第21話 おかしいわ 2

 グレ太は電話をかけて、「すぐ店に来て」と相手に頼みました。

「これから来るお兄ちゃんはね、探偵なの」

 探偵! ホンモノの探偵!

「ちょっと変わっているし、あまり好かれていないけど……」

「そう? かわいいところもあるのよ」

「目つきが悪すぎると思わない?」

 ガタッとドアが開いて、「おれの目つき、そんなに悪い?」と言いながら、長身の男が入ってきました。

 匂いが違う……。タバコ、汗、それだけじゃない独特のもの。嗅いだことがありません。

「聞いてたの?」

「聞こえますよ、大声で話しているんだから」

 ズカズカと入ってきます。よれよれの汚れた軍隊仕様のブーツ。その紐は緩んでいて、スネの半ばまで覆うはずのブーツの上部はだらしなく開いています。

 キツネを思わせる鋭い目。一重。吊り上がっています。日に焼けた肌。大きな顔。黄色い歯。

「臭いわ。焼酎? キムチで?」

「朝まで小金町で飲んでいたんでね」と彼の低く響く声。

 これが探偵なのでしょうか。

「仕事の話よ」

「安い仕事なんだろう、どうせ」

「タダで飲ませたり客を紹介しているじゃないの」

「ろくな客じゃないよ」

「うるさいわね」

 言葉だけだとケンカをしているようですが、すごく仲がいいのです。緊張感はまったくなく、とてもみんな楽しそうです。

「この子、素姓を確認したいの」

「ん?」

 ようやく探偵はぼくを見ました。

 ぼくに向けた指は長く、ごつくて固そうな手をしています。

「だれ?」

「それを確認したいの。電話帳に載っていないのよ。いまさっき役所の友達に電話して聞いたんだけど、住民票も違うらしくて見つからないの」

「君は、どこの誰だ」

「壁野俊。壁紙の壁、野原の野、俊敏の俊。Y市O区M町。市立M小三年七組」と言っていると、住所からはグレ太も一緒に言ってくれました。

「その住所には該当者なし、だって」

「転居届がちゃんと処理されていないのかもしれないぜ。役所にも適当なヤツがいる」

「あんたよりはずっとちゃんとしてるわよ」とガル坊。

「学校に通っていたのよ」

「学校に問い合わせたか?」

「まだ。だけど住民票がないって、おかしいんじゃないの? なんか怪しいから、あんたに頼もうって思ったの」

「なるほどね」

 グレ太はぼくを発見した経緯を探偵に説明しました。空いている倉庫の見回りも、グレ太たちの仕事の一つだったのです。倉庫の持ち主とこの店の持ち主が同じらしく……。

「ドアが少し開いていたのよ。前の日にはちゃんと鍵がかかっていたのにね。それで中に入ったら、この子がマットレスの上に倒れていて、最初はお人形さんかと思ったんだけど、ほら、女の子にしては髪の毛が短いでしょ。妙だなって思ったら息をしていた。だけどすごい熱で、それからしばらく様子を見ていたの。悪いやつが来るかもしれないって思ったから怖くってさ。看病しながら、見張っていたんだけど、五日も経って熱も下がって、誰も来なかった」

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