これが愛じゃないのならば、

虎渓理紗

第1話 これが愛じゃないのならば、

 私はね、最後まで貴方のこと好きになれなかったの。


 一緒にどこか行くのは楽しいし、話すのも楽しかった。けれど、たぶん貴方はそれだけを求めてるわけじゃない。


 その先を私はどうしても受け止められなかった。


 たぶん、好きだった。


 けれど、それは女友達に抱く『好き』と同じ。


 恋人として貴方のこと好きになれなかった。


 たぶん、前の彼氏もその前の人も、みんなみんな今度こそは『好き』になれるかもって思って付き合ってみるの。

 でも、どうしても好きになれなかった。

 貴方だけが例外というわけじゃなくて。


 私は、人を好きになることができないんだと思う。


 私はね、この『恋愛ごっこ』をしているような感じが、貴方に嘘をつき続けているようで、どうしても慣れなくて嘘で固められなくてどうしても苦しくて、どうしてもダメで。


 カミングアウトした、ただそれだけだった。


 貴方を傷つけようだなんて思ってなくて。


 好きじゃないのに『好き』と言う、それがどうしても辛くて。自分を偽っているようで。


 でもね、好きなんだと思う。


 恋愛対象としてではないんだけども。


 貴方のことが好き。


 どうにかこうにかしようと思ったんだけどね、どうしてもダメだったの。



 ◆◇◆◇◆



 大学一年の時に告白をして、付き合い始めた彼女からもらったラブレターにはこう書いてあった。


「……別れるってこと?」


 そう聞き返すと彼女は俯いた。


「三年、付き合ったんだよ?」


「……うん」


「なんで、俺のこと嫌いなの?」


「違うの」


「でも好きじゃないんでしょ」


「うん」


「じゃあ、っ!」


「違うの。貴方のこと、男の人として好きになれない……けど、友達としては好き。でも、これ貴方だけじゃなくて。今まで付き合ってきた人みんなそうなの。私はね、たぶん、恋愛というものがよくわからないの。貴方だけじゃなくって、男の人を好きになる気持ちが私には分からない。でも、貴方のこと好きなの。たぶんこれは恋愛として好きなわけじゃないけれど、でも、」


 グズグズと泣き始める彼女を見ながら、俺は今までなんのために付き合っていたのか分からなくなった。何か茫然と、募る何かを、

 ――俺は理解できなかった。


「ごめんね、ごめん」


 彼女はただ泣くばかり。


「好きになれなくてごめんなさい」 


「いいよ、うん」


「……うん」


 ただ、薄々気付いていたこともある。


 告白は自分からした。彼女はそれを受けたが、俺のことを好きで受けたというよりも、告白されたからなんとなく受けてみたに近いのだろう。


 手を繋ぐのもキスをするのも自分からした。


 彼女がそういう恋愛ごとを自分から求めて行ったことは一度たりともなかった。自分のことを本当に好きなんだろうかと疑問に思わない日はなく、だんだんとその不満が膨らんでいくのを感じていた。


 そんな中にもらったラブレター。


 あぁ、きっと、彼女も感じていたんだ。


 結局、自分を好きになることができなかった、ごめんなさいと謝る彼女はやっぱり綺麗なまま。


 自分が惨めに思えて仕方がなかった。


「私、貴方のことが好き。でも、LOVEじゃなくて、LIKEなの。それ以上になれないの」


 彼女が分かって欲しいと続ける言葉が、自分の首を絞めていくのを感じた。


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