第9話 「そうだ、領主になろう!」

 村に戻った俺たちは村人から拍手喝采で迎えられた。


 俺がもう村が洪水に合わなくて済むこと、川の神様の正体が伝説の生き物リヴァイアサンだったことなどを説明したら仰天し、次いで狂喜のあまりお祭り騒ぎとなった。

 領主の屋敷から取り出した肉や酒で(村でかつてないほど大きな)宴が開かれた。

 あちこちから料理と酒を振る舞われて、まるで王様のような気分だった。


 リアも美味しそうに肉を頬張りながら――


「おいひいれす」


 料理を食べ終わった後も幸せそうに――


「こんなにたくさんの料理を食べたのは生まれてはじめてです」


 こう、子供がよく食べ、すくすく成長していく姿を可愛いと思うの、親心なのかなぁ。



 夜も耽っていき、みんな宴を堪能した頃。


「た、大変だー!」  


 ん?

 なんだ?


「どうしたんだ?」

「そ、それが、領主の屋敷の蔵に溜め込んである食料を全部使い切っちまった! おまけに先日の洪水で外をつなぐ唯一の橋が壊れてて、街にも行けねぇし、行商も来れねぇ!」

「えぇ……」


 なんかものすごい量の食い物が出てくるなぁと思ったら……。

 今まで悪徳領主が溜め込んでいた食い物を景気よくぜんぶっぱとか計画性0かよ……。

 宵越しの金は持たない主義なのか? 


 いや――。

 彼らを責めるのはお門違いだろう。

 彼らは作物を育てた経験はあれど、自分たちの土地を統治した経験はない。


「でも村にはまだ食料があるんだろ? 最悪、穀物が備蓄してあれば飢えは凌げる」

「いや、それが……。穀物貯蔵庫も泥水で水浸しになってて‥‥、ありゃ全滅だ……」

「最悪だ……」


 そんな状況で宴開くとかマジか、こいつら……。

 やはり彼らには領地経営の知識を持った統治者が必要だ。

 そしてこの村の中で領主に適している人間は一人しかいない……。


「そうだ、領主になろう!」


 全会一致で俺が新領主と認められた。

 いやー、徳を積むもんだね。



  ――翌日――

 領主を引き受けたのはいいが、さて、どこから手を付けたものか?

 まず、問題点を上げていこう。

 ①食糧不足。

 ②橋が壊れてる。


 やはり食糧不足の解消が最優先だ。

 村人たちを餓死させるわけにはいかない。

 

 とはいえ、この村は森と川に囲まれているから、唯一村と外界を結ぶ橋が壊れていては何も出来ない。

 流石に木の実とりと魚釣りで村人たちをまかなえるとは思えない。

 やはり橋を復旧するより他にないのか……。


 とりあえず、村の現状を確認しよう。

 そうすれば打開策も見えてくるはずだ。

 

「リア、この村を案内してくれないか?」

「はい! 私で良ければ喜んでご案内します、領主様♪」


 リアは、パタパタと見えない尻尾を振っているかのように嬉しそうだ。

 子供は元気だなぁ。

 元気かわいい。


「ここがみなさんが耕している農地です」

「ん? 奥の方にある土地は使われていないように見えるが……」

「あれは、先日の洪水で水浸しになってだめになった土地です……。私も麦を植えつけを手伝って大事に育てていたのに、みんな枯れてしまって……」

「なるほどな……」


 リアの紹介した耕地の、倍以上の広さの黒々とした土地からは、たしかに『死』が感じられる。

 待てよ……?

 この土地の枯れてしまった麦は死んでいるというなら、ネクロマンスすることができるのではないか?


「アレク様? どうかなさったんですか?」

「いや何、俺の力を使ってみようかなって」


 俺は自分の仮説に従い、能力を行使する。

 すると死んでいたはずの大地が再び芽吹き始める。


「わっ、わっ! すごいです! 麦がどんどん伸びてますよ!」


 俺の隣でリアが、秒速で成長する麦と同じように飛び跳ねる。


「さすがにこれは、予想外だな……」


 それはみるみるうちに黄金色の麦畑へと変わる。

 さっきまで畑を耕していた農民たちもその様子を見て、驚きの声を上げる。


「まさかあれを新領主様が!?」

「やはり、救世主様よ!」

「すげぇ、明日から飯の心配しなくて済むぞ!」

「そうと決まれば早速、収穫だ!」


 と鍬を鎌に持ち替えて収穫にかかる。


 まさか麦を生き返らせるだけでなく、収穫できるところまで一瞬で成長させるとは……。

 おまけに土まで耕地として『再生』するなんてな。

 <ネクロマンサー>――この力はもしかしたら、俺が想像しているより遥かにすごい可能性を秘めているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る