第10話 冒険者ギルド(7)

「それで、お前さんは一体なんなんだ?」

「なんだって言われても・・・」

「クロイス、コイツは何者なんだ?」

「いや、俺が聞きたいくらいだよ」


 テーブルを挟んだ向かい側に座るギルマスが、私とクロイスにそう尋ねる。


 そしてこちらを見る二人。


「えっと、駆け出し冒険者、かな?」

「駆け出しって・・・」

「駆け出し・・・」


 なによ。

 今はなりたてホヤホヤの駆け出し冒険者で違わないよね?

 まあ、元・最高ランクの廃人冒険者でもあるけど。


「まあ、言いたくないのなら無理には聞かないが、お前自身のためにも、今のうちに言える事だけでも言っておいた方がいいぞ」

「なにそれ」


 それって脅しか何かのつもり?


「勘違いするな。純粋に助言だ。いいか、ここまで騒ぎが大きくなったんだ。お前の事は遠からず領主様の耳に入るだろう。そうなれば確実に呼び出しがかかるはずだ」

「呼び出し?」

「そうだ。お前のような規格外の人物が突然この町に現れたんだ。それがこの町にとって災いになるのか、それとも利益になるのか。この町を治める立場の領主様としては、確かめておく必要があるだろう」


 なにそれ、めんどくさそう。


「拒否とかは?」

「出来ると思うか?」


 ですよね。


 別に領主や貴族を敵に回しても、一人で生きて行く自信はある。

 でも、せっかく異世界にやって来たんだから、この世界をもっと楽しみたいし、冒険者としても満喫して見たい。貴族に追われるような逃亡生活みたいな事はしたくない。


「だから俺が間に入ってやろうと言ってるんだ。このまま一人で領主様の所に行くことになれば、たぶん貴族に召し上げられる事になるぞ。お前がそれを望むと言うのなら、俺は口を挟まないが」

「召し上げられるとどうなるの?」

「まあ、おそらくは、その回復術士としての能力を貴族のためだけに使う事になるだろう。あとは、お前は容姿もいいから男性貴族の相手をする事にもなるだろうな」

「・・・・・」


 もしもそんな事になったら、私は館ごと消滅させてでも逃げ出すはず。

 てことは、結局どのみち敵対する事になるんじゃ?


「だから俺が間に入ると言っている。俺から領主様に報告を上げれば、領主様が直接お前を呼び出す理由はとりあえずなくなるからな」

「ギルマス!大好き!!」

「いいから説明しろ。お前の事を。別に言いたくない事は言わなくてもいいが、俺が領主様に説明出来るくらいの情報は開示してくれ」

「うーん・・・・」


 とはいえ、開示出来る情報。なにかある?ないよね。

 私の存在自体が非常識な存在みたいなもんだし。

 それらしい設定を今この場で作ってしまうか、それとも・・・・。


「ねえ、ひとつ聞いていい?」

「なんだ?」

「ギルマスはどうして私を助けてくれるの?」


 はっきり言って、すごく面倒事なはず。

 わざわざ自分から首を突っ込む理由がわからない。

 なので、私は自分の情報を開示する前に、一応聞いておく事にした。

 そんな私の疑問の言葉に、ギルマスは口の端を少し上げ、ニヤリとさせて答えた。


「ふん、こんな規格外の冒険者をみすみす貴族になんかに取られてたまるか。この町をホームにした貴重な回復術士だぞ?ギルドマスターとしては到底見過ごすわけにはいかん」

「私、ここをホームにするとは言ってないけど」

「ほう、貴族の寝室がいいと」

「嘘です。ここが私のホームです」

「よろしい」


 ギルマス黒かった!!


「ナナ、今日からお前はクロイスの率いる冒険者パーティー《黒猫の集会》に加入しろ」

「は?」

「え?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る