第3話 チュートリアル

 ……気が付くと、ボクは赤ん坊であった。


 ここが日本で無いのは確かである。何故なら、ボクの今いる家は洋風の古民家だからだ。勿論、病院のベッドでも無い。


 更に、ボクを抱いているのは、豊かな髭を蓄えた白髪の老人。どうもボクには両親がおらず、この老人が親代わりらしかった。


 ちなみに、母乳については問題無い。ボクと同じ位の赤ん坊を抱えた女性が、毎日家に通ってくれているからだ。そして、爺ちゃんはこの女性に、薬や食料等を渡していた。


 爺ちゃんは、ボクの面倒を見ている時以外、薬草栽培や薬作りを行っている。また、たまにやって来る、怪我人や病人の治療も行っていた。ちなみに、謝礼はやはり、食料等の物品であった。


 爺ちゃんを観察して気付いたが、爺ちゃんは魔法が使えるみたいだ。時々、火や光を指先から出している。


 それに、治療でも魔法を使う事があった。小さな傷程度なら、爺ちゃんが手を翳すと簡単に治った。どうやら、爺ちゃんは黒魔術師、白魔術師、薬師のジョブを、取得しているらしい。


 ……と、唐突にジョブとか言ってしまったね。


 どうも、この世界はディスガルド戦記の中らしいのだ。その根拠は、ヘルプ機能がそう教えてくれたからだ。


 突然、ヘルプ機能とか言われ、困惑するのはわかる。ボクも初めは頭が変になったかと思った。


 しかし、この世界の基本的な情報については、疑問に思うと、頭の中に回答が返って来るのだ。そして、ボクが「この世界は何だ?」と思ったら、『ディスガルド』と答えが返って来たのである。


 今いる国は、ゲーム時の所属国だったペンドラゴン王国。住んでる場所は、ケトル村という小さな村らしい。


 今のボクは赤ん坊であり、寝ている事しか出来ない。あまりに暇なので、このヘルプ機能を色々と試してみた。その結果、様々な情報を得る事が出来た。


 今のボクのジョブは、村人でLv1であること。村人がLv10になると、他のジョブにクラスチェンジが可能になるみたいなのだ。ちなみに、『ディスガルド戦記』内には村人というジョブは無かった。


 次に、死霊術士ネクロマンサーになるには、まず黒魔術師となる必要がある。そして、黒魔術師Lv50になると、死霊術士ネクロマンサーへの転職が可能となる。この辺りは、ゲームと同じ設定らしい。


 更に、ボクはユニーク・スキルなる物を持っているらしい。その名も『死者との交信』。名前の通り、死者と会話を行う事が出来る物らしい。


 死霊術士ネクロマンサーを目指すなら役立ちそうだ。しかし、『ディスガルド戦記』には、ユニーク・スキルなるシステムは存在しなかった。具体的な効果は試してみるまで未知数である。


 それと、ユニーク・スキルの効果なのか、常に枕元に『何か』の気配が感じられた。しかし、スキルがLv1なのか、会話も出来ず、姿も見えない。ただ、気配を感じるだけである。


 とりあえず、危害を加えられる事は無いので、気にしない事にしている。


 そして、ボクは再び暇となる。ヘルプ機能へ質問するネタも、それ程は多く無い為だ。せめて、村人でも魔法が使えれば、こっそりと練習が出来たのだが……。


 仕方がなく、ボクは母乳を飲んでは眠るだけの、堕落した生活を続ける。今なら、MMORPGで遊べた病院生活が、いかに恵まれていたかわかる。


 せめて、一日でも早く歩ける様になる為に、手足をジタバタと動かす。すぐに疲れてしまうが、しばらく休んでは動かし続けた。


 爺ちゃんと乳母さんは、その様子を微笑ましそうに眺めていた。あまり泣かない様にしてるし、この位の活動なら可愛い物だよね?

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