第6話 「無能領主にお灸を据えよう!」

「それにしたってリアはどうしてそんな危ない川岸にいたんだ」

「それは……、生贄だからです」

「生贄……?」


「ここ最近川の氾濫が多くて。それで領主様は『これは川の神様が怒っているんだ』って。だから神様の怒りを鎮めるために村から若くて活きのいい娘を生贄として川に投げろと」

「それで生贄にさせられたのか?」

「いえ、私が志願したんです。私が川の神様の元に召されることでみんなが幸せになるならそれでいいって、その時は思ったんです」


「今は違う、生きていたい。というわけだな」

「……はい」


「よし、いいだろう! それじゃ川の神様とやらを倒しに行こう!」

「ええっ!?」

「だってその話だと川の神様が暴れているのが悪いんじゃないか? だったらそいつを懲らしめればいいんじゃないか?」

「いや、あの、でも……」


「まあ、俺に任せておけ。助けてもらったお礼ってことで、な」


 川の神様とやら、その正体は十中八九、水生モンスターだろう。

 それをここ一帯が迷信深いのをいいことに、モンスターを放置して、生贄とかいう方法で 村々の溜飲を下げる。


 そんな無能領主許せねぇよなぁ……。


 そしてモンスターの居所も心当たりはある。

 川の氾濫を引き起こすというのなら、上流の方で不自然にため池ができているところ、水がせき止められているところがあるはずだ。


「あの、まさか一人で行かれるつもりですか?」 

「そうだが?」

「私もついてきます! これは私の問題でもあるんです!」

「いや、でも、危ないかもだし……」

「ついてきます!」

「……はい」


 たまにこの子はすごいパワーがあるな……。

 子供の探求心ってすげーなやっぱ……。

 まあ、危なくなってもこの子だけ逃がせばいいし、いいか。



「この役立たずの百姓共が!」


 リアの家を出るとなんだか村の広場の方が騒がしい。

 見に行くと不安げな顔をした村人たちが集まっている。

 そしてその輪の中心で、偉そうな小太りの男が年老いた農民を杖で叩いていた。


「村長!?」


 どうやらあれが村長らしい。

 となると杖で叩いているのが例の無能領主だな。

 リアが村長のもとに駆け寄る。


「貴様は!? どういうこだ! 生贄がどうしてまだ生きておる!」

「きゃっ!? 離してください!」


 村長を気遣うリアの手を乱暴に掴む。

 すぐに飛び出したいが、我慢だ。

 護衛の兵士が守っている。


「領主様、どうか御慈悲をくだせぇ……。この子はまだ11の子供でごぜぇますだ……。子供は村の宝、どうしてそんな小さな子どもを犠牲にできるでしょう?」

「うるさい! 若い娘を生贄するしきたりなのだ! このガキを川に投げれば洪水は収まる! 貴様らは川の神様の気が鎮まるのを祈っておれば良い!」

「後生ですだ! その子をどうか離してくだせぇ」

「やめてください! 村長を叩かないで!」


 なおも縋る村長に激しく叩く。

 領主はメタボ体質のせいか、汗がダラダラと出てる。

 デブのくせに激しく動くから……。


「黙れと言っておろう! これ以上遅れると神様から天罰が下るぞ! それでよいのか!」

「そ、それは……」


五月蝿い……、聞くに堪えんな。


「さっきから五月蝿い豚が喚いていると思ったら、家畜以下の醜悪な生き物だったか……」

「なっ、貴様! 今なんと言った!?」


 民衆を抑えていた兵士たちが不穏な雰囲気を察して、領主を守る配置につく。

 十人か、余裕だな。


「領民の命をないがしろにし、彼らが信心深いのをいいことに迷信まがいの方法をとって、根本的解決をしない。そんな無能領主は豚以下だと言ったんだ」

「き、貴様ぁ~~!!」


 領主はたちまちその脂汗まみれの顔を真っ赤にする。


「わしはべチュア辺境伯ヴィルヘルム・ホフトだぞ!」

「知るか、そんな末端貴族の名前なんて。それに……」

「農民風情が~~! おい、者共!」


 領主が兵士たちに命令する間に一番近い兵士と距離を詰め――


 「こいつを引っ捕らえよ!」


 無言の腹パン。


「ぐはっ!」


 兵士は気を失って俺にぐったりともたれかかる。

 俺はそいつから剣を奪い取り、隣で呆気にとられる敵兵の喉を掻っ切る。

 ついでに気絶したやつにも止めを刺しとく。

 まず二人。


「それに、お前の名前を思い出すことはない」


 踵を返し、領主の方に剣を向ける。


「だってお前、死ぬだろ?」


 さきほどまで沸騰したやかんのように真っ赤だった領主の顔が途端に青ざめる。


「な、なにをボーッとしておる! 殺せ! やつを今すぐ殺せぇ!」


 敵が槍で突きにかかる。


 ――遅い!

 俺は体を捻り、刺突を躱すと槍を脇に挟んで固定する。

 続いて左から切りかかってきた敵に対して、俺は槍を固定したままの脇に力を込めて槍兵の体ごと左を向く。


 敵の剣は槍兵の肩に食い込んだ。

 すっかり槍を持つ手を緩めてしまった槍兵を蹴飛ばすと、その手からやりはすっぽぬけ、後ろのやつ共々倒れ込んでしまった。


 俺は奪った槍でそいつらの首を突く。

 これで4人。


 俺の手駒となる死体を手に入れた。

 今の俺には“死”がはっきりと感じ取れる。


 こいつらはただの空っぽの器なんだと、俺の力はそう告げている。

 今からお前たちは俺の操り人形だ――。

 屍はだらしなく立ち上がった。


「ひっ!? なんだあれは!?」 


 敵兵たちはその異様な光景に腰を抜かしている。

 先程の手応えから言っても、所詮は地方領主の私兵……。

 練度なとたかが知れてる。

 結果は一方的な殺戮だった。



 さーて、あとは――


「なんだ!? 何が起こっているというのだ!? なんなんだ貴様は!?」


 この喧しい領主をどうするかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る