第24話 「第二王子暗殺計画」

 主の命令で自分を殺しに来た暗殺者が、自分の主を殺してほしいと頼んできたっ!


「待ってくれ、話が見えない……。なんでトランスヴァルの暗殺者が、その主人の首を狙っているんだ?」


リンダと名乗った暗殺者はその、暗器たる鉄糸をこちらに放り投げて、敵意のないことを示した。

しかし、目の前のリルトはいまだ臨戦態勢だ。

あまりにも突飛な話だし、そうやって油断を狙っている可能性も捨てきれないから、警戒するに越したことはない。


「私の家族はみんなアイツに殺されたんです……。私の両親を、次に私の大事な兄を、奪っていったんです……」


「なるほど、動機は分かった。だがトランスヴァルの直属の暗殺者なら殺す機会はいくらでもあったはずだ。俺に頼るまでもないんじゃないか?」


「彼のスキル<フェンサー>は空間を自在に操る能力です。それによって常に自分の周囲に不可視の壁を作っているのです。彼に向けられた弾丸は別の空間にワープするでしょう。剣を向けた者は腕を断ち切られるでしょう。そういう絶対防御を身にまとっているのです」


 そういえば、エリカが腕を斬られたときも……!

そこでエリカが腕を斬られたときのことを思い出して、胸が痛くなった。

 10年来の付き合いの従者のことを忘れたことはない。


 だけどあいつはもう……、おそらくこの世にいない……。

 だから、なるべくあいつのことを意識しないようにしてきたのに……。

 こうして最期を思い出すだけで、辛くなってしまう。


多分俺は暗い顔をしていたのだろう。

 リンダは話を続けてもいいのか、迷っているようだ。

 俺は続けてくれ、と促す。


「彼には隙がありません。何のスキルも持たない私には殺せないのです。ですが、アレク様なら……! <ネクロマンサー>のアレク様なら、あの男を殺せるかもしれないんです!」


そこまで過信されるとはな……。

トランスヴァルの能力を破る方法は思い浮かばないまでも、勝ち筋は立てることはできる。

だが――


「だけど気になるな。それを俺が引き受けるメリットはなんだ? たしかに俺も君もトランスヴァルを殺したいほど憎んでいる――そういう共通点はある。けどこれが罠であるってリスクまで見落として、飛びつくほど間抜けじゃない」


「あなたはこれを絶対に受けなければならないでしょう。なぜなら今あなたが存命なのを知っているのはトランスヴァルただ一人。彼のところで情報は留まっていますが、もしあなたが本格的に動き出したら、彼は王に伝えるでしょう。今この静かな時に彼を始末しておけば、あなたが生きていると知る者はいなくなる」


「そうか……。で、罠でないという証拠は?」

「それは……、そうですね。それを証明する材料が手元にないですので……、私の彼に対する憎しみを理解してもらうしかありませんね」


そう困ったように首をかしげるリンダ。

そしてある名前を口にしたのだ。


「ムンシュヘン……。この名前に聞き覚えありませんか、マショナ公爵様?」


ムンシュヘン……。

そういえば、彼女が最初にそう名乗ったとき、どこか懐かしい気がした。

それになんで今、俺のことをマショナ公爵と呼んだんだ……?

俺がかつてあそこの領主を務めていた頃の…………!


――そうだ!

 あの頃、隣の領地で一つの事件があった……!


 無実の少年が絞首刑に処された事件――その少年の苗字がムンシュヘンだ!

 トランスヴァルの治めるナマクアで起こったあの事件に、俺は無実を訴える懇願書を書いたのを覚えている。

 そして少年には養う妹がいた。

 すべての線がつながった。


「思い出したよ、君は彼の妹だったんだね」

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