第5章 歪んだ世界の賢者

第1話 転生早々レ◯プ被害にあいました!!

 さすがに4回目ともなると慣れたもので、今回は全員転生するとすぐに辺りの確認をした。

薄暗く最初はよく見えなかったが、どうやら木でできた小屋の中のようで、木の板の隙間から陽光が差し込んでいた。

『馬小屋? 農具とか入れておく倉庫かな?』

木と藁のような匂いがしたので、そう思ったアマンダが視線だけを巡らす。

巡らすが、視界の中に一緒に来たハズのアイ達の姿は見えなかった。

『?』

少なくとむ視界内にはいない。

だが、気配だけは確かに4人分感じられた。

すると、

『どゆこと、どゆこと、これぇぇぇぇーっ?!』

聞き慣れたアイの間抜けな声が、頭の中で響いた。

『な、なんだ?』

『なるほど、こういった転生もあるのか?』

『あまり気持ちのいいものではないな』

同時に他のノーマンとヴォルの声も、頭の中に聞こえる。

『いったい、どうなってるんだ?』

『どうやら、1人の肉体に、全員の霊体が憑依してしまったようだな』

『何か妙な気分ですね』

肉体の主導権は誰になるのか、アイがキョロキョロ室内を首を振って見渡すと、それにつられて身体の方も首を動かした。

肉体にシンクロしているのはアイだけではなかった。

試しにヴォルも手を動かすと、身体の方もそれに合わせて動く。

さらには触覚も霊体に繋がっているのだろう、背中が触れている地面の感触も全員が感じられた。

『順番からすれば、ここはアイかレベッカの世界で、この身体もどちらかのモノのハズだが?』

『私の世界じゃありません。 私は死んでるから、手とか動きませんし』

アイが言うと、

『あ〜、すみません。 私の世界です』

1人だけ別の方、寝ている頭の上の方からレベッカの声がした。

『言うの忘れてました。 私は教会に行く途中で拉致られて、変質者に強姦されそうになる途中だったんですよね〜』

まるで他人事のように言うレベッカ。

声の方を見ると、1人だけ肉体の外で霊体のまま、こちらに話しかけている。

『そんな危機的状況だったのに、異世界でよく平然と普通にしてられたな?』

『まあ、ゼロ次元で時間経過はリセットされますんで、慌てるコトもないかと』

『いやいやいや、そ、そ、そ、そんなコトより、拉致られたって………………』

アイがガクブル状態で言うと、小屋の隅で別の気配が動いた。

『っ!!』

見れば、大柄でいかにも血の気の多い暴漢にしか見えない30歳過ぎくらいの男が1人、息を荒げて近づいてくる。

『紹介しま〜す。 私を襲ってレープしようとする変態さんで~す』

頭上で肉体の本人であるレベッカの霊体が、他人事のように言った。

一方、レベッカの本体に憑依中の4人はたまったものではない。

どういったワケか、同じ肉体に4人分の霊体が入ってしまったからか、どうにも身体が思うように動かせない。 このままでは、レベッカの身体まま……………、

『あ〜、私はこうして処女を奪われるのね。 辱めを受けて股下から異物をねじ込まれて………………あ〜、女に産まれたことを後悔するんだわ』

棒読みのセリフで言うレベッカに、

『じ、冗談じゃないっ!!』

レベッカの身体に憑依した4人全員が戦慄した。

他人の身体とはいえ、今は憑依して同化してしまっているので、自身が危害を受けるのと同じである。

中でもアマンダは、一番青ざめた顔をしていた。

『は、初体験って、私でもまだ経験してないのにっ!!』

『ええっ?!』×4

『何で全員驚いてるんだっ!』

『と、ともかく、この状況を何とかしなくてはっ』

『ここここ、こういった場合は………………』

最初に動いたのは意外にもアイであった。

年齢的に一番そういった体験には無縁とはいえ、怖いものは怖いしイヤなものはイヤなのである。 アイはそこで、ヒロインがピンチな時に対する、アニオタの定番の対処法を実施することにした。 つまり、金的への直接攻撃である。

レベッカの体力はどの程度か分からないが、たとえ幼女の蹴りでも、金的への直接攻撃は、相手にかなりのダメージを与えられるコトは、アニメ等で得た知識で知ってはいる。 でも、実際、どのくらいの痛みなのかは知りたくはなかった。

何より、そんな事を言っていられる余裕はない。

手加減、という言葉を学校で習った記憶はないアイは、

『えいっ!!』

渾身の力で暴漢の股間を蹴り上げると、

「っ!!」

暴漢は声にならない悲鳴をあげた。

アイは予想以上の破壊力よりも、蹴ったときに金属音がしなかったことに驚いた。 あれはテレビの演出なのだと、このとき初めて知った。

股間を押さえて悶絶する暴漢を押しのけ、その隙にアイ達4人が憑依したレベッカの身体は跳びのき、間合いを空ける。

その間も股間の激痛に苦悶の表情でもがく暴漢を見ていると、なぜかここにいないはずの自身の股間に違和感のようなモノを感じてしまう男性陣ではあるが、婦女暴行犯に対して慈悲を向ける気にはなれない。

『ヴォルさん』

『?』

1人、離れて安全な場所にいるレベッカの霊体が声をかけた。

『ソコに落ちている私の杖…………………』

さっきまで倒されていた場所のすぐそばの地面を指差した。

『仕込みになってます』

仕込み杖、または仕込みで通づるそれは男の、武人のロマンである。

杖の中に内包される暗器は、主に刃物である場合が多い。

仕込み杖には小口径の銃もあるが、侍世界のヴォルの頭に浮かんだのは、時代劇で見たことのある、盲目で剣術、居合斬りの達人である主人公が持っていたモノであった。

見ればそこには確かに杖らしきモノが落ちている。

長さは170㎝程、小柄なレベッカには長すぎるようにも思える。

杖の上方には金属製の装飾と数個のリングが通され、あまり杖のようには見えない。 杖というより、高僧やどこかの神官が持つ錫杖のように見えるが、この世界の風習も習慣も知らないヴォル達にとってはどうにも判断しかねた。

ともかく、レベッカの身体の主導権を得たヴォルは、その杖を手に取り重さと仕込みとなっているであろう箇所を探った。 やはり杖の上方、仕込みなら柄となる部分から30㎝程のところに装飾金具と継ぎ目がある。 引き抜くと、

「おお…………………」

ヴォルの驚嘆の声が、レベッカの声でもれた。

業物、とはいえないまでも、それなりに良い出来であることは、侍であるヴォルの眼力で見極めることができる。

細い杖への仕込みであるために、刀身は細身ではあるが、刃長は1尺半(約45㎝)、日本刀なら脇差に当たるサイズで、ご丁寧に(刀身側面の溝)まで掘られている。 日本刀の作風を真似ているのは明らかだ。

『日本刀の鍛冶の知識と技術を、ゼロドライバーの技術で調べて作らせました』

思わず見惚れるヴォルに、霊体のレベッカが言った。

『作らせた?』

『そんあことより、犯人が復帰しましたよ』

『ああ、問題ない』

『えっ?』

それはまばたきするほどの一瞬であった。

今はレベッカの視点で見ている一同の視界が、次の瞬間には襲いくる暴漢の背後にまで移動し、続いて「チンッ」という軽い金属音、仕込みの刀を鞘である杖に収めた際の、切羽(柄部分の金具)と鍔代わりの補強金具がぶつかる音に続いて、すぐ背後で暴漢が倒れ伏す「ドサッ」という音が耳に届いた。

振り返ると、何故か衣服をみじん切りにされて半裸状態の暴漢が、気を失っている。

『五◯衛門かっ?!』

「何故盗賊のように見える?」

アイの言った言葉の意味が分からず訝るヴォル。

『殺したのか?』

「気絶させただけだ。 このような卑猥な輩、斬る価値もない」

レベッカの声で聞く武士っぽいセリフに、思わず笑い出しそうになっていると、

   バンッ!!

閉じ込められていた小屋の扉が蹴破られ、1人の大男が飛び込んできた。

見た感じは60〜70歳代ながら、手には派手な装飾が施された大剣を握りしめ、筋肉が纏った甲冑からはみ出しそうな大柄な体躯で、素人目にも覇気滾る強者であることは明らかだ。

顔の下半分が真っ白な鼻髭と顎髭に覆われ表情は読み取りづらいが、大きく見開かれた鋭い眼光には、さすがのヴォルも気圧されそうになった。

『暴漢の仲間か?』

再び仕込み杖の柄部分に手を添え身構えるレベッカの身体のヴォルに、

『いいえ』

と、霊体のレベッカが制した。

一方、飛び込んできた老騎士は、レベッカ本人の姿を確認するや、

「し、司祭様っ、よくご無事でぇぇぇっ!!」

涙を流しながら絶叫て崩折れた。

その様に、

『え?』×4

呆気にとられたレベッカ以外の4人は、気まずそうに明後日の方を見ている霊体のレベッカにジト目を向けた。

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