第7話 育枝ついに動く

前書き


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俺は家に一秒でも早く家に帰りたいと思った。

だけど育枝はそれを良しとしなかった。

誰が見ても落ち込んでいるとわかる俺を励ましながら、景色を見ながら下校をしようと言ってきたのだ。育枝曰くネガティブな時や落ち込んでいる時には景色を見て気分を紛らわせるのも大事らしい。その時、正直その言葉の通りだと俺の頭は納得した。だけど気持ちがそれを拒んだ。今は誰にも見られたくない、そう言った気持ちが俺の足を家へと一秒でも早く帰ろうと突き動かす。


「逃げるな!」


 突然聞こえてきた声に俺は思わず足を止めて後ろを振り向く。

 そこにはさっきまで俺の隣いたはずの育枝がいた。


 ――なんて真っすぐで純粋な瞳


「よく聞いて! 失恋したからもう終わりだなんて思わないで。白雪七海以外にも女は沢山いる。だから落ち込まないで。白雪七海は自分を愛してくれる人を今日失った。だけどそらにぃは別に何一つ失っていないんだよ。だったらまだ負けていないよ」



 ――まだ……負けてない?




 ――違う、そうじゃない、今は、今だけは理屈じゃないんだ育枝……。




 初恋は甘酸っぱくて中々叶わない。

 俺の好きな小説家の一人もそう言っていた。今ならその言葉の意味が痛い程わかる。本当はもう引きずっても仕方がない事はわかっている。けど好きな気持ちは消えてくれない。このまま諦めずに距離を縮めていけばいつかは付き合えるんじゃないかと思っている。それはあくまで願望であって、根拠のない空想に過ぎない。


「負けたよ。今日ハッキリと言われた。異性としては好きではないと」


 俺は自分でその言葉を言っておきながら、その言葉に胸が苦しめられてまたポロポロと涙が零れてきた。


「あれ……」


 言葉に表せない感情が胸の中で暴れ始める。

 その焦燥感にもう自分がどうしたくて、なにをしたいのかがわからない。

 恋は病と言うが、正にその通りだと思う。


 これは全てが平凡な男に生まれた自分が悪い事。

 もし白雪七海が無視したくても無視できない何かを持って生まれていたならば、もしかしたら違う結末が訪れたのかもしれない。


「うっ、うぅ……ぅ……ぅ……」


 俺は…………。


「まだそらにぃは負けてない! だから前を向いて」


 俺はイライラしてしまった。

 白雪にではない、白雪が好きになった相手にだ。

 白雪の好きな人が誰かなんてしらないし見当もつかない、だけど白雪の心をそいつが持っていたせいで俺は振られたんだ。そう思うととてもイライラした。何で俺じゃなくてお前なんだと目に見えない誰かに向かってそう叫びたくなった。


「そらにぃはそもそも告白をまだしていない。その時点でまだ負けてない!」


 その言葉に俺は、確かに。と思った。

 だけど失恋をしたのは間違いない。


「育枝ゴメン。やっぱり今は一人にしてくれ」


 俺はそう言って家に向かって歩き始める。

 いつもならちょっと面倒だなと思う育枝の優しさが今は少し……違うかなり辛い。もしこのまま育枝と一緒にいたら俺は育枝に甘えてしまう気がする。

 俺の事情に育枝を巻き込むわけにはいかない。それにこんな所を誰かに見られたら何も知らない人からしたら育枝の彼氏かと勘違いされるかもしれないと言う言い訳を心の中でしながら俺は自分のダメな行動を少しでも正当化しながら家に帰る。


 ――最低だな、俺。


 大切な妹ですら、自分の正当化の為に扱う最低な兄だと言う自覚はある。

 だけどそうでもしないと心が本当の意味で壊れてしまいそうだった。

 だから心の中で謝る。


 ――ゴメン、育枝。


 そのまま一人歩く俺。

 そんな俺を育枝がただ黙って見ている事はなく。


「待って!」


 そう言って俺の手を握ってくる育枝。


「仕方がないな、そらにぃ付いてきて!」


 そう言って俺の手を強引に掴んで何処かへと連れて行く。

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