36.アキラ、湖畔で思う。
湖畔を見ながら、一服していると、なんだか昔の事を思い出す。
何年か前に両親と一緒にいるのが嫌で嫌でしょうがなくなり、隣の県の有名な湖に隣接するキャンプ場まで自転車1つで行ったことを思い出す。
あれは、本当に馬鹿なことをしたと思う。だが、その道中のことは、今でも鮮明に覚えている。
長い長い旅路であったのを覚えている。
~回想~
家には僕の居場所がなかった。いつも聞こえるのは、両親の喧嘩の音。
そして、両親は僕にまったくの無関心でいた。
僕は非行もしなかったし、親に対しては生意気も言ったことはないのに、両親からは
「勝手に生きろ。」
それだけしか言葉を交わさず、僕自身もそんな親の愛情をまったく感じず、過ごしていたと思う。
その日も両親の喧騒の声が聞こえていて、いつものようにどちらかが、物を壊す。
いつもなら、怒りが収まるまで我慢していただろうが、その時だけはその余りの無関心さと毎日の喧嘩に堪忍袋の緒が切れた。
そして、無言でその場から立ち去り、荷物をまとめ始める。
親は
「・・・」
家にあった寝袋と小さなテント、着替え、それに小さな鍋などをバックにまとめ始める。
インスタントの袋麺やら水など、最低限生きていくために必要な物も一緒に入れていく。それと丈夫な紐と今、自分が持てるだけのお金。
そして、荷物が準備できたら、次に自分がいつも通学で使っている自転車のタイヤに空気を入れ、チェーンに油を差す。
後ろの荷台はゆるくなっていないかなどを点検した。
それから、スマホで目的地の場所を確認する。
そして、両親に向かって
「もう耐えきれないです。家出して、隣の県の○○湖に行きます。」
と言い放つ。そして、素早く自分の部屋に戻り寝る。
多分、心のどこかで止めてほしかったんだと思う。
ーーーーーーーーーーーー
そうして早朝、目が覚めたら素早く身支度をし、朝食とおにぎりを作る。
腹ごしらえをしていると父親が居間にやってくる。
「・・・。」
と、父親が険しい顔でこちらを見るが、案の定何も言わず、何もなかったように身支度をし始める。
その反応に僕はガッカリしながらも、
「行こうと思ってます・・・。」
と、最後がしりすぼみになりながらもどこか止めてほしかった。自分で意志が弱いことが嫌でもわかってしまう。
それでも、父親は無反応で自分には、関係のないことだと言うような態度であった
やはり、僕は愛されていないのかと嫌でも実感してしまう。
そして、後ろ髪を引っ張れる気持ちになりながらも荷物をもって家を出る。まだ空は薄暗く秋の涼しさがひんやりと伝わってくる。
その寂しさを紛らわすために自転車を漕いで、長い長い旅路に出発するのであった。
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