第3話 婚約者

 朝から色々あり過ぎた。


 何故リッチほどの魔物が、学園に迷い込んできたのか?


 何故ユイナさんが僕を知っている風だったのか?


 考えることは沢山あったけど、屋敷に戻った僕は、そのまベッドで眠ってしまった。




 ——そして朝目覚めると……僕はまたパンイチだった。


 まさかの二日連続の朝パンイチ。


 でも今日は目を開けることができた。


 口も塞がれていなかった。


 そして目の前にはユアの胸があった。


 下着姿のユアが、胸のあたりで僕の頭をぎゅっと抱きしめていたのだ。




 何でこうなった?




 夢か? 僕はまだ夢の中にいるのか?


 そんなことを考えていると、ユアの寝息が聞こえてきた。




 僕が帰ってきたのに気が付いて、ベッドに潜り込んできただけなのか。


 


 ……下着姿で。




 しかしこれは……どうしたもんだ。


 目の前にあるおっぱい。


 これを触らないとか……ありえるのだろうか?


 答えは否だ。


 触らなければならない。


 そこに『おっぱい』があるから触るのだ。


 ユアは妹だ。


 妹だが、その背徳感に打ち勝ってこそ、未来が開かれると僕は思う。


 僕の計画はこうだ。


『このまま、寝たフリをして……しれっと、ユアのおっぱいを触る』


 とてもシンプルだ。


 よし、とりあえず目を閉じよう。


 起きていることがバレた瞬間、この計画は頓挫する。


 そして僕は躊躇ためらうことなく、ユアのおっぱいを触った。






「お兄ちゃん起きてるよね?」




 ま……まさか……ユア……起きていたのか?


「ユアの身体になんて興味ないっていつも言ってなかったっけ?」


 確かにいつも言ってるけど、それは兄妹だから……本当のことなんて言えないじゃん……分かるだろ?


「ていうか……いつまで寝たフリしてるのお兄ちゃん?」


 ……これは『起きてました』って言った瞬間、色々終わるやつだ。




 つまりブラフだ。




「ていうか……いつまでユアのおっぱい触ってるのお兄ちゃん?」


 このとき僕はありえない失態を犯してしまった。


 ユアの言葉に反応しておっぱいを触っている手をピクリと動かしてしまったのだ。




「おい……ウィル」


 もはやお兄ちゃんとも呼んでくれないユア……これは観念するしかないのだろうか。


 いや……ここまできたら寝たフリを貫き通すしか僕の生きる道はない。


 むしろ僕は寝ている。僕は寝ている。僕は寝ている。




「ウィル帰ってたの!」


 ま……マジか……ニナがノックもせずに僕の部屋に入ってきた。


 ちなみにドアは閉まっていた。


 これって……普通に考えて超まずいよね?


「ウィルまだ寝てるの?」


 どうしよう……僕に時間をとめる魔法か、テレポート魔法があったらいいんだけど、そんな魔法は僕にはない。


「ウィル」


 バサーっと掛け布団が剥がされた。


 


「……」


 


 寝たフリだ。寝たフリだ。寝たフリを貫き通す。


「ウィル……ユア……あなたたち何をやっているのかな?」


 声だけで伝わるニナの怒り。


 ニナが怒る気持ちはよく分かる。


 下着姿の妹のおっぱいに顔を埋め、さらにそのおっぱいを触っている幼馴染なんて死んでしまえと思うことだろう。


「ニナ!」


 ユアがベッドを飛び出し、ニナに抱きついた。


「ユア……」


「ニナ……ウィルが無理やり嫌がるユアを……」



 ……最悪だ。



「ウィル……それは本当なの」


「違っ……そんなわけ」


 冷たく刺さるニナとユアの視線。


 しまった……思わず飛び起きてしまった。


「お兄ちゃん!」「ウィル!」




 パンイチで床に正座させられて、学校にいくギリギリまで二人にお説教を受けました。


 


 ***




 うやむやのうちに今朝は3人で学校に行くことになった。


 まず心配を掛けた2人に、逮捕された経緯、釈放逸れた経緯を話せる範囲で話しておいた。


 よく見ると2人とも目が真っ赤だ。


 一睡もしていないとはユアの談だ。


 心配で眠れなかった自分を放っておいて、ベッドに直行した僕を見て、かなり腹が立ったそうだ。


 そんな事とは知らず、目の前におっぱいがあるからといって、何のためらいもなく妹のおっぱいを触っていた自分が恥ずかしい。




 ——そして学園に着くと。


「ウィル、学園長が呼んでたぞ、すぐに学園長室に来いって」


 学園長に呼び出された。




 学園長は僕の事情を知る数少ない人物だけど……陛下同様苦手だったりする。




 ——コンコン「ウィルです」


「入るがよい」


 学園長室に入ると、学園長ともう1人見知った顔がいた。


 呼び出された時から、何となく予感はあった。


「おはようございます、ウィル」


「おはようございます、ユイナさん」


 学園長室で、昨日突然いなくなったユイナさんと再会した。


 そのおかげで随分酷い目にあったけど、それは言うまい。


 ユイナさんは今日は制服を着ているからか、昨日と随分印象が違う。


 ひとつに束ねたブロンドの髪と青い瞳。透き通るような白い肌に、まだあどけなさを残したその表情は、可愛い系か美人系かで分けると可愛い系だ。


 ……そして抜群のスタイル。


 制服姿も可愛いです。




「おや、既に二人は知り合いだったのかえ?」


 学園長は妙に古風な話し方だが、外見は20代後半の黒髪の女性だ。


 とても美しく口元にあるホクロが何とも色っぽい。


 ちなみに年齢不詳だ。


「ええ、昨日助けていただきましたので」


「あぁ、リッチの件じゃの」


「はい、学園長もご存知だったのですね」


 学園長が、学園で起こった出来事を知らないはずがない。この空間は彼女のテリトリーなのだから。


「ウィル坊の魔力がこっちに向かっておったんで、ノンビリしとった」


 おかげで、僕はムチ恐怖症になりました。


「随分、信頼されているのですね」


「そりゃ、そこのウィル坊は、王国の至宝、蒼い稲妻なんて呼ばれとる王国最強の魔法師なんじゃから。ワシなんかが行っても足手まといになるだけじゃ」


 えっ……そこもユイナさんにバラしちゃうの?


「王国の至宝……では、ウィル……やはりあなたが」


 やはりあなたが?


 ユイナさんは昨日も気になる台詞をいっていた。


『そう……あなたがウィル』と……。


 ユイナさんが何か言いたげに僕をじーっと見つめる。


「ウィル、落ち着いて聞いてくださいね」


 その瞳で見つめられたら落ち着けません。


「私は、ユイナ・ラーズです」


 ユイナ・ラーズ。



 

 ……ラーズ。




 ラーズ?


 何処かで聞いたような……。


 そうだ、確か陛下がジュリア・ラーズだ!


 うん……。



「え——————っ! もしかして姫ですか?」



「は……はい」


 陛下も聖魔法師だ。だからユイナさんは聖魔法が使えたのか……それに聖魔法師なのにノーマークってのもおかしいと思ってたんだ。


 色んな謎が一気に解けた。


 でも、とてつもなく嫌な予感がしてきた。




「ウィル」



「はい……」


「あなたもご存知とは思いますが」


 この、重いノリやっぱりそうか……。


「あなたは私の婚約者です」


 以前から陛下にそう仰せつかっていた。僕はてっきり冗談だと思っていた。


 まさか、本当だったとは……。


「それでウィル、今日の約束を伝えます」


 え……なんかいきなり。




「私をあなたの屋敷に住ませなさい」


 


「……へ」




「いや、いや、いや、ちょっと待ってくださいユイナさん! 僕にも出来る事と出来ない事がありまして……」


「ウィル、あなたのご両親は、既に承諾済みです」


 ……うわー外堀埋められた。



「嫌なのですか? 嫌なのですか? 私だって嫌なんですよ! でも……お父様が」


 涙ながらに訴えかけるユイナさん。……彼女もあの陛下に振り回されている被害者なのか。


「分かりましたね! 伝えましたよ!」


 ……父さまと母さまは、大喜びだったろうな。



「ん——……姫の世話役をウィル坊に頼もうと思っておったんじゃが……わざわざ頼む必要もなさそうじゃな」


「よろしく頼みましたよ、ウィル」


「……は、はい、ユイナさん」


「私はあなたの婚約者なのです。ユイナとお呼び下さい」


 い……いきなり姫を呼び捨てか。


「わ……わかりましたユイナ」


 婚約者ができて、一緒に住む事になった。それが王女様だなんて……ニナとユアにどう伝えればいいんだろう。


 二人のことが気になって仕方ない僕だった。



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