龍を抱きし天子・今上帝青龍編

婭麟

一の巻

第1話

 此処中津國は、それは尊き青龍を抱きし天子様が在わす稀有なる国だ。

 大神様を始めとし八百万の神々様も存在する国で、鬼も魑魅魍魎ちみもうりょうあやかしものも、海神も河神かしんも存在する国だ。

 かつて古の天子様に、その平安なる治世をお慶びの大神様から、それは美しい瑞獣ずいじゅうをお遣わし頂き、お妃様として賜ったという、それは他国には有り得ない言い伝えが存在する国だ。

 そして現在青龍を抱きし今上帝様が御寵愛の女御様は、いにしえの伝説のお妃様の御子様の瑞獣鸞ずいじゅうらんであるという、それは摩訶不思議な国だ。

 そんな摩訶不思議な中津國の、今上帝様の寵妃様が皇子様を御誕生なされた。

 今上帝様の御喜びは、それはそれは大きく、寵妃様への御寵愛はまされるばかりである。


 今上帝様は側近中の側近で乳母子の伊織に、その御喜びを御表しになられる宣旨を下された。

 寵妃藤壺の女御様の、皇后冊立である。

 その宣旨は宮中の者ならば誰しもが、いつ下されても不思議では無いと思っていたもので、それ程迄に今上帝様の御寵愛は、ただただ藤壺の女御様だけに注がれていたからだ。

 後宮の数人の女御様方は、かつて藤壺の女御様がご懐妊のみぎりに、今上帝様より寵愛を頂き御子様をなした者達もいるので、此度も今上帝様のお召しを期待したが、もはや御心を御向けになられる事はなかった。

 また新たに美しく聡明な姫様方を、お目にお留めになられても、今上帝様の御心がそのもの達に向けられる事はなかった。

 もはやこの国の天子様の御心は、ただお一人の女御様だけに存在あると言っても過言ではない。

 そんな女御様であるから、皇后となられてもおかしくはない。

 ただ女御様の後見が余り高くは無い、陰陽寮の者であると云う事が、貴族達が反対する要因であったが、今上帝様がその様な事を御気にされない性質たちであられる事は、重々知っている貴族達でもある。

 意を唱える事などできようはずはない、だって今上帝様は青龍を抱きしそれは尊いお方なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る