第11話 その日から(弥美視点)

 ある日を境に兄さんは変わってしまった。

 事の発端は六月十四日の月曜日。兄さんは顔を赤く腫らして帰ってきた。


「兄さん!? その怪我はどうしたんですか!」


 返事は返ってこない。

 しかし、それは数日に一度はあることだ。

 兄さんなりの照れ隠しなのかもしれない。


 ただ、その日の兄さんは違った。


 伸ばした手が何故か痛い。

 私は今大好きな兄さんに手をはたかれた?


 唖然とその場に立ち尽くす私の横を一言「ごめん」と呟き兄さんは階段を上る。


「え、待っ」


 呼び止めようとする私を拒絶するかのように、ドアを閉める音が響いた。



 ☆彡



 夜。私は母から兄さんに起きた今日の出来事を聞いていた。


 校外学習で兄さんは他校の生徒と殴り合いになったらしい。

 どうして殴り合いになったのかは分からないが兄さんは一ヵ月の停学となった。


 私の中には今、怒りと不安が立ち込めていた。


 怒りは言わずもがな、兄さんを殴った男に対するものだ。


 そして後者だが。

 確証はない。

 ただ、暴力を奮うくらいなら逃げを選ぶ兄さんが実際に人を殴ったことがどうにも引っかかってしまう。


「ーー。やみ!」

「ひゃっ!?」


 突然ママに名前を呼ばれ心臓がバクバクと波を打つ。


「ママ何かあった?」

「何かあったじゃないでしょ。話しかけても「うん」としか返ってこないし、机をみてごらん」


 言われて見ると、そこにあったはずのご飯が無くなっていた。


「あんた、さっきからずっと箸だけ動かしてたのよ。逢斗が心配なのは分かるけど、しっかりしなさい」

「......うん。ごちそうさま。今日は、もう寝るね」

「ちょっとお風呂はどうするの!」

「朝。入ろっかな」


 だめだ。今日はもう寝よう。

 寝て、明日考えよう。


 明日も学校はある。

 時刻はまだ八時を過ぎたところだ。


「朝、宿題、やらなきゃ」


 枕に顔を埋め、私は眠りについた。



 ☆彡



 翌朝、お風呂に入り机に向かうと、なんだか気持ちがスッと楽になった。


 兄さんは心配だけど、学校を休むわけにはいかない。


 兄さんにメールも送るか悩んで、止めた。


 その代わりという訳ではないが、とある人物にメッセージを送った。


 彼女なら何か知っているかもしれない。


 しかし、その日返事は返ってこなかった。


 手詰まりだ。


 そう思っていた金曜日。


 我が家に一人の女性が訪れた。


「初めまして。もしかして貴方がヤミさんですか?」


 私とそう変わらない身長。


 目鼻立ちは整っていてとても兄さんが好きそうな女性だ。


 私はただ一言「はい」とだけ答えた。


「初めまして私は暁 春といいます」









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