第6話 呪術師

 俺のレベルが30を越えた。

 これで熟練級だ。

 なにしろ、人参、きゅうり、ナスの漬物も作りまくったからな。

 もちろん肥料もだ。

 やっと、念願の合成アンデッドが作れるようになった。


 大根と唐辛子を用意して、後は塩を用意。

 はじめるぞ。


「大根と唐辛子よ、塩の鎧をまとって美味そうなゾンビになれ。【メイクアンデッド】」


 俺は大根ゾンビにかじりついた。


「うま、うま。言葉にならない美味さだな。唐辛子が均一に染みこむのが良い味出している」


 酒の改良も一気に進むな。

 次の目標は死体ではないアンデッドだな。

 古い武具からリビングアーマーやフライングソードなど作る技能だ。

 この技能を覚えるとスケルトンも強化される。

 ただの金属が動くのだから、骨の動きも良くなろうというものだ。


 扉が乱暴に叩かれた。

 やばい、聖騎士に感づかれたか。

 ドアの扉の繰り抜かれた節穴からそっと外を見る。

 外には十代後半ぐらいの女の子が立っていた。

 体中傷だらけだ。


 俺は慌ててドアを開けると、女の子を迎え入れた。

 傷は魔獣のものではないな。

 刃物で切られた傷だ。

 おっと、観察している場合じゃない。


「これを食え。薬だ」


 俺はマンドラゴラ漬けを差し出した。

 女の子は受け取ってから嫌そうに眺めていたが、勇気を出したのだろう。

 目をつぶって、かぶりついた。


「暖かい。陽だまりにいるよう」


 傷の方は粗方あらかた治っていた。

 後何回かマンドラゴラ漬けを食えば、治るだろう。


「俺は世捨て人でな。傷が治ったら出て行ってもらいたい」

「あの、おおかみ魔獣のせい」


 不味いおおかみ魔獣を見られた。

 狩に行かない時は部屋の隅に置いといたからな。


「見られちまったら仕方ない。おれは禁忌持ちだ」

「そうなの私もよ。ジュサよ。さあ、服を脱いで」

「いきなり、なんだ。ちょやめろよ」


 俺はいきなりツナギを脱がされて、ジュサは俺の服をひったくるように奪うと呪文を唱え始めた。


「かの物に触れた者の生命力を奪え。【カース】。ああ、幸せ」


 ジュサは恍惚としている。


「何喜んでいるんだよ。俺はサクタロウだ。村ではサクタを名乗っている」

「じゃあ村で本名が出ると困るから、サクタと呼ぶわ」


「好きにしろ。ジュサは呪術師なんだな」

「ええ、呪術師よ」

「さっきの事説明しろよな」


「みた感じ。裕福そうだけど、仕事は何を」

「死体術士で漬物屋だ」

「漬物屋ぁ。それはまた意外な物を。私はお針子よ」


 まだ、分からないが犯罪者って訳ではないようだ。


「服に呪いを掛けたのは服を憎んでいる。そうだな」

「いえ逆よ」

「逆ぅ」

「服を愛しているのよ」

「そりゃ、呪いを掛ければ誰も着られないわな」

「服着て良いわよ」

「呪いさっき掛けたのを忘れたのか」

「へへーん。私が使ったレベルだと一日にちょっと歩いたぐらいの生命力しか吸い取れないわ」

「それになんの意味があるんだ」

「虫が死ぬの。服につく虫って、どこからともなくやってくるから」

「防虫の効果か」

「そうよ」

「そうか、ありがとよ」


 何か釈然しゃくぜんとしないままツナギを着た。


「それより、その服。変わったデザインで格が高いわ。レベルアップしたみたい」


 異世界産は格が高いのか初めて知った。


「今レベルは幾つだ」

「15よ」

「高いのだな。人間を呪ったのか」

「いいえ、大半は服を呪ったわ」

「さっきの奴ね」

「私は腕がいいから、高級品を任されていたわ。高級品って格が高いのよ」


「なんでこんな所まで逃げてきたんだ」

「友達が男に騙されそうになって、男に呪いを掛けたのよ。そうしたら、聖騎士にばれちゃって」

「その聖騎士は」

「逃げたのだけど、追いつかれてしまったの。この森で足が遅くなる呪いを掛けたわ。今頃この森にいる魔獣の腹の中ね」


 後で聖騎士の痕跡を消さないとな。


「その聖騎士に仲間はいなかったのか」

「ばれた時に何を話しても誰も信じない呪いを掛けたわ」

「呪いを解除するには君に解かせるか、君を殺さないといけない訳か」

「知っていると思うけど、呪いは一人に一種類しか掛からない。始末するにはこの森に誘い込むしかなかったのよ」

「殺すような呪いは掛けられないんだな」

「ええ、そこまで強力な物を使うにはレベルをもっと上げないと」

「俺は聖騎士がどうなったか見てくる。じっとしていろよ」


 俺はそう言っておおかみ魔獣のゾンビとスケルトンナイトをつれて家を出た。

 おおかみ魔獣がジュサの匂いを辿ると簡単に聖騎士の亡骸なきがらに辿り着いた。

 この特徴的な白銀の鎧をなんとかしないとな。

 穴を掘って埋めても失せ物探しの技能を持った職業持ちには簡単に見つけられてしまう。

 ジュサに見つからなくなる呪いを掛けてもらうのが一番良いだろう。

 苦労して遺体から鎧を剥いだ。

 留め金が変形して外れなくなっているわ、鎧はへこんで体に食い込んでいるわで大変だった。


 スケルトンナイトに鎧を持たせて、帰路につく。

 死体はグズグズにして肥料状態にした。

 これなら、失せ物探しも反応しないだろう。


 厄介事やっかいごとを背負い込んでしまったな。

 仲間は欲しいと思ったが、少し早すぎる。


 扉をノックして一声掛け中に入る。

 ジュサは一つしかない俺の椅子に座っていた。


「帰ったぞ。お疲れのところ悪いが、この鎧に失せ物探しに見つからないよう呪いをかけてくれ」

「いいわよ。かの物は無視される。【カース】。あー、つまらぬ物を呪ってしまったわ」


 俺の鎧への認識がおかしくなった。

 あると意識すればあるんだが、目を離すと無い感じだ。

 呪いも万能では無いって事か。

 俺は鎧があると知っているから、見つけられるって事だろう。


「ところで鑑定士はどうやって誤魔化した」

「もちろん最初の時は逃げたわよ。その後は自分自身に呪いを掛けて鑑定が間違うようにしたわ」

「便利だな」

「そうでもないわ。基本的に呪いは悪い方向にしか向かない。鑑定を間違うのだって、私の事を全て誤解するって呪ったの」

「それは大変だな。常時かけているとあらぬ疑いを持たれかねない」

「そうよ。鑑定が終わった後に鑑定士には極悪人として告発されたわ。もちろん、その時には呪いを解いたから。逮捕しにやってきた人間は首をかしげていたけど」

「さっきの無視される呪いもか。潜伏に便利そうだが」

「お腹が痛くなるのよ。そっから先は言わせないで」


 ああ、細菌にも無視されるのだな。

 確か腸内には細菌が活動している。

 そんな副作用がな。


「ジュサは偽名だな」

「そうよ、本名は秘密」

「今日、俺は村に泊まるから、ジュサはゆっくりしてくれ。ここにある食べ物は何でも食っていいぞ。じゃあな」


 俺はスケルトンナイトを連れて村に向った。

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