第19話 銀髪美女と夫婦(仮)

「Stand Up please.」


 英語の授業というだけあって最初の号令は英語でやるというルールがある。


「礼!」

「「「お願いしまぁーす」」」


 そこまできて最後まで英語でやり通さないんかーい。

 こんなツッコミはさておき、学級委員長の田中の後に続いて他のクラスメイトも挨拶を先生二人に向ける。


「おはようございます。今日はチャーリーがメインでこの時間を進行してくれるので、皆さんはチャーリーに従って授業を受けてください。何か分からないことがあったら、遠慮なく私に聞いても構いません。じゃ、チャーリーよろしく」


 櫻井先生はそう言って、一番後ろの壁に寄りかかって授業を見物する。


「Good morning everyone! Today is sunny,very very good weather!!」


 チャーリーは美人で清楚な大人な女性のルックスにも関わらず、テンションが高く子供っぽい性格なのだ。

 だが、そんな一面が生徒から好かれる理由なのかもしれない。


「相変わらずチャーリー、テンション高いわね」


 紗雪がひそひそと蒼の耳元で囁く。


「あぁ、本当見た目とのギャップがすごいよな」


「何何ー?蒼君、まさかチャーリーにギャップ萌え〜?」


 紗雪が瞳の奥まで見透かすような紗雪スマイルで蒼を見つめる。


 蒼は全力で拒否した。


「んなわけないだろ。生徒が先生に恋心とか抱くはずがないだろ。不純恋愛だ」


 蒼は真面目な性格な為、ド正論をかました。


「ふぅ〜ん……には、そういった感情は抱かないのね。ふぅ〜ん」


「な、何だよ…?ふ、普通だろ、それくらい」


 紗雪がずっと同じ笑みを浮かべながら見つめてくる。


「蒼君、昨日のデートで私が髪の毛巻いてゆるふわ系のコーデで行ったら見惚れてたよね…ふふふ。あれはまさに私にギャップ萌えしてたんでしょ?」


 紗雪は耳元で、学校という場所にいるにも関わらず蒼に昨日のデートのことを問いかけてくる。


「お、おい!学校で、しかも授業中に昨日の話は辞めてくれよ。なんか、恥ずかしいから…」


 蒼は顔を真っ赤にして視線をソワソワさせている。

 そんな蒼を紗雪はずっとクスクス笑いながら見ている。


「白崎、中村、お前たち何笑っているんだ」


 後ろにいた櫻井先生から二人は注意を受けると、クラスの男子の目線が一瞬にして蒼に向けられる。


 イチャイチャしてた等と変な勘違いをされたら困ると思っていた矢先、紗雪が櫻井先生に言う。


「すみません、中村君が寝ながら寝言を言っていたのでつい笑ってしまいました」


 紗雪が咄嗟とっさに嘘の言い訳を作ってくれたが、嘘の言い訳で蒼は紗雪に売られた。


(おいおい、俺が寝ながら寝言って……完全に授業中に寝てた扱いになっちゃうじゃないか)


 蒼は紗雪に子犬のような眼差しを向けると、紗雪は舌を出して紗雪スマイルを浮かべながらごめんねと謝る。


 男子の視線は何やらほっとしたような感じになっていた。

 だが、蒼は想定通り櫻井先生に呼び出しをくらった。


「中村、ちょっと廊下に出なさい」


「は、はい……」


 とりあえず変な誤解をされることを一番に回避したかった為、例え蒼を巻き添いにした嘘の言い訳でもその場を助けてくれた紗雪に蒼は仕方なく感謝して廊下に出て行った。


 三分経過すると、蒼は戻ってきた。


 蒼は授業に真剣に臨んだ。


 「今日は隣の人同士で、もしも夫婦だったらという設定で英語でコミュニケーションを取ってもらおうと思う」


 櫻井先生がこの日のメインの内容を伝える。

 

 隣同士ということは、蒼と紗雪は夫婦という設定だ。

 蒼は隣を見ずとも、企みと眼差しと笑みを向けられていることを察している。


「さぁ、隣の人が奥さん、旦那さんだと思って会話を始めてください。もしかしたら将来、外国の方と結婚して暮らすという人もいるかもしれませんからねぇ」


 紗雪は始めましょうと蒼に言うと、蒼は溜息混ざりに分かったと返事をする。


「Aoi, Welcome back, would you like to have rice?Do you want to take a bath or me?(蒼、おかえりなさい、ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?)」


 紗雪は辞書でひとつずつ単語を調べながら、王道と言ってもいいセリフを完成させ蒼に問いかける。


「Rice.」


 蒼はご飯と言う。

 だが、紗雪はまた問い掛けてくる。


「Welcome back, would you like to have rice?Do you want to take a bath or me?」


「Rice.」


 蒼はまたご飯と言うと、紗雪は片方の頬を少し膨らませてあからさまに怒った表情を出していた為、蒼は紗雪が求めているだろうという答えを英語で答える。


「You,You,Sayuki…」


 紗雪はまるで魔法がかけられたかのように、一瞬で表情が戻り、つかさず紗雪スマイルを浮かべる。


「Me?OK,OK.Let's go to bed」


 紗雪の返答に思わず蒼はせた。

 帰ってきて、どれにする?と聞かれて仕方なく紗雪と答えたらいきなりベッドに行こうなんて、中々ぶっ飛んでる夫婦だ。


「ちょ、いきなりベッドに行こうなんて、こっちは仕事で疲れてるのにいきなりすぎないか?」


「あら?なんで仕事で疲れてるからベッドに行くの嫌なの?私はただベッドに行こうしか言ってないわよ?それに私は仕事で疲れてるだろうからベッドに横になってもらおうと思ってマッサージしてあげようと思ってたんだけど……蒼君…何考えたの?」


 小悪魔紗雪登場。

 蒼はハメられた。たしかに紗雪はベッドに行こうしか言っていなく、特に何かをするとは言っていなかった。ただ蒼が変な勘違いをして先走っていたのだ。


 まさか英語の授業でここまでからかわれるとは流石の蒼も予想外で不意をつかれた気分になった。


 紗雪は早く続きをやろうと言わんばかりの表情をしていたので続きをやると、案の定その後も色々とからかわれてばかりであった。


 そして英語の授業が終わり、その後の授業は何もからかわれずにすみ、久々の学校が終わった。


 久しぶりの学校は初っ端から紗雪にからかわれるという結果で終わった。


 そして放課後、蒼は紗雪に呼びれ屋上へと向かうと、そよ風に綺麗な髪をなびかせながら紗雪が待っていた。


 


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る