第7話 クソゲーRPG的展開!
『来たことがある?』
『う、うん…………………、いつかは思い出せないけど………………』
『生前にこの世界に転移したことがあるとか?』
『そんなハズないんだけど? そ、それに記憶の情景は、何だか荒っぽい映像を見てたような感じで頭の中に残ってる………………』
『デジャビュではないのか?』
『デジャ…………? ええ〜と、ど、ど〜だろ? もう少しで思い出せそうなんだけど???』
『まあ待て。 戦闘が始まった』
ヴォルの言葉に、視線を下方に落とす。
眼下で一番目立つ存在のドラゴンが、すぐ目の前にいて噛み付けそうな位置にいるのに、アマンダ達を警戒するように威嚇の咆哮をあげた。
だが、すぐにドラゴンはつんのめって体制を崩し、床に倒れてしまった。
何事かとドラゴンは自分の足元を見ると、後脚が凍りついて床に固定されてしまっている。
慌てて前方の侵入者を見れば、いつの間にかエルフの娘一人だけになっていた。 彼女は左手に魔法の杖と思しき短い棒を持ち、それに右手の掌を添えてこちらに突き出していた。 その手と杖は何やら淡い光を帯びている。 何がしらの氷結系魔法を使ったようだった。
『なかなか手慣れているようだ。 今まで何度か、こういった実戦経験があったのだろう』
『他の三人は?』
いつの間にか広間の両サイドに、ちょうどドラゴンを挟むように移動していたアマンダとシュマイザーに目を向けた。 すでにアマンダは弓を構え矢をつがえている。 普通に考えれば、この体躯の敵にはあまりに非力な武器ではあるが、
「ふんっ!!」
射るのに何の迷いも見せず、アマンダが放った矢は信じられないほどの精度でドラゴンの片目を貫いた。 なかなかどうして、腕前はホンモノのようだ。
直後、ドラゴンは悲鳴を上げる暇もなく、いつの間にか部屋の壁を蹴って跳躍していたダイヤモンドバックが、
その刹那に駆ける脚力に乗せ、大剣を一閃させる。
一瞬な間を置き、ドラゴンの腹に真横に薙がれた傷から鮮血が飛び散った。
すると、
『ありえんっ!!』
何だか怒気のこもった声でヴォルが叫んだ。
『ええ〜と、今更非科学的とか非論理的とか言っても無意味な気が?』
『そこじゃあない』
『?』
『あんな
『ああ、そこね………………………』
さすがは侍の世界の住人、刀剣関係の話題は無視できない性格のようだ。
『やっぱ聖剣とか何とかってヤツの不思議なところってコトで…………』
『あれが聖剣なものか! あの剣からは気迫も何も感じられん。 ただの鉄板を焼いて叩いて削っただけの鉄の塊だ(怒)』
『そ、そーいうものですか…………………(汗)』
そう答えるものの、アイにとっても分からない話ではなかった。
彼女自身、死ぬ前に骨董品店のショーウィンドウ越しに見た備州祐定に、確かに魂のような何かを感じていた。 それこそがヴォルの言うところの気迫というものなのかもしれない。
ともかく、あまりにあっさり倒されたドラゴンを横目に、アマンダ達は奥に進んだ。 広間をぬけた先に、次の部屋に続く扉がある。 その先にはきっと、もっと手強い敵が待っているハズなのだ。
『何だかホントにRPGみたいになってきた』
不謹慎にもワクワク気分のアイに対し、ノーマンは別のコトが気になっていた。 たった今退治したドラゴンの様子を注視している。
死んで動かないハズの相手に、違和感を持って見ていると、
『っ?』
倒れ伏した巨体が、突如淡い光を帯びたかと思うと、一気に収縮しはじめ、すぐに姿が消えて無くなってしまった。
いや、よく見るとその後に、何やら小さな塊が落ちている。
『小石???』
そこに落ちていたのは、掌に乗るほどの黒い石ころであった。
この世界では死後、石になってしまう者がいるとアマンダも言っていた。
石になるとは石像になるということではなく、本当にただの石になってしまうということだったのだろうか?
『アマンダ、あのドラゴンの成れの果ての石を取って見てくれないか? 霊体の今の私では、触って観察することができない』
ノーマンは先に行くアマンダにそう言うが、ちょうど扉を開けて次の部屋に入るところだった彼女は、緊張に顔を強張らせていた。
「すまない………………それどころではなくなった」
そこは今までいた広間と同じくらいの広さの部屋となっていた。
ただ、他の部屋に通じるであろう扉は何故か見当たらず、窓もない。
全てが堅牢な石で出来た壁になっており、まるで巨大な牢獄のようである。
アイ達もそちらの部屋に入ると、さっきの部屋と同じように踊り場のような中二階が、部屋を取り囲むように通路のようになっていた場所があったので、そこに一旦退避して室内を見渡した。
(あれ?)
アイが何かに気づいて表情を強張らせた。
強張らせつつ、もう一度室内を見渡してみる。
やはりそこには複数の敵の姿があった。
一同を待ち受けていた敵のその数18体、いずれも人には見えない。
ある者は身の丈5mほどの巨躯に、小さな頭部には正気の感じられない濁った一つ目の巨人、サイクロプスとかいったか、その怪物を中心にオークだのゴブリンだの、オタクのアイ以外には見分けのつかないモンスターの中で、ヴォル達にも他と見た目の違うモンスターが5体。
(あれれぇぇぇっ?)
人よりも少し体躯が大きく、全身が緑色の鱗に覆われた筋肉質な二足歩行形態に爬虫類の頭部の、いわゆるリザードマンである。
その中の一匹が一歩前に出てきて、剣をこちらに向けて敵意を示した。
(いやいや、ま、待って待って…………も、もしかして???)
そしてそのリザードマンを見たアマンダは、ドラゴンを前にしたとき以上に表情を強張らせた。
「ザ、ザウアー?」
「何?」
「ま、間違いない、ザウアーだ」
「何を言ってるの? そんなワケないじゃないっ!!」
戸惑いを見せつつラハティが声を上げる。
彼女もまた、アマンダと同じく死んだモーゼルに師事した仲だ。
同じパーティーで数年間、行動を共にしている。 しかし………………、
「違うわ、全然別人じゃないっ!!」
ラハティには同一人物には見えなかった。
シュマイザーとダイヤモンドバックも同じなのだろう、お互いの顔を見合わせ小首を傾げている。
「見間違いだっ。 ザウアーは死んだんだぞ」
「私が仲間を、恩師を見間違うものかっ! 仲間の顔を忘れたのかっ?」
声を荒げるアマンダと、何とか彼女を落ち着かせようとする3人の様子を見ているノーマン達ではあるが、4人にもアマンダがザウアーだと主張するリザードマンと、他のリザードマンの違いが分からない。
『トカゲの顔なんて、みんな同じに見えるが、他の4匹とどこが違う?』
『同じ犬種でも、ペットだと見分けできるのと同じじゃないですか?』
などと言っている横で、ふとアイの表情をうかがうと、何やら脂汗を流している。
『どうしました? いまさら敵の異形の姿に驚いてるんですか?』
『そ、そうだ。 今までの流れも、さっきとこの部屋の様子、出てきた敵キャラ、どれも見覚えあると思った…………………………やっぱりここって………………信じられないけどここは………………あっ!』
今までハッキリしなかった、この世界のアイの記憶が蘇り、そのことを話そうとしたが、我を忘れたアマンダが、目の前のザウアーだと思われたリザードマンに駆け寄ろうと走り出した。
それを目で追うアイは、アマンダの足元に注視していた。
この広間のタイル模様のように石板が貼られた石畳の床。 その石板を数と位置を確認すると、
『ダメッ、そこを踏んじゃっ!!』
叫ぶが一瞬遅く、いや、今のアマンダにはアイの声は聞こえなかっただろう、必死の形相で走るアマンダが、アイが言った石板を踏むと同時、その床の石板が赤く輝き、そこを中心に魔法陣のような模様が現れた。
「っ?!」
刹那、アマンダは魔法陣の光に包まれるや、その姿は消失してしまった。
「ア、アマンダ!!」
「何があった?」
予想外の事に驚きの声を上げるラハティ達。
それはノーマン達も同じで、
『どうなってる? 何が起きた?』
『転送装置?』
『何だか魔法陣みたいの見えましたけど、もしかして転移魔法とかいうのじゃないですか?』
それぞれ何事かと困惑していた。
色々とメンドくさい女ではあったが、一緒にヴォルの世界に行った仲だ。
4人とも放ってはおけない顔をしている。
『私、行ってくる』
アイが今までと別人のような、真面目顔で言った。
『行ってくるって、魔法陣にしても転送装置にしても、この世界で人としての質量がないと、多分発動しないと思いますけど?』
『あんなの使わない。 アマンダさんが飛ばされた場所、分かってる』
言うやアイは、一切の迷いさえ見せず、今いた踊り場からプールにでも飛び込むように頭から飛び降りた。 地面に激突する恐怖はあったものの、もうこの世界の全てを理解した……………かもしれないアイはこのまま目的の場所に行けるという確信があった。
何より、霊体である自分には移動に物理的影響はない。
それはヴォルの世界で彼が乗船している空母の中で、壁を普通に通り抜けられた経験から分かっていた。 今までは、もしものコトが気になってなかなか壁抜けとか挑戦する気にはなれなかったが、今はもうそれどころではなかった。
(私の考えが正しいのなら、この先にアマンダさんと、彼女がいるハズ)
その思いで飛び降りたアイの霊体は、地面に激突せずに地下へと吸い込まれるように消えていった。
『な、何だか別人みたいでしたね?』
『覚悟のようなものを感じたが?』
彼女の変化に戸惑うレベッカとヴォルを横目に、
『では、私も別行動させてもらおう。 ちょっと確認しておきたい事があるのでね』
ノーマンはそう言って、アイとは逆に上方に向かって飛び上がり、アイと同じように天井を通り抜けて行った。
※※※※※※※※※※※※※※
「痛ぅ〜…………………、ど、どこだ、ここ?」
謎の魔法陣に包まれたアマンダは、気がつけば真っ暗な部屋に転移されてしまっていた。 転送早々、派手に転んで石造りのゴツゴツした床に派手に顔面から激突した彼女は鼻血をダラダラ流しながら、視界の効かない暗闇を目を細めて見渡した。 おかげでさっきまでより多少は落ち着けたが、恩師が敵になっていたコトや、仲間がそれに気付いていないコトもあって、多少は焦っている。
とにかく今は、何とかこの暗闇の中から脱出しなければ!
「さて、これからどうやって元の場所に………………………」
『見〜つ〜け〜たぁぁぁ〜』
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
前も後ろも見えない暗闇の中で、突如背後から声をかけられ、アマンダはらしくもない悲鳴をあげた。
振り返ってそこを見ると、暗闇なのにアイの半透明な霊体だけぼんやりと見えた。 懐中電灯で顔を下から照らしていないだけマシかもしれない。
『そんなに驚かなくてもいいじゃないですかぁ。 お化けじゃあるまいし』
不服そうに頬を膨らませ言うアイは、霊体なのに幽霊にはとても見えない。
「いや、おまえマジもんの幽霊だから。 マジもんのお化けだから」
『シクシク………………………(泣)』
「ってか、ここはいったい?」
『地下5階ですよ。 さっきまでいた広場の地下ダンジョンの最下層です』
「何でそんな場所……………い、いや、何でそんなことを知ってるんだ?」
『ちょっと信じられないコトなので、とりあえず皆んなの所に戻ってから話します。 その前にあそこ………………………』
言ってアイは、暗い室内の一角を指差した。
アーチャーであり、ヴォルの世界でも目はいいと言っていたアマンダではあるが、光の差さない地下ではよく見えないものの、少し慣れてきたのか薄っすらと部屋の中の様子が分かってきた。
さっきの広間よりはかなり狭く、四方は床も壁も岩を積み上げた石室のような構造になっている。 そしてアイが指差した方をさらに凝視してみると、何やら箱状のモノが3つ見えた。
『宝…………………箱???』
そこにはよくマンガやアニメで出てくるような、財宝が詰まった宝箱のようなものがあった。 しかし、
『と、見せかけてアレはミミックですから気をつけて下さい』
「ミミック?」
ミミックとは“モノマネ”という意味で、ゲームなどでは宝箱などに擬態したモンスターの事である。
こんな世界の住人であるアマンダでも、目にするのは初めてだった。
『近づいたら噛みつかれますよ』
「全部そうか?」
『いえ、3つうち、真ん中と左のヤツだけです。 右のはホントの箱です。 お宝は入ってませんけど』
「よく分かるな? 幽霊だと分かるのか?」
『いえ、私はここで5回死にましたから(涙目)』
「おまえ今まで何回死んだぁ?」
『た、ただのゲームオーバーですよぉ』
「?????、ま、まあいい。 とにかく早く上に戻らないと」
『ダメです。 まずは宝箱を開けないと』
「何でぇぇぇ??? お宝入ってないんだろ???」
『左端の箱にはランタンが入ってます。 ここを攻略するには必要なアイテムですよ!』
「そ、そうなのか? じゃあ、他の箱は無視して…………………」
『それもダメです。 ミミックを両方退治したら箱の鍵が出現します』
「し、出現?」
アイが何を言っているのか分からないアマンダは困惑していたが。アイにはもうここがどこなのかが確信できた。
ここはかつて、生前のアイがプレイしたことがある、ゲームの中であると。
ただ、それをプレイしたのは何年も前であったし、世間的にもあまり人気のない、いわゆる“クソゲー”であったため、記憶も曖昧だったため、すぐには思い出せなかったのである。
思い起こしてみれば、ドラゴンがいた広間の画も、真上から見たドット絵に毛の生えたような場面だったので、記憶の中では荒っぽい映像だったのであろう。
間違いない。 よくアニメやマンガで見るネタだ。 今度は私達はテレビゲームの中に入ってしまったのだと、アイは思った。
しかし、ただ単にそうでもないことを、すぐに知ることとなるのだが。
「で、どうするんだ? 今までミミックに遭遇したコトないからな、対処法が分からない」
『魔法による遠距離攻撃が普通。 私のときは剣しか使えなかったから、も〜何度も噛み付かれてHPがすぐにゼロになりましたけど』
このゲームをアイがプレイした時(当時8歳)、1階の広間にはすぐに行けたのだが、例の転送魔法でいきなり飛ばされてしまった。 経験値も低く、RPGでは定番の騎士を選んだため、ミミック相手に手こずったのである。
『幸い、アマンダさんには弓があるから楽勝でクリア出来ますよ』
「そ、そうか?」
言われるまま、弓をつがえるアマンダ。
暗い室内だが、目を凝らすと見えなくもない。
狙いを定め……………………、
「鍵は一つなんだろ? 何で両方?」
『いいからぁ、そういうものなんです』
「う〜ん???」
納得いかないが、今はそれを考えても仕方ない。
改めて狙いを定め、まずは真ん中のミミックを弓矢で射抜いた。
すると本当に宝箱にしか見えなかったソレは、蓋部分が大きくいて無数の牙を覗かせた。
「ほ、ホントだ」
弓矢を喰らったミミックは、しばらく悶絶した後、力尽きてしまった。
同じように残りのミミックも矢で射ると、あっさり退治に成功した。
「何か楽すぎない?」
『所詮はザコモンスターですから………………、ほら、鍵が出現しました』
言われてさっき退治したミミックを見ると、そのモンスターなのか箱なのか分からないような骸は消え失せ、小さな鍵が一つ落ちていた。
それを拾い上げ、もう一つの本当の箱を開けると、中にはアイが言った通りにランタンが入っていた。
アマンダがそのランタンを点火させると、小さな灯りにも関わらず、室内が明るく照らし出された。
「こんな小さなランタンに対して、室内明るすぎない? 別の照明があるんじゃないか?」
『いいんですぅ。 そういうものなんです』
「いやいやいや、不自然だろ? この明るさ、ランタンの明るさじゃないぞ?」
『細かいコト気にしないで下さい。 どーせゲームの世界なんですから』
「??????????……………、ま、まあいい。 それよりも早く上の階層に、皆んなの所に戻らないと」
(まあ、急いで戻っても、ゆっくり戻っても、何故か転送された直後の状態のままなのはお約束だから、心配する必要はないんだけど)
アイは思ったが、言うとまたややこしくなるので口をつぐんだ。
「上に戻るにはどうすればいい?」
『上に戻る転送魔法はありません。 アレはここに来るだけの一方通行の魔法陣ですから、上に戻るには、階段を登って行くしかありませんよ』
「面倒だなっ! で、その階段はどこにあるんだ?」
『上に行く前に、ここの奥の別の部屋に行かないといけません』
「何で?」
『奥に地下牢があります。 そこに囚われているんです』
「誰が?」
『妹さんです』
「っ!!」
アマンダの脳裏に、ライノの顔が過ぎった。
拐われたあの日の前夜の、目の痛みに耐えながらも見せた満面の笑顔を。
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