第7話 隠れて食べるオヤツは格別!!

 レーダーが艦影を確認した。

「距離、0.1光秒(約3万㎞)。 バンディット級一隻確認」

「大昔の退役艦がこんな所で? やはり積荷が目的か」

山賊の名を冠する改造海賊船。

年代物とはいえ、ただの輸送艦では勝ち目はない。

「こんなに接近されるまで、何故気付かなかったっ!!」

ブリッジに飛び込んで来たノーマンの叱責が飛ぶ。

アンドリューが敬礼をし、

「申し訳ありませんっ。 どうやら機器の幾つかにも細工をされていたようで、ついさっき復旧したところです」

「カルカーノ軍曹か?」

「憲兵の聴取でついさっき、ようやく白状しました。 身内を人質にされていたようで」

「当艦の被害は?」

「シールドのおかげで無傷です。 今の所は、ですが……………砲術長っ」

「無茶言わんでください、この艦に装備されてる火器での応戦なんて、とても…………」

火力差は歴然である。 当然の事ながら輸送艦の火力で敵うワケはない。

そこへ敵艦からのメッセージが届いた。

「敵艦からです」

「読み上げろ」

「積荷番号R1250-GS-ADを置いて立ち去れ……………」

「R1250-GS-AD………か、やはり例の荷が目当てでしたか」

軍が開発した最新のシステムを搭載した装置。 今回はテストの為に実験施設まで運ぶ任務であったが、どうやらその装置の価値、さらには積荷番号まで知られているとはと、アンドリューは肩を落とし、

「本部の情報管理はどうなってる? スパイを見逃すばかりか、極秘情報の漏洩まで………………どうします、艦長?」

不利な状況にどう対処するか、ノーマンが思案しているところへ、何事かと艦橋にアイ達4人が入って来た。

その中でヴォルだけは、軍人だけあって状況をすぐに把握した。

『どうやら、前に通信で言っていた「例の積荷」、とやらを狙った海賊だな』

それを横で聞いていたアイは、ふと、昔見たアニメのワンシーンを思い出した。

名将沖◯艦長が、かつて敵艦からのメッセージに返した言葉………………、

『バカめ』

アイが呟いたその言葉を聞いて、ノーマンは苦笑いを浮かべた。

「敵艦に返信」

「了解、文面をどうぞ」

「バカめ、だ」

聞いた通信士は、しばしノーマンの言葉を頭の中で整理し、

「…………………了解!!」

困惑はしたものの、ノーマンへの信頼はそれを上回っている。

文面を迷う事なく相手に送信すると、すぐに敵艦は速度を上げて迫って来た。

とはいえ、まだまだ距離があるため肉眼では点にさえ見えない。

「面舵90度、有効射程を一定に敵艦との相対速度を合わせ最大船速」

レーダーで確認しつつ、敵艦に合わせて平行移動するように艦を進めた。

『ミサイルとか使わないんですか?』

『距離があるからな、動きの遅いミサイルでは到達する前に迎撃されてしまうだろうし、それはこっちも一緒だ。 さっきは機器を細工されてたが、もう当たりはしない』

霊体側の意識でアイ達に説明し、

「連中に誰を相手にしているか教えてやろう。 砲術長、超電磁砲レールガンの用意、光学照準と引金トリガーをこちらに」

「艦長、いくら射程距離内といっても、この距離じゃ的が小さすぎるのでは?」

「構わん。 今は私を信じろ」

力強い戦神ノーマンの言葉に、ブリッジ内の士気が上がった。


 その頃、アスペンケイド艦内中央あたりの貨物室内。

艦の外観は年代物ながら、ここだけは最新の設備を整えていた。

普通なら、まさかこんなオンボロ艦が、軍の最新装置の輸送を担うとは思わないだろう、だからこその護衛艦を伴っていないのだから。

そんな艦の貨物室最奥、最も厳重に管理された特別製コンテナ。

特殊装甲と複雑で厳重なセキュリティーで、その中に入るのは困難を極める。

そこに、今回の輸送任務において重要な装置が収められていた。

 - 積荷番号R1250-GS-AD -

それが如何なる装置なのか、軍の中でも一部の者しか知らない。

少なくとも、この世界における地球軍で、最高機密の最新装置であることは間違いない。 ここへは艦長の許可がなければ、副艦長でさえ入ることを許されてはいないが…………………、

「ふむ、コレか?」

小型車くらいなら入れそうな厳重なコンテナ内中央に、厳重にワイヤーで固定された大型金庫のような外観のケースの前に、部外者である-Q-が佇んでいた。

次元、空間を操るQならば、この程度はセキュリティーにはならない。

Qはケースをスキャンし、その中にある装置を確認しようとしていると、

「あ〜あ、とうとう見つかっちゃった」

先ほどのノーマンも、きっとこんな感じだったのだろう、突如背後から予想外の相手に声をかけられるのは、あまりいい気はしない。

誰もいなかったハズ、とは思いつつも、今さら驚く事もないだろう、Qは平静に、

「それは文法的におかしくはないか? 見つかってしまったのはコチラのハズだがな?」

言ってゆっくり振り返る。

そこにはQが唯一恐れる天敵の姿があった。

「少尉、で、いいか?」

「イヤ〜ん、ダ・イ・ア・ナって、呼んでぇ〜♡」

「…………………少尉」

「ぶぅーっ!!」

相手の反応に膨れっ面なダイアナは、一拍おいて、

「まあいいわ。 それより艦長から聞いたわよ。 私に睨まれて妙な感じになったって………………、それはね、私に恋……………」

「いや、それは絶対ない」

「泣くぞっ、マジで泣くぞぉっ!!」

(コレをいつも相手にしているのか? 同情するぞ、ノーマン)

「ふん、いいもんいいもん、フラれ慣れてるから、玉砕日常茶飯事だから」

フラれる原因を自覚しているのだろうか、ダイアナは明後日の方を、なぜか全てを悟ったような穏やかな表情で、

「ああ、もうオスなら誰でもいいわ。 いっそカブト虫とでも付き合おうかしら?」

「さすがにソレは、人として情けなくはないか? それより、さっきの話だ。 見つかってしまったのは、コッチなのだが?」

「ん、ああ、見つかってしまったのは私の方。 ほら」

言った彼女の手には菓子パンがあった。

「ここで隠れて食べるのがマイブームだったのに、ついに見つかってしまったわ。 君がみんなに内緒にしてくれないと、また別の隠れ場所を探さないといけないもの」

この状況で、あまりにふざけた彼女の態度が訝しく思えた。

(……………どこまで本気なんだ?)

「あっ!!」

「?」

「ジャムパンと思ってたのに、よく見たらクリームパンじゃん!!」

(…………………………侵入者を前にして、何故そこまで?)

いったい何を考えているのだ?

それとも本当にふざけているだけなのか?

彼女に対して妙な警戒心はあるものの、こうしていても進展はないと判断したQは、試しに自身に装備された武器である背中の触手を伸ばし、彼女の方に振り下ろしてみた。

普通ならこの一撃で、人間どころかこの輸送艦を両断できる破壊力がある。

しかし、それはダイアナには届かなかった。

正しくは彼女の眼前で止まった、といったほうが正しい。

Qが見つめるその先、触手の向こうでコチラを黙って見据えるダイアナの眼に、彼女の覇気に気圧されてしまったかのように。

(何故……………? 私は機械だ。 恐怖を感じる訳がない。 なのに何故、自己防衛のために攻撃をフリーズさせた?)

しばしの沈黙。

静かなそのわずかな間を、Qは封印されていた数千年ほどの長さに感じた。

いや、その数千年の方がまだ楽だったかもしれない。

真っ直ぐこちらを見つめるダイアナの眼光は、人のモノとは思えなかった。

下手に動けばこっちが瞬殺される、Qの電子頭脳は機械ではありえない、予感のようなモノを感じとっていた。

そのまま触手越しに見つめ合う事しばし、

「………………………」

「………………………」

沈黙を最初に破ったのはダイアナの方だった。

「ぷっ、あはははははっ! 負け負け私の負けぇっ!!」

「?」

「ずるいよぉ、君、ロボだからポーカーフェイスなんだもん(笑)」

(これは、俗に言うにらめっことかいう遊戯の一種? いや………………)

Qは緊張が解けたかのように、片膝をついた。

正しくは自己防衛のフリーズが解除されて体制が崩れただけだが、

(遊んでいるわけではない、その証拠に………………)

ダイアナは目の前に迫っていたQの触手を、手の甲で払いのけた。

(超次元変換システムは稼働している。 触っただけで彼女の手は裂けていたハズだ。 にも関わらず無傷だと?)

Qの困惑を気にする様子もなく、ダイアナは平然と、

「ねぇ、私がここにいた事は内緒にしといて。 君がここに侵入した事は内緒にしておくからさ♡」

「…………………ああ、そうだな。 そうしよう」

何故こうなったのかは分からない。

だが、もうそんな事はどうでもよかった。

こんな得体の知れない相手とは、もう関わらないようにすればいいだけだ。

どうせこの世界では、最後にもう一つを済ませれば、すぐに別次元へ旅立つ予定なのだから。

一方、Qの返事に満足したダイアナは、菓子パンを口の中に押し込んで、

「ところでさ、まさかとは思うけど、ここにあるその軍の積荷を盗む気だったワケじゃないんでしょ?」

と、確認するように聞いた。

「まあ、今回はただの好奇心で来ただけだ。 スキャンさえすれば、完璧ではないまでも、だいたいの機械はコピーできるからな」

言ってQは腰に装備された、小さなカプセル状のアイテムを指差した。

「だが………………」

「?」

「その必要はないようだ」

「ほほう」

「これはすでに持っている」

「……………?」

「それよりいいのか? 今、この艦は攻撃を受けているハズだが」

「その心配はないよ。 だってこの艦には戦神がいるからね。 私の出番はその後かな」

ダイアナは微笑を見せて言った。

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