達が好きなアーティスト・和楽器バンドの「CLEAN」というバラードナンバー。この曲は、家族や大事な人へ向けて感謝の気持ちを込めた曲らしく、エンディングムービーに最適だという事で使用した楽曲だ。

「両家両親には、エンディングムービーを見てからロビーへ来るようにしてもらってください」

渡部さんとの事前打ち合わせにて、私や夫は彼にこう告げていた。

その理由は、エンディングムービーでは今回お越しいただいたゲストの名前と同時にメッセージが表示される事に起因する。また、その中でお互いの両親に感謝のコメントを見てほしかったというのも大きいだろう。余談だが、このムービーの中で渋谷のフォトスタジオで撮った前撮り写真もいくつか使われているといった具合だ。

玉岡さんによる写真撮影が終わりそうになると、披露宴会場なかでのムービーも終わったらしく、会場からは拍手が響いていた。

その後、ロビーに現れた両家両親と一緒に再び写真撮影をする事となる。


撮影が終わり、新郎新婦こちらもゲストも用意が終わった頃になり、披露宴会場からゲストが出てくる。彼らの手には、引き出物の入った紙袋があった。

「今日は、ありがとうございました!」

私は、会場から出てくるゲスト一人一人に対して、声をかけていった。

そして、話ながらお見送りの際に渡すプチギフトを手渡ししていく。プチギフトは市販の物を使うか手作りのいずれかが多い中、私達は前者の方に該当する。好きな写真やスタンプ・フレームなどでデコレーションをしてオリジナル商品が作れる、「デコじゃがりこ」をゲストへのプチギフトとして用意していた。尚、そのじゃがりこにプリントされた写真は、前撮りの写真を使用している。

「うぉっ!こんなギフトもあるんだ…!!」

プチギフトを渡されたゲストの内、何人かがそう述べていたのを今でも覚えている。

複数からという形では、談笑時間中に少し話したが、こうして面と向かって一人一人話しかけるのはこの瞬間が初めてだったかもしれない。

新郎側のゲストは、夫と話しているのを聞き耳立てたり、新婦こちら側のゲストに対しては、私から話しかけたりとお見送りの時ですら、楽しく感じる自分がいた。

私や夫の隣には両家両親が立ち、それぞれお見送りで話してりしている。

 親族はともかく、友達が自分の両親と話しているのって、すごい新鮮…

挨拶をしている両親を見ながら、私は時折そんな事を考えていたのであった。

こうして、披露宴は幕を閉じる事となる。



この後、控室に戻り片づけ等ありますが、詳細は割愛させて戴きます。

ただ、この披露宴が終えた後の予定を少しだけ触れておきますね。


式場から自宅まで電車で帰れる距離ではあったが、挙式披露宴当日このひ自宅いえには戻らなかった。その理由は、一日中忙しくしていて疲れるだろうと予測していたからだ。案の定、ドレスやタキシードを脱いだ後の私達は疲労が蓄積されていた。ただ、テンションはかなりあがっていたので、見た目は元気といえるかもしれない。

私達は、事前に予約していた新宿・歌舞伎町にある高層ビルのようなホテルにチェックイン。少し休憩後に、二次会と称して飲み会をやっていた新婦わたしの親族や両親の元へ顔だし、そこで従妹らとも会う。

余談だが、母方の親族が遠方から来ていたという事もあり、私の両親も挙式披露宴当日このひ親族かれらと同じホテルに一泊していた。その宿泊先は私や夫とは別のホテルだったが、同じ新宿駅付近なので「皆が泊っているホテルは、あっちの方だよね」と、ホテルの部屋で夫と話していた次第です。


そして、ホテルで一泊した翌日―――――――――――――自宅に戻って準備を整えた後、そのまた翌日(=挙式披露宴の翌々日)に、新婚旅行としてイギリスへ旅立つのであった。

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