第一章:生命
1.アキラ、遭難する。
青年アキラは歴史オタである。そして少し変わっているところが
ある。開けてはならない玉手箱の中身が気になって思わず見てしまうタイプ。
今もそうだ。明らかに危なそうな不思議な裂け目を発見してしまった。それはどっからどう見ても危ない雰囲気が漂っている。
少しフリーズしていると、持っていたスマホが音を立てて鳴る。
確認してみると、メッセージ欄に
『汝、何を欲するか。』
まるで、神が見ているかのようにそんなことが書かれていた。
そこまで、お膳立てされてこのまま引き下がれば、一生モヤモヤが残ってしまう気がしたので、少しだけ裂け目の中を覗く。
裂け目の向こうは別の場所と繋がっているような様子が見られるが、霧がかかって見えない。
『ザァ~~、ザァ~~。』
荒波のような音だけが聞こえてくる。近くに海や湖なんてないので、相当遠くの離れた場所に続いていると想像できる。
うん! これ駄目なパターンだ。
そう思いながら、後ろを向いて立ち去ろうとした瞬間。
裂け目の向こうの方から石が飛んでくる。 それに気付かず、僕の膝の関節部分に石がクリーンヒット!!
僕に電流のような痛みが走る。
「いってぇ!!! 」
そのまま膝カックンの要領で体勢を崩し、スッポリと上半身が、穴の中に入ってしまう。
そこからは、身体が掃除機のように、裂け目の中に吸引されていく。嗚呼、埃の気持ちが少しだけわかった。
その中の未知の景色を垣間見てしまい、僕は気を失うのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
泥の匂いが鼻を突く。幸いなことに溺れるようなことはなく、岸辺に流れ着く。あれか何時間ほど立ったのか。
そして、現代っ子らしく、最初に取った行動はスマホを見ることであった。
「ついた、ついた。よかった・・・防水機能で。って、気を失ってから、もう3時間も立っているのか・・・。」
それよりも、先ほどの裂け目はどこかと見渡すが、どこにも見当たらない。どうやら、もう消えてしまったようだ。
そうして、あたりを見渡すと、太陽が山に隠れそうなのが見てとれる。そして、かなり冷たい風が頬を撫でる。
その事実にがっくりしながらも、今はそれどころじゃないことに気付き、気持ちを切り替える。
(スマホだと今、19:19か・・・もう夜じゃないか。 どこか雨風を凌げそうな岩場を探さなきゃ、洒落にならない。)
そう考え、僕は冷たい風を防げそうな洞窟を探して歩き出す。歩き続けて4~50分しただろうか、ここでも月はあるようで、月明かりが微かだが夜道を照らしてくれている。
『グゥ~~~・・・』
お腹が鳴る。
「腹減った~~~。腹減ったぁ~~~なんか食べるものないか~~。」
そう言いながら、ポケットの中から板ガムを見つけて食べる。少しだけだが、空腹を紛れる。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
さらに歩くこと20分、丁度いい岩場を見つける。
「よし、ここなら、一晩過ごせそうだ。」
そうと決まれば、まずは、焚火だ。近くに落ちている小枝や枯葉を拾い集め、十分集まったら焚火の準備に取り掛かる。
今、手元にあるのは、ハンカチ、未開封のポケットティッシュ、スマホ、板ガムの銀紙くらいだ。
自分の体験してきた経験をフルパワーで思いだし、何かできないかと、考える。
そして、思いだす、十年前の自分が体験したことを。親に無理やり入れさせられたボーイスカウトがこんなことで、役に立つとは驚きだ。
ティッシュを火口とし、スマホからバッテリーを取り出す。銀紙を細くしたものを、バッテリーの金属部分に当てて、ショートさせティッシュに着火する。
すぐにティッシュを枯葉に移し、息を吹きかける。
「フゥー! フゥー! 」
(着け! 着け! 着け! )
そう願いながら吹き続けていると、火が燃えだす。すぐにセットしていた小枝に移し、なんとか苦労しながらも、焚火を完成させる。
「ふぉおおおおお、暖かい・・・。これでなんとか暖をとれるな。」
ふと遠くの景色を見下ろすと、薄らとだが、光が見える。その瞬間、アキラに笑顔がこぼれる。
「あれ、家じゃん!! てことは人がいるかも。明日、あそこに行ってみて、助けを求めよう。」
希望の光を目に焼きつけながら、明日に備え、少し寒い岩陰で眠りにつくのであった。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
『チュッ・・・チュチュチピュッン』
朝、太陽が地平線から登ってくる。
「ふぁぁあああああああ。よく寝た。」
そうして、起きあがる。昨日見た、あの民家を探してみる。すぐに家らしき建物を発見する。
ここから、昨晩明かりが灯っていた民家らしき建物まで、十数キロの道のりだ。
「歩くしかないか。」
と腹括り、まずは、一歩を踏み出す。
未知の土地で、言葉が通じるだろうか。この森に住む熊や野犬に襲われたらどうしよう。なんてことを考えながら、歩いていく。
ついには、何で、飛ばされて早々、十数キロも歩かなければならないだろうか。
そんな愚痴を吐きながら、僕は歩いて行く。一歩ずつ、振り向くと昨晩居た場所を遠くに感じる。それに少し快感を覚えながら、再度歩く。
途中、ラズベリーのような実を、発見する。これを木の棒で突き、これをなんとか落とす。
「ラッキー!! これ・・・食べれるのかな、一応何個か取っておくか。」
ボーイスカウトの時に、教わったパッチテストを思い出す。獲った木の実の一個を皮膚に当てて、毒見してから食べようと考える。
木の実を潰し、皮膚に当てると、ほかに甘い香りが周囲に広がる。
歩いて15分ほど、皮膚に発赤は見られず、次に少し齧り舌で味を確かめる。痺れは感じられない、まずは一つ味わうように食べる。
知らない土地、故に何が起きるかわからない。だからこそ、慎重にならざるおえない。それでも、久しぶりの水分は喉を潤してくれた。
「これ神うまっ・・・。」
そのおいしさに、手が果実をもう一つ運んでいく。やばいやばい、後先のことを考えると、今、食べてしまっては、後で喉が渇く。
そう理性が、感情を抑える。なんとか欲望を抑える。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
それから、何キロ歩いただろうか、行けども行けども森、森、森。民家なんてありやしない。後ろを振り返り、出発地点からずれてないかと、確認しながらまた歩く。
だが、周りの景色も段々と、鬱蒼としげる森から林へと、変わってきていることを実感しながら、また一歩、一歩と歩く。
「ああ、昔の人はこうして、何キロ歩いていたんだろうか。現代っ子には、厳しい。あぁ、厳しい。」
そんな愚痴を吐きながら、歩いていく。
そして、足が限界に達し始めた頃、ついに民家が見える所までやってきた。
「がんばるんよ~~~。あともう少し。」
身体に残る、最後の力を振り絞りながら歩く。
そして、ついに農作業をしている人影を発見する。こうして僕は知らない土地で、人を発見する。
「イェエエエエス。 第一村人発見! 」
そう言って、僕は村人に近づいていくのである。
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