隣の席の白崎さんが俺にだけ「かまってちゃん」で可愛いすぎて困るのだが?

小村 イス

第1話 銀髪美女の転校生

「ねぇ蒼君、蒼君ってば」


「…………」


「あ・お・い・く・ん」

 

 声が聞こえた方を見ると、隣の席に座る白銀に美しく輝く艶を兼ねた長髪をした少女が机に顔を伏せてチラッと机と腕の隙間から透き通るような淡い青色ブルーの綺麗な瞳で蒼の方を覗き込んでいた。

――ん、誰だ?この人


 全くもって蒼の知人ではなかった。


「私としりとりしない?」


 彼女は小声でそう囁いた。全然知らない謎の美少女からの急な遊びのお誘いに蒼は動揺した。でもまぁしりとりくらいならいいやと思ったのでいいよと返事をした。


「じゃあ蒼君からっ」


「わ、分かった。しりとり」


 蒼が『しりとり』といった瞬間、美少女はいきなり伏せていた顔を上げいてこう言い放った。


「好きよ」


 この言葉を聞いた瞬間、蒼は今までにないくらい心臓が跳ね上がると同時に自分のベッドから跳ね上がった。起きた瞬間体中が火照っていて汗がじんわりと背中から広がっていた。さっきの夢が妙にリアルで不思議な感じがしていたが、夢は夢だと解釈して次の日は高校の始業式で久々の学校だったので蒼はまたすぐに寝てしまった。



 俺、中村蒼は今年の四月から二年生へと進級したごく普通の男子高校生だ。成績は平均より少し上、運動は苦手、外見は良くも悪くもないが、自分の性格上自ら人を避けてしまう傾向があるため友人と呼べる友人がいない。唯一いるとすれば小学生からの幼馴染である蒼汰くらいだろう。蒼汰だけは蒼にとって本音を話せる唯一の相手なので友人と呼べるだろう。始業式の朝もいつも通り一人で登校していると、後ろから賑やかな声がすごい勢いで迫ってきた。


「あぁぁおぉぉいぃぃぃぃ!!!」


 蒼汰だった。

 

 蒼はただでさえ人前で目立つのは苦手だというのに蒼汰のせいで目立ちたくなくても勝手に目立ってしまい始業式早々、羞恥心を感じてしまった。


 恥ずかしい思いをしただけであって別に怒ってはないのに、蒼汰は本当すまんと二十回近く謝ってきたので別に怒ってはないからそんな謝らなくていいよと告げたら、少し反省をしていた顔が一瞬でいつもの能天気で平和そうな顔に変わって本当に反省していたのかと疑いを持った。


 学校に着くと皆、久しぶりにあった友人達と楽しそうに会話を弾ませていた。


 蒼汰は、恐らく蒼汰に好意を抱いてると思われる美古都に呼ばれてそっちに行った。

 蒼はというと、当然いつも通り一人で校舎のベンチに腰を掛けて本を読んでいた。周囲からはひそひそと恐らく蒼のことだろうと思われる会話が聞こえてきた。


「また一人かよー、相変わらず地味な奴」

 

 地味で結構。


「本当、友達いないのかなぁ」


 いるぞ、唯一無二の蒼汰が。(さすがに悲しい考えだ…)

 俺は聞こえてきた話に対して心の中で答えていた。


「あれじゃ彼女も一生できないよねぇ~」


 彼女――できるできない以前に『彼女が欲しい』という欲望をまだ一度も抱いたことがない。


 人とコミュニケーションをとることが苦手で男子とも上手く会話をすることが出来ないのに、異性である女性と会話なんてまともに出来るはずがない。女性を可愛いなとか綺麗だなと思うことはあるけど、彼女が欲しいとは一度も思ったことがない。蒼はずっと一人の時間を本と共に過ごしてきた影響もあり、彼女を欲しいと思ったことがないのだ。蒼汰に好意を抱いているだろうこと美古都は赤茶けたなんとも綺麗な髪色のボブショートで、瞳はとても大きくルビー色をしている美人だ。蒼が見ても別嬪さんだと思う。蒼汰も平均より結構高いくらいの端整な顔立ちをしているから、美古都と蒼汰が成立すれば美男美女カップルが誕生するだろう。もし蒼汰が交際を始めたら蒼はまた一人で過ごす時間が増えるだろう。だが蒼にはやはり問題はない。


 そして始業式ということは、新学年の新しいクラスが発表される日だ。周りの皆も新しいクラスの書かれた紙が提示されている昇降口でわいわい叫んでいる。蒼のクラスはというと――二年三組と書かれていた。


 すると後ろから蒼汰が蒼に手を振りながら、美古都と共にこちらに向かってきた。


「蒼!クラス一緒だぞ。美古都も三組だ」

 

 蒼とクラスが同じということはだいぶ心強いが、美古都は話をしたことがないこともあり同じクラスだと聞いても何とも思わなかった。唯一思たことは、こいつら『付き合えよ』の五文字だった。

 

 まぁ何にせよ新クラスも平和で不満なく過ごせそうな人達で安堵した。


「なぁ、この人誰だよ?」


「『白崎紗雪』さんだって」


「うぉっ!転校生か!しかも女子」


 蒼は普段から同じ高校に通っている人達でさえほとんど知らないが、どうやら三組のクラス一覧表には蒼は勿論、蒼以外の皆も聞いたことがない『白崎 紗雪』という女子の名前が書いてあった。周囲の男子達はそわそわしていた。絶対名前からして可愛いよなどという何を根拠に言っているのか全然理解できないことを言っている人もいるが、あまり他人に興味を持たない蒼には可愛いとか可愛くないということは全く気にしていなかった。


「よし、んじゃ新クラスに行こうぜ蒼」


 蒼汰の後ろをついていく美古都の後に続いて蒼も三組の教室へと向かった。


 教室に着くと、先に着いていた人達が新しいクラスメイト達と会話を弾ませていた。

 そして、やはり転校生の『白崎紗雪』の話が三組の教室中で広がっている。皆が盛り上がってる中、蒼は出席番号順に並べてある自分の机に座りまた本を手に取って読み始めた。


 ――ガラガラガラ

 

 教室の扉が開くと同時に、蒼たち三組の新担任だろうと思われる若い女の先生が入ってきた。


「今日から一年間、君達の担任の加藤です。皆さんにご迷惑をおかけするかもしれませんが、お互いに協力し合いながら楽しく過ごせたらいいなと思います。よろしくお願いします」


 話を聞いた感じだと、若さと話の内容的に恐らく新人の先生だろうと蒼は思った。蒼の思った通り、加藤先生は今年からこの桜花高校に任された二十三歳の新人の先生だった。


「そして、私と同じく今日からこの学校で過ごすことになる転校生がいます」


 この言葉を聞いた瞬間、また一層にクラスのざわつきが大きくなって皆(特に男子諸君)ソワソワしていた。


「なぁなぁ、一体どんな子なんだろうな、白崎さんて。可愛いのかな?もしかしてまさかの女かと思っていたら男だったりして」


 蒼の前の席に座る蒼汰が体ごと後ろに向けて満面の笑みを浮かべながら話しかけてきたので、知るかよと蒼は軽く流した。


「さぁ、白崎さんどうぞ」


 加藤先生が呼ぶと同時に扉が開いた。

――ガラガラガラ。


 一目見ただけで分かる綺麗な人が三組の教室に足を踏み入れてきた。毛先まで白銀の様に輝く美しい艶をした長い髪、綺麗な淡い青色の瞳に長く綺麗な黒い睫毛、美しい女性の身体を感じさせる様なボディライン、出るところはしっかりと出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいる。

 そんな端整な容姿にクラスの男子諸君は釘付けになっていた。


 珍しく蒼も釘付けとまではいかないが、流石の美貌に少しだけ見惚れてしまっていた。


「すっげー美人だな、白崎さん。あれ?もしかして蒼一目惚れしちゃったのか?」

 

 薄笑いを浮かべてからかってくる蒼汰に多少の腹立たしさを感じながら、んな訳ないだろと答えた。

 

 クラスの女子の中にはいかにも嫉妬してますと言わんばかりの顔つきをしている人が何人か見かけられる。嫉妬するのだからすごい美人だというのは誰もが認めているということなのであろう。


「初めまして。今年から桜花高校に転校してきました、白崎紗雪です。皆さんとお会いするのに緊張していたんですけど、皆さんが優しく温かく迎え入れて下さったのでとても安心したし嬉しかったです。これからよろしくお願いします」


 紗雪は挨拶が終わった直後、優しく包み込む様な可愛らしい笑みを浮かべてクラス中の男子を虜にした。蒼少しドキッとして美人だなとは思ったが、虜にはなっていなかった。


 すると蒼は突然、何やら胸に変なざわつきを少し覚えた。なんだこれと蒼は思い、昨日見た夢の一部を思い出した――あれ?銀色の髪、青い瞳…。


 蒼は昨日夢の中で見た少女と紗雪が一致したことに少し驚いたが、まさかなと思った蒼はたまたまだと解釈して、黒板の前でクラスメイト達の質疑応答に答えている紗雪をジーっと見続けていた。

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