第13話 兄妹

 休日が終わり月曜日が訪れた。

 普段なら学校に行きたくないあまりベッドの上で一人悶えるのだが今は違う。

 窓を開け、近所の子供達が学校に向かう楽し気な声をBGMに僕は携帯をいじる。


 あぁこのままずっと停学していたい。


 しかし、


「朝ごはんも食べずに携帯ばっかみて、いい御身分じゃない逢斗」


 そこに居たのは人の成りをした般若そのものだった。

 気のせいか母さんが手に持つお玉が棍棒に見えてきた。


「なんで仕事行ってないの!?」

「あんたがあれから一歩も動こうとしないから、今日休みだってことを伝えてなかったのよ」

「んなっ、卑怯だぞ!」

「卑怯で結構。シーツ干すから起きなさい! あと今週いっぱい携帯は没収! いいね!」

「い、嫌だあぁっ!」



 ☆彡



「兄さん大丈夫ですか?」

「......暇だ」


 夕方。

 中学校から帰ってきた弥美は憐れむような眼で僕を見ていた。


 リビングのソファで頭が下、足を上にして座っている人がいたら僕でも距離を置くし当然の反応だろう。「はあ」と誰に向けたのかため息を落とした弥美は制服を着替えに自室へ戻り、暫くして僕の隣に腰を下ろした。


 弥美が暁さんに対して啖呵をきったあの日から、弥美はこうして僕の近くにいることが多くなった。機嫌が悪いという訳ではなさそうだが、お互い特に喋らず各々の事をする不思議な距離感。しかし、今日の弥美は少し違った。


「兄さんはあの女が好きなんですか?」

「? ん」


 今更隠すことでもないので適当に頷いた。


「私は嫌いです。それに兄さんの片思いだと思います」

「失礼な。まだそう決まったとは言い切れないじゃないか」


 僕と暁さんは一度大きな衝突があったものの順調に誤解を解き、仲良くなっている。はずだ。


 ふと、今まで感じていた弥美に対する恐怖心が無いことに気づく。

 この数週間色々あったからかな。なんてことを考える。


「そういえばあの写真入れたのも、暁さんに俺の写真送ったのも弥美だよな?」

「いいえ、私は知りませんが」


 ここまでして惚けられると思っているのだろうか。


「そもそも他校の生徒を殴るような人に彼女なんてできませんよ」


 元はと言えばお前が......


「元はと言えばお前が暁さんに写真を送らなかったらこんなことにはならなかったんだ」

「えっ?」


 それから僕は始まりのあの日から今日までの出来事を勢いに任せて吐き出した。

 いや、吐き出してしまった。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい......」


 そこに普段の毅然とした弥美の姿は無く、目元を押さえこぼれ出る涙を必死に拭う僕の妹がいた。


 自身の過ちに気づいた時には、もう手遅れだった。


 僕はたまらずその場から逃げ出してしまった。


 部屋に駆け込み現実から目を背けるため、枕に顔を沈める。

 妹相手に大人げなく暴言を吐いてしまったこと。自分が泣かせた弥美を置いてきたこと。そして、心に溜まっていた鬱憤が晴れたことによる決して抱いてはいけない解放感。

 様々な思考がぐちゃぐちゃに絡み合い何がなんだか分からない。


 ただ一つ、僕は今きっと醜い顔をしている。


 誰にも会いたくない。誰にもこの顔を見せたくない。




 僕は本当に最低だ......。











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